〇二五 夜 行
「もし迷惑なら私が少年の家に行こうか?」
「なんか、少年がこの家に来るのそんな歓迎されてないみたいだし。
少年、親御さんとか仕事で出払ってて、今実質一人暮らしだろ? 家がダメならホテルでカンヅメとか……」
ゴホッ ゴホッ
明日に備えて座敷で夕食を囲んでいた。その矢先に急に言われて、気管にみそ汁が入った。ごはんの時に、急に変なこと言わないでほしい。
ちなみにメニューは、五徳猫と猫又が『敵に勝つ』と
気持ちは嬉しいけど、正直だいぶ重たい。
「ダメに決まってるでしょそんなの! あなたはともかく岳臣君は……!」
「なに?」
「……高校生なんだから、無断外泊はダメでしょ」
「ここはいいの?」
「保護者、っていうかおじいさまがいるから……」
「じいちゃん寄り合いだって」
こんな日に限って、おじいさまは仕事(?)で外泊している。
「
私が猫又を軽くにらむと、猫又はしゅんとする。ああ、そうじゃないんだってば。
「なにかあったら大変だから……」
「なにかって?」明らかに面白がってる。
「とにかく! 岳臣君は泊まってもいいから、変な道に引き込まないで」
「いや、涼子を困らすつもりはないんだよ。ただ、彼は非戦闘員だけど、私にとっては実質戦力だから。
涼子もだし、
「はい……」
私を思うあまり、岳臣君に厳しい猫又が折れた。
「よし、というわけだから少年、親睦を深めるためにも一緒にお風呂に……」
「りっ、かーー!」
そういうとこが信用できないんだってば。
「冗談だって。でもここのお風呂は気持ちいいねえ」
それは掛け値なしに賛成できる。普通の水道じゃなく、滝の上流から清水をパイプで流れるように施工してある。おかげで私の肌はいつもすべすべだ。
「んじゃ、晩酌もしたし、お風呂入って寝よう。少年も私の後に入って」
「あ、はい」
最近、誰が家長だか分からなくなってくるなあ。
***
ん……ああ涼子さんの家だ。今夢見てたな。で、時刻は……深夜2時か。
ふう、やっぱり何回か来ても慣れないな。
ご飯もすごい美味しかったし、布団もいつも清潔だし。
六花さんは美人だし、猫又さんは僕にちょっと当たりがきついけど、スレンダーだよな。五徳猫さんは家庭的で胸が……いやいや。
でもやっぱり涼子さんが――――でも僕が六花さんと二人きりになるのは、なんかいやみたいにしてたけど……。
まあそれはないか。多分世間一般の常識内で、若い男女が二人きりっていうのがだめってことなんだろうな。
和室の天井って、なんかあみだくじみたいに見えるよな……。僕の人生のベストの選択ってなんなんだろ……?
かさっ
すーーーー。 すーーーー。
――――え!? 涼子さん!? なんで僕の布団の中で涼子さんが寝てるんだよ!!
反射的に布団から脱出した。一方の涼子さんは――――なんか前髪が濡れておでこに貼りついてる。……寝汗?
それに、シルクのパジャマの前がはだけててすごいセクシーだ。
障子からの薄明かりで見る涼子さんの寝顔……すごいかわいいな……。唇とか薄いピンク色で、柔らかそう……。
――――すーーーー。 すーーーー。
おそるおそる手の甲を顔に近づける……息が手にかかった。
うわ、すごいくすぐったいっていうか気持ちいい。
やばい……
ドクン ドクン ドクン
ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ
――――ごくっ。
――――ミシッ ミシッ ミシッ
――――え? 足音?
――――どこですかーーーーりょうこーーさまーー。
りょぉーーこぉーーさぁーーまぁーーーー。
どこか遠くから、猫の唸り声みたいな声が響く。
ガラガラッ ピシャ――――ン
障子の向こうが青白く光って、雷が落ちた! 晴れてたよな? 外。その向こうに――――
首筋に、でかい岩杭が突き刺さったみたいに生えてる巨大な虎。
もしかして、あれが
それと、明らかに普通のと縮尺が違う、しっぽが二股の直立歩行するでかい猫二匹。それから、やっぱり立って歩いてる狐くらいある大きな
その後ろに、ぺらぺらの白くて細い手がやたらたくさん伸びてる! なんだよアレ!
……『
縁側で一列になって行進してる……百鬼夜行だ……! なんか眼が光ってるし
「りょうこさまはどこだ?」「ちかくには いる、においがするぞ……」「なにかあったら いちだいじだ」「ちかい、ちかいぞ」「さがせ、さがせ」
「ここか」ガラッ
「りょうこさま、なぜここに?」「そんなことより、ごぶじでなにより」
ふーーーー、ふーーーー。
よかった、間に合った。
妖魅たちが障子を開ける一瞬前、僕はなんとか押し入れの中に入れた。
「うん? なんだかオトコくさいぞ」「そういえばオトコくさい」「あのオトコがいないぞ」「もしやあのオトコ、りょうこさまに ふらちろうぜきを?」「だとしたらあのオトコゆるさん」「いいきかいだ、もしそうならばあのオトコ……!」
……! 思わず口を押さえて呼吸を止める。
――――ミシッ ミシッ ミシッ ミシッ ミシッ
妖魅達が座敷を回る
ぐるるるるるる ぐるるるるるる ぐるるるるるる
30分後、ようやく妖魅たちが涼子さんの周りに寝ついた。僕はまたしても、仕方なく押し入れに入ったまま寝ることになる。
なんか、天国から地獄に、一気に落とされた気分だ……。
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