38. 争いから得た幸福なんて長くは続かないし、失うものが多いだけよ。
「あら、バルクちゃんじゃないの! 相変わらず赤い髪がキュートねぇ」
「その声は、ドグラス!」
声や仕草は女性のようだが、男である。
「自分が復活したらすぐ呼びだして戦わせるなんざ、とんだパワハラ魔王だな」
「仕方ないじゃない。みんな魔王様のおかげで生き長らえてるんだから」
「『仕方ない』、のか?」
「そうね、人間同士の戦いほど醜いものはないわ。争いから得た幸福なんて長くは続かないし、失うものが多いだけよ」
「……やっぱり、おまえは敵って感じがしねェな」
「敵は敵よん。でも、あなたたちの活動がリキュアで最も重要だっていうのは分かっているわ」
「知ってたんだな。それなら一緒に魔王を――」
「それはできないわ!」
ドグラスは強く拒絶した。
「言ったでしょう? わたしたちは魔王様のおかげで生き長らえてる。生かすも殺すも魔王様次第なのよ。逆らえば即、電池を外されるように死を与えられるだけだわ」
「……なんだよそれ。タクミの体を乗っ取ったり、部下をオモチャみてェに使ってよ。神にでもなったつもりかよ」
「神になったおつもりなのよ。魔王様はリキュアの神となるために戦っているの。人間を
「元人間のくせに自分本位な考えだ。
「人間だったからこそ、人がいるべきではないって思っておられるのよ」
「人の可能性も考えずに争いを講じたって、さらなる戦争に発展するだけだ。世界を変えてェと考えるなら、全ての生物が共存する方法を追求してくしかねェだろ」
「……それが『イロアス』リーダーの、あなたが考える信念なのね?」
「ああ。信念であり、行動基準となる軸だ。間違うことがあっても、何かを成功をしたとしても、満足しねェで追求していく」
「そう……」
ドグラスはバルクの言葉を噛みしめるように目をつむった。そして、意を決したように杖を構えた。
「――さて、そろそろ始めないといけないわん」
「……いいんだな?」
「わたしに決定権はないわ。生半可な気持ちで魔王様に挑むのであれば、この場で殺してあげる」
「そうか……」
バルクは銀の魔石が埋め込まれた大剣を構えた。
「洞窟での戦いを忘れてないわよね? 手も足も出なかったはずよん」
「そんな過去の話、今とは関係ねェだろ」
「うふ、かわいい。来てごらんなさい」
「
技名の通り斬撃の嵐。しかし、ドグラスは頑丈な杖で受け流している。
「さすがの剣さばきと言ったところかしら。――グラウンドキッス!」
「くっ……」
バルクの全身には何百キロもの重力がかかり、強制的に地べたへうつぶせになった。
「結局、剣士は魔法使いに逆らえないのよ。触れられない限りね」
「……」
「――くはっ!」
大剣がドグラスのおなかを貫き、口からも血を吐いた。魔法の重力がかかっているはずのバルクは、右腕で体を支えながら左手の大剣で突きをした。
「どう……して?……」
「このために腕力を鍛えていた。動けねェフリをさせてもらった」
「なんて力……うふ、ふふふ……さすがね」
「悪いが行かせてもらう」
大剣を引き抜くとドグラスはその場に倒れ込んだ。立ち上がったバルクは、表情を緩めず魔王のもとへ歩いていった。
―*―……
「はぁ、はぁ……やるじゃないか、ガランドル」
ジュリーは全身がボロボロになりながら、息を切らしている。
「力が湧いてくる……我ながら素晴らしい」
両手を見合わせる魔王へ、ジュリーが杖を掲げると前方に魔法陣が出現した。
「この世の全てを焼き払う地獄の黒炎よ! 障壁となるものを
魔方陣の中央から黒炎砲が放射された。
「ヘルフレイムカノン!」
魔王も両手を広げ、さらに巨大な黒炎砲を放つとジュリーの魔法を押し返した。
「まさか、詠唱もなしでアタイの魔法を上回るなんて――」
驚くジュリーを黒炎砲が飲み込んだ。
「クックック。
勝ち誇る魔王を空から大きな影が覆った。黒炎砲が直撃したはずの魔女が、超巨大な火の玉を掲げ魔力を込めている。
「その程度なのはアンタさ! シューティングデイスター!」
「火の最上級魔法か。素晴らしい魔力だが、勇者の力を持つ我には無力! シューティングデイスター!」
魔王の両手から倍以上の巨大な火炎玉が生み出され、ジュリーの火炎玉とぶつかった。
「フン! 大きいからって粋がってるんじゃないよ! 魔法は制御できるかが勝負なのさ!」
ジュリーが魔力を込めると、魔王の火の玉を押し返した。
「その通りだ。力は使いこなさなければ意味がない……」
魔王は金の光を帯びた両手で火の玉に手をかけた。
「アンタはここで終わりさ! はぁあー!」
「……グ、グオォ!」
火炎玉の圧力で上半身の服が焼かれたところで、ガランドルは金の防御膜を両手から全身に広げた。
「あと、少しだ!」
「……ククク、それで終わりか?」
「なに!」
「グワァァァー!」
魔王が声を出しながら魔力を込めると、二つの火球が押し返され始めた。
「な、なんてバカげた力なんだい!」
「グワッ、ハァァァー!」
ガランドルが魔力を込めた両手で押し返すと、二つの火炎玉がジュリーへ向かってきた。
「クッ、一撃に賭けたせいで、テレポートする魔力が残ってない……」
「どうした
「アタイは……」
ジュリーの脳裏に、タクミと戦った昔の記憶がよぎった。
「アタイは世界一の魔女、ジュリクオン・フレシ・アレクトさ! 他人の体を奪わないと強くなれない大バカ者に、負けるわけがないんだよ!」
ジュリーは杖を掲げ、何重ものシールドを展開した。そこに火炎玉がぶつかると、一気にシールドが半分以下になった。
「なめるなぁー!」
「フンッ!」
魔王は自身が作りだした大きな火炎玉だけジュリーの背後に転移させ、挟み込むように操った。ジュリーは二つの火炎玉にどんどん押され、黒いローブがチリチリを燃えだした。
「ク、くそっ!」
「終わりだ!」
魔王がさらに強く念じると、二つの火球がくっついて大爆発を起こした。チュガトリンプ大陸全体から見えるほどの、巨大な爆発を起こった。
「さすがの三大魔女も、まともに受ければ生きられまい……」
爆発後の煙が徐々に収まってくると、魔王城跡の
「――しかし、魔王に立ちはだかるのはやはり勇者か」
爆発が収まると、魔王が呟きながら玉座に座った。視線の遠い先の高台には、間一髪のところでジュリーを助けたサヤがいた。
「ジュリーさん! しっかりして!」
「動かないでください! 今治療しますわ!」
プラノは回復魔法を使いながら、魔力回復ドリンクを手渡した。
「……ククク、アタイだけでは
「笑ってる場合なの? だから私が一緒に戦うって言ったのに、『まずはアタイ一人で戦わせてくれ』なんて、強がらないでよ!」
「強がって当然さ。アタイは世界一の魔女だからね」
回復を終えたジュリーは自力で立ち上がった。
「――んじゃ、そろそろ総力戦といくか」
「バルク!……本当にいいの?」
「ああ。他の仲間が戦っているのに迷う自分は許せねェ。だが、タクミを助ける方法は考える」
「……うん!」
「時には魔道具がないとネ。魔法と剣技にも限界がある」
「ベルガさん!」
「一人じゃ厳しいし、全員で攻めれば何とかなるよ!」
「……一騎当千は、一心同体に弱い」
「みんな!」
それぞれの相手を倒し終えた全員が集結した。
「仕方ないねぇ! 連携していくよ!」
「おう!」
魔力を回復したジュリーは全員をテレポートさせ、玉座の前に移動した。
「クックック、元魔王軍幹部では役不足だったか」
魔王は上半身裸で椅子に座りながら、タクミの体でふんぞり返っている。
「当然だ! 俺たちは負けるわけにいかねェんだよ!」
バルクたちは武器を構えた。するとガランドルはゆっくりと立ち上がった。
「ならば負けられぬ者同士、これからが本番だな。――ムン!」
魔王が念じると金色の兜に金色の鎧を身に着けた。金の魔石がちりばめられ、キラキラと輝いている。
「勇者の装備かい? タクミが使われないように封印してきたはずだけどねぇ?」
「……まぁ、私は上半身裸より見てられるけど」
「警戒すべきだし。装備なしでジュリーさんを追い詰めた魔王が勇者の装備をしたんだ」
「上等だ。三年もブランクがある体で、剣を使いこなせると思うなよ!」
バルクは突進しながら技のモーションに入った。
「
斬撃の連続に対し、ガランドルは確かめるように剣でガードした。
「受け方が素人だぜ! それに、タクミはそんな剣の持ち方はしねェ!」
「グォン!」
「なにっ!」
魔王がおもむろに勇者の剣を振り回すと強力な風圧が発生し、バルクは遠くへ吹っ飛ばされた。そこにイルが斬りかかった。
「
「リキュアのため、我はどんな手でも使う。元幹部である
「!――
イルは二本の剣と
「確かに速いが、決定打に欠ける」
「二人ならどうだ!
戻ってきたバルクが連撃に参加すると、魔王は何度も距離を取ろうとするがイルが先回りして受け身が途切れない。防ぎきれない攻撃を、ガランドルは何度も受けた。
「……クッ!」
「二人ともよくやったネ! 準備OKだ!」
「
イルが念じると、魔王を正四面体の圧空間の壁が包んだ。
「奥義! 土十字!」
「グオオッ!」
「ハァアッ!」
バルクが勢いよく地面に大剣を突き刺すと圧空間内の地面が吹き飛び、壁の中で反射しあって魔王を襲ったところにバルクの十字斬りが入った。さらにベルガが
左腕の機関銃から赤い銃弾を連射すると、空間内を爆発が反射し合った。
「アストラトス!」
間髪を入れずにエックスが詠唱を唱えきると天地に二つの魔法陣が出現し、正四面体内を光の爆発と稲妻が駆け巡った。
「ヘルフレイムカノン!」
「はぁぁー!」
次にジュリーの黒炎砲とサヤの金のレーザーが空間内に入り、連続反射した。一連の攻撃が終わりイルが空間の封印を解くと、煙が一気に溢れ出た。
「やったか?」
「全弾命中。圧空間からの転移は不可」
「手ごたえはあったし」
「……」
「いや! まだかも!」
薄まる煙に人影が写りだした。
「――今のは効いた。されど人の集まりには、それが限界だ!」
「全員退避だ!」
「きゃっ!」
煙の中から十本以上の金のレーザーが放たれ、六人を襲った。
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