2
「まずは
中年の女性に
女性はそそくさとその場を離れ、キッチンでお湯を
「どこから説明するかな……」
「まず
腕組みしたまま陽彦が
「前々から気になってた。お前は他の奴が知らないことを知ってやがる。この際だから洗いざらい話せ」
「これからする話は、くれぐれも
※※※
「ワイルドハントは知っての通り、人間を
「私たちは生かされている。
「深雪、本当に
聖二の
「恨みってのは、おれたちが命がけで戦わせられてることか? けど、仕方ねえだろ。おれらは手術を受けてなきゃその時点で死んでるんだぞ」
「陽彦、君は自分で思っているよりも聞き分けがいい人間だ」
「なんだそりゃ」
「君のように思える人ばかりじゃないってことさ」
言われて、まあそういうものか、と陽彦も思う。
思えば陽彦の
「何より、それは君たちから見た視点だ。『もしもすべてのワイルドハントたちが、
「まあ、確かに。で、実際のところどうしてるんだ」
「簡単なことだ。もっと強く、かつ
聖二がカップのお茶を
「ワイルドハントの中でも、
「まるで政府の
「『ハウンド』という。
「その候補生ってのが、お前の正体か」
冷静とも怒りともつかない声が、陽彦の口から
「お前の『ポイント稼ぎ』になんの意味があったのか、ようやく分かった。ずっと知ってたんだな、降りる手段があるって」
「今まで黙っていて悪かった。だが、
陽彦の鼻がぴくぴくと動くのを、深雪は見逃さなかった。聖二の言葉の裏を読み取ろうとしているのか、あるいは彼自身の感情の揺れ動きか――やがて大きく溜め息をついて、陽彦は頭を抱えた。
「陽彦――怒っているのか?」
「分っかんねえ」
ぶんぶんとかぶりを振って答える。
「お前が悪い奴じゃねえのは知ってる。たぶん、おれたちのことを思って色々準備してたんだろうってのも分かる。けど、なんだろうな、このモヤモヤした感じ」
やはり、と聖二は思う――不良ぶっていても、陽彦は他の者たちとは違う。
自分の目は間違っていない――命を懸けてでも、この少年を守らねばならない。
「……ちょっと頭冷やしてくる」
陽彦は立ち上がると、するりと流れるように入り口の方へ抜けていった。
「待て、
「私がついていく。任せて」
カラン、コロンと小気味良いドアベルの音とともに、二人は外の風に
「あら、お昼ごはんを用意したんだけれど……」
トレイに皿料理を
「食欲ないんですって。わたし、三人分食べます!」
気まずい空気を叩き割るかのように、愛海が
「大丈夫ですよ、聖二くん。私たち、仲間じゃないですか」
「……ああ」
まるで根拠のない愛海の明るさが、今の聖二にはこの上なく
自分が三人を救ってみせる。これまでの行いに、何一つ間違いなどない。
そう信じるしかなかった。
※※※
「なあ、おれらがこうしてる間もさ、北海道でフィンブルと戦ってる奴らがいるんだよな」
風に流されるまま、
「今回の話、断るつもりでいるの?」
「いいや。受けるべきだと思うぜ。なんたって死ななくて済むんだから。実際おれたち頑張ってきたよ。他の奴らよりもずっと多く、フィンブルをぶっ殺してきた。バチなんて当たらないと思う」
どこか上の空で、陽彦は言葉を続ける。
「けど、あいつらは何も知らねえんだ。未来なんて無いんだって思いながら、すぐ近くにゴールがあることにも気付かず、死んでく。そんなのいいのかよ」
「皆が
「それでも、もう少し頑張れた奴だっていたはずだろ。ほんのちょっとした希望さえ持ててれば、親や大人を
「あいつら、おれと同じなんだ。見捨てたくねえ」
「……そうだね」
変わらないままだ、と深雪は思う。この共感こそが、陽彦の
きっとそれでいいのだ。それがいけないものだなんて、深雪も思いたくなかった。
「
「だめ」
「分かってるって」
「おれ、大人になれるのかな」
呟きは誰に届くでもなく、灰色の街に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます