〇〇五 妖 姫
――――せ。目を覚ませ、涼子――――。
不意に声が聞こえた。目を開けると辺りは薄暗い。夜明け前みたいでかなりもやがかかっている。
「……ん、んーー」
「起きたか、涼子」
どうやら私は横になってたみたい。立ち上がると、まず最初に自分の異変に気付く。
「きゃっ! なんで私、服着てないの!?」
いつの間にか全裸だった。下着もつけてない! 反射的に胸と下を腕で押さえて
つま先を見ると靴下も履いてなかった。
いや、すっぱだかで靴下だけ履いてたら、それはそれでマズいんだけど。
「目が覚めたか、涼子」
目の前にいる姿には見覚えがあった。鏡でいつも見ている『私』自身だった。それよりもなによりも――――
「なんでそっちも裸なんですか!? お願いだから服着て、っていうか着させてください!!」
いつも湯上がりに見る姿と同じだ。
吊りぎみで大きな目。通った鼻筋、桜色の唇にとがった顎、長い首。
自分でもモデルと同レベルという自覚はある、大きくて形のいい胸。くびれたウエスト。14歳くらいからライン維持に余念がない腰のライン。それから首から腰よりも長くて細い脚。しまった足首。
いや、左目の下のほくろが左右違うから、鏡越しじゃない自分の姿。
その裸の私が薄暗い空間の中で、妙に自信満々に立っていた。
気持ち胸を反らしているので、胸の先端が上を向いている(いやそこは今気にするところじゃない)。
見てるこっちが恥ずかしくなってくる。
「なんだ? 起きて早々うるさいやつだ」
パチン
『私』が指を鳴らすと、私が普段着ているブレザーの制服を瞬時に着させてもらえた。良かった、下着もちゃんと着けてる。
「では、話を始めるぞ。まず初めに――――」
「それより先に、そっちも服着てください! 裸で堂々としないで!!」
「うるさいやつだ、ここなら誰も見てないだろうに」
ぶつぶつ言いながら、私そっくりの女の子がまた指を鳴らす。瞬時に和服と袴姿になった。
腕と足には、
けど、胸の谷間とか袴の横から見える太ももとか、妙に露出が多いんですけど…………。
「私はその浄眼に宿る
今、その夜叉の浄眼が、虚神と呼ばれる、古来から我らに敵対する存在に奪われようとしている。浄眼を守りやつらを倒せ。
ちなみにこの空間は、私とお前の意思疎通を図るための疑似的なものだ。
時間は外ので言えばコンマ0,2秒くらいだ、さほどかからん。
ほらよくあるだろ、異世界転生もので、死んだ直後に連れていかれる……。
なんて言ったか、転生ルーム……か? まああれと似たようなものだ」
「…………」
なんか、この
「倒すって……私はただの女子高生です。あんな化け物を倒すどころか、戦うだなんて」
「そこは心配いらん。浄眼の力で、生身を筋肉や骨に過負荷をかけずに強化できる。
それに複数種の妖魅。浄眼で私と契約した妖怪、
そう言うと、夜叉姫と名乗った『私』はA5サイズのプリントをよこした。
見ると『夜叉の浄眼の手引き書』とあって、毛筆調で黒一色でプリントされている。
いつの間に? とかなぜプリント? とか色々ツッコみたいんですけど(左上をダブルクリップで留めてあるし)。
まあ、転生ルームと似たようなものだって言ってたし。疑似的空間だから、そこそこなんでもありなんだろうけど。
それにしても――――まあいいや、読んでみよう。
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『夜叉の浄眼の手引き書』
『夜叉の浄眼を装着して得られる能力』
・身体能力強化・守備力強化・腕力強化・脚力強化・体型維持・美肌維持
・動体視力強化・静態視力強化・視野拡大・命中率強化・攻撃回避強化
・生命力強化・精神力強化・霊的能力強化・使用武器強化
・知力、記憶力強化・信仰心強化・幸運強化・平衡感覚強化
・霊的攻撃強化・霊的攻撃耐性・体型維持・自然治癒力強化
・属性攻撃強化(水、土、風、火、金属、雷、冷気、重力、毒、光、闇、その他)
・属性攻撃耐性(水、土、風、火、金属、雷、冷気、重力、毒、光、闇、その他)
・精神攻撃強化・精神攻撃耐性・即死攻撃耐性・暗闇攻撃耐性
・毒攻撃耐性・石化攻撃耐性・狂化攻撃耐性・混乱攻撃耐性
・移動阻害攻撃耐性・体力低下攻撃耐性・不死変化攻撃耐性・美肌維持・カッパ変化攻撃耐性・その他――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…………えーーっと…………。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『妖魅の顕現、使役について』
妖魅は交渉し、意思の疎通を図ったあと、契約することで従属させて使役することが可能になる。
各妖魅によって発動する効果、消費される
(霊的なものに作用する力)に差がある。
効果が大きいものほど消費が激しいため注意すること。
『現在契約、使役できる妖魅一覧』
・
・
・
・
・ケサランパサラン――幸運を呼ぶ。
山形県鶴岡市
桐の箱に収めて
とうてい生き物には見えないが、
一年に一度しか見てはならず、禁を犯すと不幸になる。
近年、都会でもケサランパサランを見たという人があるが、そうした人たちの情報を統合すると、どうやら植物の種子のようなもののことをいっているらしい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
他にも
「あの……戦闘向けなのが、ないみたいなんですけど……」
「んん? まあ長い間放置していたから、いくらか離れたみたいだな。
まあそこは、いくつか史跡とかを巡って強力な妖魅と契約してくれ」
「他力本願? 妖魅って妖怪のことでしょ? そんな簡単に見つかるものじゃないし」
「それもそうだな。では少し捜してみようか」
夜叉姫が右手をかざすと薄暗い
風景は6つほどあったが、それぞれが私たちを中心に横に回転する。
――――ブ――――ンンン
「どうだ? 死ぬ間際に見る走馬燈を再現してみた。これで近くの妖魅がわかるぞ」
「………………うっ……」
「どうした? うずくまって。強い妖魅でもいたのか?」
「酔った……ぎぼちわぅい……」
「なんだ……だらしない……妖魅を見つけたくはな……うっ……」
夜叉姫もしゃがみこんで口を手で押さえる。あんたもか。
「ああ、いたぞ。すぐ近くにいる……うっぷ」
気持ち悪くなるくらいなら止めればいいのに。
「……え、近くにいるんですか?」
「ああ、ごく近くだ。お前もよく知っている妖魅だ。きっと力になってくれる。
そろそろ時間だ。よろしく頼むぞ」
――――パァァァァァ――――
夜叉姫はそう言うと無数の光の粒になった。
右手の甲にある水滴のような宝珠に吸い込まれる。それと同時に私の意識は再び途切れた……。
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