39. 人間は、三年もあれば成長するんだよ。

「きゃっ!」

「痛いし!」

「くっ、みんな! 持ち堪えるんだ!」


 突如放たれる十本の金の光に、ベルガとエックスが被弾したように見えた。バルクは大剣を盾にすると銀の魔石が輝き、レーザーを無効化した。魔王側の煙が晴れると、両手十本の指先からレーザーを出していた。


「そんなレーザーの出し方……聞いてないし……」


 エックスは展開したシールドごと体を貫通され、大量の出血をして倒れた。


「プラちゃん早く手当てを! ここは私が止める!」


 サヤがエックスの前に立ちはだかり、ミラーソードと鏡の魔法でレーザーを反射させた。その間にプラノが到着した。


「セラピア!」


 プラノが回復魔法を唱えると、傷が塞がり始めた。


「ありが……とう。プラノ」

「まだ喋ってはいけませんわ! 傷口が開いてしまいますの!」

「――終わらせてやろう」

「!――」


 魔王がテレポートで現れ、勇者の剣を振りかぶった。エックスは倒れながら風魔法でプラノを吹き飛ばした。


「エックス君!」

「え! この魔王は分身? 間に合えー!」


 サヤがミラーソードを向かわせたが間に合わず、魔王は剣を振り下ろした。


「……」


 剣が人の身を斬る音。エックスは死を覚悟し目をつぶっていた。しかし、新たな痛みはなく、もう一度目を開いた。


「……ジュリー……さん?」

「……」


 転移魔法で身代わりとなった偉大な魔女の背中。黒いローブの裾から大量の血が滴りだし、その場に座り込んだ。


「そんな……ありえないし……」

「らしくないな。三年前の方が強く、美しかった」

「そう言うアンタは……醜いねぇ……」

「ガランドル!」


 バルクは怒りに満ちた表情で斬りかかった。


「ふん。まさに冷静さを欠いた豪傑ごうけつ剣神けんじんか。剣士如きが粋がるな!」

「ぐわあっ!」


 剣を受けるので手一杯だった魔王だが、地面に仕掛けた設置魔法を引火させるとバルクは被弾した。


「電光石火!」


 そこにイルが高速移動で現れ、高速移動で魔王の背後を何度も斬りつけた。


「ぐッ、これでどうだ!」

「風林火山!」

「グホッ!」


 魔王は剣を片手持ちにして金レーザーを出したが、青い剣で受け流しと素早い反撃、赤い剣でガードから力強い攻撃の反撃を受けた。


「攻撃を利用する反撃。やはり圧空あっくう波動流はどうりゅうは目障りだ。ここで消えてもらう!」


 魔王が片手を空へ向けると、上空に大陸全土を覆うほどの黒の超巨大魔法陣が出現した。


「メテオライトレイン!」


 魔王が闇の最上級魔法を唱えると、空から隕石がいくつも降りだした。


「……絶体絶命」

「クックック。全員大陸ごと消してやる」

「大丈夫だよ!」


 サヤの声が聞こえると、討伐隊がいる範囲の上空を覆う白と黄色の魔法陣が出現した。


けがれを浄化する星屑ほしくずの如く、空より降り注ぐ稲妻の雨となりて――」


 さまざまな色の光がキラキラしだし、さらに上空には黒い雲が集まりだしてゴロゴロと音が鳴りだした。

 

「その場の全てを殲滅せんめつたまえ! アストラトス!」


 討伐メンバーのいる位置へ落下しようとしてた隕石の数々が上空で粉々になった。それ以外の隕石は大陸へ落下し、凄まじい音をだしながら地形を変えていく。


「闇の最上級魔法を、雷と光の合わせ技か。そしてこれほどの広範囲……忌々いまいましい」

「いまいましい? 新しい呪文?」

「……」

「――レスレクシオン!」


 遠くからプラノの声がすると、メンバーのいる広範囲に銀色の魔法陣が地面に描かれた。みるみるうちに全員の傷が回復し、倒れていたメンバーが立ち上がる姿が見えた。


「広大な範囲の瀕死状態者を回復する、最上級の治癒魔法『レスレクシオン』……三年前に使う者は存在しなかった」

「三年前三年前ってうっせェよ。魔王のくせに、過去に縛られてんじゃねェ」


 設置魔法で大ダメージを受けたバルクが、回復して歩み寄ってきた。


「人間は、三年もあれば成長するんだよ。当たり前の話だ」

「成長しても、再び過ちを犯す。美しきリキュアを守るためには不要な存在だ」

傲慢無礼ごうまんぶれい。人をなめすぎ」

「イルの言う通りだし。過ちを正す人間だっているじゃん」

「エクスくん!」


 重傷を負ったメンバーが回復を終えて集まった。


「人間どもは争いを続け、自然を破壊し、生き物を捕食し、災いをもたらす」

「生存競争なんて、モンスターにもあるじゃねェか」

「コイツに何を言っても無駄さ。考え方がモンスターだからねぇ」

「確かにネ。まるでモンスターの気持ちを代弁しているようだ」

「このままではリキュアは急速に衰退する。そこに終止符を打つのみ」

「終止符どころか連符に連符を重ねてるし。戦争を引き延ばしてるのは自分じゃん」

「哀れだな。俺たちよりも長く生きながら、人の本質を全く理解してねェ」


 バルクは大剣を地面に突き刺した。


「魔王が人類滅亡を企だてたって、必ず破綻はたんするようになってんだよ。生き物には反骨心が備わってる。無理やり力で抑え込もうとしたって、余計に反発を生む。それが、人間の歴史が途絶えない理由だ」

「人の歴史なぞ、絶滅させれば価値はない」

「それは違うネ。世界に不要なら存在することはないし、人種の多様化もしない」

「否。人間はひたすら寿命を延ばし、地位の低い者どもを争いの輪廻りんねいざなう。みにくい争いでリキュアを荒らす害虫どもは、駆除が必要だ」

「……言いてェことはよく分かった。だが、貴様がどんなに人間へ憎しみがあり、世界を守ろうとする軸があるのだとしても、人間を皆殺しにする方法は絶対に間違っている。魔王ほどの力がありながら、どうしてモンスターと人間の共存を考えられねェんだ?」

「剣士風情に何が分かる! 我の憎しみが! リキュアの痛みが!」

「剣士も魔王も関係ねェ! 貴様が魔王となって見える景色があるように、剣士だから見える景色がある! 自分が人間に絶望した過去があるんなら、どうして向き合って解決しようとしねェんだよ!」

「……否。……否、否、否、否、否、否、否、否、否否否否否否否否否ァ!」


 魔王は同じ言葉を連呼しながら、再び十本レーザーの構えに入った。


「させないよ!」


 サヤは魔王の目の前へミラーソードをテレポートさせ、巨大化して全てのレーザーを反射させた。


「グウワッ!」

「効いてるし! 反射したレーザーが当たった!」

「俺たち近接組で引きつける! その間に詠唱してくれ!」

「了解!」

「否ァ!」


 魔王は自らへ金の継続回復魔法をかけ、七本の触手を再び召喚して三人へ襲いかかった。


「バルク!」

「危ない!」

「人の可能性を! なめんなァ!」


 バルクは触手の先端へ大剣を突き刺すと、一気に割けた。


「先端部分が一番繊細みたいだネ!」


 ベルガは左腕を変形させて対戦車砲のようなロケット弾を充填じゅうてんし、向かってきた触手の先端へ打ち出した。当たった触手は爆発して一気に破裂した。


「させるかァ!」


 魔王は残った五本の触手を詠唱組へ向かわせた。


百花繚乱ひゃっかりょうらん!」


 イルはものすごいスピードで触手の先端に剣を突き刺して回った。五本の触手はあっという間に割けて無効化された。


「触手なんかで人間を止められると思うなよ!」


 バルクが魔王に斬りかかると、剣と剣がぶつかった。


「クッ、剣士如きが――!」

「視野が狭いネ。色んな意味で」


 魔王は片手を空けてレーザーを出そうとしたが、ベルガが機関銃で連射すると金色魔法の盾を展開した。


「クッ!」

疾風怒涛しっぷうどとう!」

流星雨りゅうせいう!」


 間髪を入れずバルクとイルが連続斬りをして、魔王は防ぐのに手いっぱいになった。


「こざかしい!――!」


 魔王が回転斬りをすると二人はバックステップをしたが、直後にベルガが放ったミサイルが頭上に連続で落下して爆発した。


「はァ、はァ……今のは効いたぞ……」


 煙が晴れると魔法の防御が間に合わなかったのか、金の装備に損傷があった。その魔王のいる上下に巨大な魔法陣が出現し、雷鳴が響いて空間がカラフルな光でキラキラしだした。


「アストラトス!」


 エックスの声がすると、雷と光爆発が同時に発生した。


「ぐわァ! なぜ転移ができん!」

「効いてるネ。さっきのミサイルはテレポートジャマーなのさ」

「テオスケラブノス!」


 プラノが雷の最上級魔法を発動すると、アストラトスの雷雲より上空にある雷雲から、一瞬で稲妻の束が巨大な柱のように落ちて魔王に直撃した。


「我は魔王なり! この程度では負けん!」


 魔王は気合を入れるように声を出すと、金の魔法を展開し全てかき消した。 


「物足りないみたいだから、ミサイル追加しよう!」


 ベルガが再度ミサイルを数発放ったが、魔王は全て回避した。


「効かぬわ!……ぐおッ! なんだこれは!」


 魔王は両足が動かず目線を落とすと、自分の足と地面が凍りついていることに気が付いた。


「どうカナ? フリーズミサイルとテレポートジャマーの威力は?」

「おのれおのれ! おのれェ!」

「メテオライトレイン!」


 今度はジュリーの声がすると、上空から隕石が降ってきた。


「く、くそッ! ぐわァァァァ!」


 身動きが取れない魔王は、隕石を全て受けた。一分近くも隕石が絶えず落ちてきては砕けた。


「はァ、はァ、はァ……我は……負けぬ……」


 大きく凹んだ固い地面に仰向けになり、魔王は生きていた。次には、空から赤くて熱い光を感じた。


「太陽?……まさか、あれが人間の魔法とでも言うのか!」

「シューティングデイスター!」


 上空からサヤの声がすると、ジュリーの魔法を遥かに凌ぐ大きさの火の球が、フレアのような爆発を起こしながら魔王へ向かってきた。


「サヤの奴、また魔力量を増やしたな」

「アタイが教えた段階じゃ、あそこまでの力を制御してなかったさ。やっぱりあの娘は、実戦で倍以上の力を出すタイプだね」

「ぐおおおおォォォォォー!」


 魔王は金の盾を全力で展開し、球体を受けた。強大な熱量と圧力で押しつぶされようとしている。


「くッ、前勇者の力を合わせても足りぬだと!……力が……もっと力があれば!……」

「無駄だよ。魔王がどんなに強くなったって、私たちは倒す!」

「や……めろ!……ぐおォォォー!」


 サヤは巨大化させたミラーソードを操り、上から球体を押した。すると、魔王の金の膜を破って押しつぶし、さらには大爆発を起こした。


「……」

「……」

「……やっ、たのか?」


 離れた丘に転移して身を守った一同。爆発した周辺は黒煙に包まれている。


「見えたし! サヤだ!」


 徐々に視界が戻ると、爆発でできた巨大な凹みにはまだ煙が充満している。その様子を見守るようにサヤが近くへ降り立っていた。一同はジュリーの転移魔法でサヤの近くへ移動した。


「やったネ! さすがはワイサポ界の新エースだ!」

「素晴らしいですわ! あんな大きな魔法は初めて見ましたの!」

「……」

「……サヤ?」


 サヤは凹みの中心辺りをじっと見つめ、集中している。


「……おかしい」

「え?」

「そうだねぇ。魔力のある存在が倒れた場合は何も感じないはずだけど、さっきとは違う魔力を感じるのさ」

「油断大敵。戦闘準備」


 緊張を解けないまま、煙が晴れ始めた。すると、直立する黒い影が見え始めた。


「やっぱり、生きてやがったか!」

「待ちな! 突っ込むのは危険だよ!」


 突進しようとしたバルクを、ジュリーが止めた。そして煙が晴れると、凹みの中央に立ってうつむくタクミの体が、黒く変色していた。


「まさか……これは……」


 魔王が顔を上げると、赤い目がギラっと光った。

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