33. 勝手に人のことを知ったかして、ケラケラ笑ってんのがムカつくって言ってんの!
「こ、これは……」
プラノとエックスは、同じ一点を見つめ
「ぬぬぬぬぬ……なんの、これしきっ!」
魔力を放つ者を吸い込むダークホール。その中に吸い込まれたはずのサヤの顔だけが飛び出し、歯を食いしばるように浮かびあがっている。
「ククク、ミラーソードは落ちていない。本当の力を見せてみな!」
ミラーソードがふらふらと浮いたり下がったりを繰り返している。追い詰める側のジュリーは、期待のまなざしを向けている。
「エックスくん! 一体何が起きていますの?」
「分からないし。ダークホールは強力な封印魔法。取り込まれかけてから自力で出ようとする人なんて見たことない」
「絶対的な闇の封印をも無効化する力――ドラゴンの腕を切断し、魔王の防御さえも貫く力さ」
「まさか、金の魔法ですの!」
「アタイはこの娘の戦いを全てモニタリングしてきた。タクミほど使いこなせていないけど、使えてしまっている」
「『使えてしまっている』? 無意識で使えるということですの?」
「言葉にすればそうなるけれど、人間の表現じゃ足りないねぇ。次元が違うのさ」
「煮え切らない話だし。結局、サヤは何がすごいの?」
「『過度な優しさは人を甘やかし、成長を遅らせる』。見てれば分かるさ」
「このくらいで……私は負けない! もっとツラいことが……今までたくさんあったから!」
「はぁあ!」
サヤがダークホールを一喝するように声を出すと、金の光が闇の穴を塞いでかき消した。そして、風魔法を使いゆっくりと二階に着地した。
「ククク……アッハッハ! 金の無効化の力! 素晴らしいじゃないか!」
ジュリーは額に手を当てて喜んでいる。
「……ムカつく」
「……何だい? その口の聞き方は?」
両者の目付きが変わり、睨み合いが始まった。まるで勇者と魔王の戦いを
「私の方が年下だし、上から目線になるのは仕方ないかもしれない。だけど、私の魔力しか見てないじゃん! 勝手に人のことを知ったかして、ケラケラ笑ってんのがムカつくって言ってんの!」
「言葉に気を付けな。アタイはバルクと違って気が短い。アンタを本気で消すことだってすぐにできるんだよ?」
ジュリーはみるみるうちに怒りの表情となり、杖を掴む手に力が入り始めた。
「だったら何で消さないの? 炎のコンボもほら穴魔法も、トドメの魔法を撃てば決着がつけられたはず。でもそれをしないってことは、私の力を探りたいだけなんでしょ?」
「生意気な娘だね! だったら終わりにしてやろうじゃないか!」
ジュリーは杖を掲げた。
「グラウンドキッス!」
「うっ……オネエ幹部と同じ魔法……それよりも重い!」
サヤはうつぶせ状態になり、屋根がミシミシと音が鳴った。キュロストストーンの効果がなければ建物を貫通して落下しているほどの重力感だ。
「異界とつながるワームホールよ! 境界を越え、盟約を交わした戦友を導きたまえ! 罪深き魂をも焼き払う魔界
「ケケー! ウィヒヒヒーン!」
複雑な古代文字がちりばめられた
「か、カッコいい! トナカイみたい!」
「感心してる場合じゃないですの! アザヴァルドは一国を焼失させるほどの力がありますわ!」
「かの者を魂ごと焼き払え! グラウンドブレイズ!」
「バフォーン!」
アザヴァルドは飛び上がりながら、サヤへ向けて相当量の青い炎を吐いた。
「くっ!」
「ヤバいし! うつぶせから避けるのは間に合わない!」
青い炎は一瞬で辺りの屋上を火の海に変えた。ジュリーやプラノたち、ギャラリーや近くで戦っていた戦士たちも回避に回った。
「サヤ!」
「む、無理だし。こんな魔法を受けてミラーソードを操れるわけが――!」
「なに!」
急にジュリーの背後からミラーソードが現れて杖を弾いた。クルクルと音をたてて杖が落下し、ジュリーが初めて焦りの表情を見せた。
「私をちゃんと見てないから、気が付かないんだよ!」
金の光を全身にまとったサヤが、青い炎の中から空へ浮かび上がってきた。
「ちぃ!」
杖を追ったジュリーは急加速し、身体ごと炎の中に入った。
「……そこまでして、勝ちたいのかな?」
「――そりゃ勝ちたいさ! しかも、あれはアタイじゃないよ!」
サヤよりもはるか上空からの声。声が聞こえたのとほぼ同時くらいに、空が赤く染まった。一行が見上げると、両手で杖を掲げたジュリーが巨大な火炎玉を放とうとしていた。
「なんで! ジュリーさんの魔力も感じたし、声も出してたし、杖に当たった音もちゃんとしたのに!」
「あれはアタイの分身、魔力を吹き込んだ幻影さ! この魔法は詠唱が長いからねぇ。召喚獣と分身を
「魔界の召喚獣よりも強大な火の最上級魔法なんて、
「……とんでもない魔力。こんなにすごい魔女がいるんだね」
「こんなに本気を出したのは魔王戦以来さ。だけど、アタイに勝つのは十年早いね! シューティングデイスター!」
巨大な火の玉が、太陽のフレアのような爆発を起こしながらサヤへ向かってきた。
(ククク! 勝った!)
「……」
(町はキュロストストーンの力でだいじょうぶ。トナカイさんの炎でも燃えなかった。問題は私とミラーソード。遠くまで転移魔法が使えないのを見抜かれてて、この大きさじゃ避けきれない。同じ魔法で対抗したいけど、詠唱の言葉を聞けてない。どうしよう……)
「サヤ!」
キュロストアレーナの方向から、聞き慣れた男の声がサヤの名前を呼んだ。
「大きさに惑わされんな! 自分の中で、一番自信がある魔法を全力でぶつけろ!」
「私の中で、一番自信がある魔法……」
「どうあがいても無駄さ! 火球が爆発すれば終わりだよ!」
サヤは金の膜をまといながら、巨大な火球に両手で触れた。押し返そうとするが全く歯が立たず、そのまま屋根に向かって押し返される。
「はぁあー!」
サヤが強く念じると全身を金の柱が包み、火球に刺さり込んだ。そしてついに、巨大な火球を貫通した。
「女子の反抗期を、なめるなぁああああー!」
「こ、これは!……」
爆発しかかった巨大火球を、金の柱が一気に包み込んだ。バルクとジュリーの脳裏にラベラタの裏山での記憶が浮かんだが、当時よりも遥かに大きな柱だった。
「はぁ、はぁ……」
サヤは力を使い果たし、膝をついた。辺りの魔法が全て消えた。
「……や、やったよサヤ! まだ勝負はついてないし!」
「いえ、勝負は決しましたわ」
「え?」
エックスが落胆しているプラノの視線をたどると、ミラーソードが横たわっていた。
「金の柱はよかったけど、ミラーソードの制御はできなかったみたいだねぇ?」
勝利した魔女が嬉しそうに、二階へ降りてきた。
「しかしキュロストじゃなかったら、まだ勝負はついていない。まったく、火属性の最上級魔法まで無効化するなんて、危険な小娘だねぇ」
「――気が済んだか? ジュリー」
バルクとイルが四人のもとへ歩み寄ると、ジュリーは満面の笑みを見せた。
「イル、そっちはどうだい?」
「……
「なんだい、負けたのかい? こっちは粗削りだけど、あと一週間あれば間に合うさ」
「
「『間に合う』? 『機は熟した』? 何の話だ?」
「魔王の完全復活まで、あと一週間なのさ」
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