〇四六 城 址
「ふぃーー、福島
「……運転してたのは俺だが。お前はずっと菓子食って寝てただけだろう?」
「気にするな。それよりもここが目的地、猪苗代城か」
車を降りて、私は
幕末、戊辰戦争で焼き払われて、その役割を終えたらしいけど、その城郭の保存状態は良好だ。
「お
でも、夜叉の浄眼を持った私の視界にはだいぶ違って見える。
違う
時間の流れ、歴史の変遷によって失くなったものも、
晴れてはいるけど、心なしか湿度が高い。しかも目に見えて城の上に雲が集まってくるみたいだ。
私たち三人は、本丸があったところを目指して砂利道を進む。幸いに人通りは少ない。
「ふぅーー、全体に妖気を感じるねえ、やっぱりこれのせいか」
ポケットをまさぐって兜の一部、
それをきっかけにして、ではないだろうけど城址全体の雰囲気が明らかに変わった。
「
「
清楽刑事も
「ああ、行く先々で出逢う羽目になる。変身ヒロインの宿命だね」
私の軽口を聞き流すわけでもないだろうけど、二人は返事代わりにそれぞれ臨戦態勢に入った。
バシュウッ!
私が左手を前に差し出すと、コートの袖を内側から破くように、黄土色の
その外見はエビみたいな甲殻類にも似てるけど、拳の部分から突起が二本丸く伸びている。遥か太古の昔に地球で繁栄した生物、アノマロカリスに酷似した姿だ。
夜叉の一族が、なぜ古代の生物アノマロカリスに似せたか? 彼らなりの遊び心なのかそれとも偶然か。なんにせよ人に近い心があるんじゃないか、そう思えてならない。
そして、私のメインの武器、
「
「OK。妖魅顕現、
私が左手を掲げると頭上10m、縦横20m四方に
一般の人間には、
『蚊帳吊り』を展開するのと同時に、地面にあった虚孔が中空に浮かぶ。そこから虚が現われた。
種類は――――
「清楽ちゃんは
「ええ」「おう」
清楽ちゃんはアタッシュケースから、
タタタタタタン タタタタタタン タタタタタタン タタタタタタン
ギィッ! ギュァアアッ!
上空でぶんぶん羽ばたいている虫型の虚に銃弾を撃ち込む。即座に何匹か地面に落ちた。
脚を動かしてもがいているところを、雪蛇刀でとどめを刺す。虚を構成している身体が煤とか鉄錆みたいに分解された。
跡には淡いオレンジ色の球体、オーブがいくつも残される。これは夜叉の浄眼を介して、力を込めた武器でないと生成されない。
「はっ!」
左手をかざすと、浄眼の水晶部分にオーブが吸い込まれた。
これを吸収すると、比喩や誇張でなく力が
と、
彼の装備は、全世界で流通してるハンドガン、バレッタM92F。急所に当てれば
通常の武器とか、打撃攻撃にかなりの耐性を持つ虚兵相手にまずまずの善戦だ。
雪のサーベル雪蛇刀を両手持ちして、
ザシュッ! ビキビキビキビキ!
「これで雪像一体完成。
「ああ」
続けて来たヴァルゲアーの腕をつかんで、背負い投げしてこちらによこした。そこをまた一突きで凍らせる。うーーん今日は雪像祭りだ!!
「六花、あっちは俺たちでは無理だ。応戦頼む!」
見ると、虚孔から2,5mはあるでかいダンゴムシ怪人、ヴァル・グラードが降りてくる。先手必勝!!
雪蛇刀の周りに強い凍気が渦を巻いて発生する。
腰を低く落とし、雪蛇刀の刃を上に向けて下段に構える。私と虚兵の間に分厚い氷の板が形成された。
ズズ…………ン!
「斬術、
ヴァル・グラードが着地した瞬間、
虚兵の身体めがけて
ヴァル・グラードの
「グッ!? グォォォォォォオオオ!!!」
それでも巨体は完全には凍りつかない。奴の頭上に一気に跳躍、脳天から兜割りを見舞う。
ザシュッ!!
ズ ズ…………ン!!
一太刀で開きになったヴァル・グラードは、半分ずつ左右に倒れた。大量のオーブが放出される。
「おっし、大漁!!」返す刀で雑魚の虚兵を倒していく。
「ふぃーーーー」
一段落して天を仰ぐ。虚兵を全て倒しオーブを吸収し終わると、空に
「どう見る?
「おそらくは様子見だろうな。お前にこの城の妖魅と契約させて、その上で宝珠を回収する肚積もりだろう」
そこまでは私も同意見だ。させないけどね。
「ふう、頂上にとーー、ちゃこ」
城址からの見晴らしはなかなかだ。江戸時代取り壊されずに、この地域一帯の統治の要になっていたというのもうなずける話だ。
子供の頃の野口英世が、友達と遊んでたっていう話だし。
……まあそんなエピソード、今はいいか。
夜叉の浄眼を本丸の天守閣があった方、空に向けて手をかざす。
かろうじて、だけど普通の人にも見えるくらいに、かつての城が半物質化して形成される。
天守閣部分から青白い霧が噴き出した。
それが凝り固まって
「あれが……亀姫……?」
「ああ、伝承とはだいぶ違うけど
瓦屋根の上で、直立してる妖魅に声をかける。
「
返事を待つまでもなかった。澄まして立っていた妖魅が、肩を怒らせてこっちを見てる。髪の毛も重力に逆らって上に
『その名を気安く呼ぶな!!
うん、挑発するつもりはなかったけど知ってて呼んだ。しっかし文字通りの怒髪天だね。
亀姫の様子が変わった。
ビキッ ビキビキビキビキビキ
身につけている十二単が、
名前は亀姫だけど、
……ずいぶん生足全開なんだな、
「はああああああああっ……!」
ダンッ!
城の瓦を割るくらい強く蹴った。弾丸みたいに一気にこっちに跳んでくる。拳も甲羅で固めてる!
ガァン!!
雪蛇刀でガードしても弾かれた!
おーー、右手がいい感じに痺れる。うーーん、攻防一体の近接戦闘タイプか。相手にとって不足なし!
ガツッ! ゴン! ダァン!
「前言撤回、不足どころか おなか一杯になるっての!
妖魅部分顕現、氷獣『
ロングコート越しに白い翼が三枚、右肩に生える。
鬼力は消費するけど、空中戦が可能になる。近接戦闘はこっちが不利になるから
城の天守閣まで上がると亀姫は瓦屋根をジャンプして上がって来た。おーおー、健脚だねーー。
「んじゃ、こっちも新しい武器、
妖魅顕現――――!」
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