28. 他人の死を願う者は悪だ! モンスターと変わらねェ!

「――はっ!」


 気が付くと、バルクは故郷ラベラタの噴水広場前に立っていた。村の男性らが集まり武装していて、その他の村人は避難しているようだ。


「ん? サヤたちまでいねェ。――おいみんな! どうしたんだ? 何があった?」


 武装した村人に声をかけたが、反応がない。


「聞いてくれ! 何でみんな集まってるんだ?――!」


 バルクは近くにいた男性二人組の真正面から声をかけたが、反応せずに目も向けない。それだけでなく、バルクはこの二人組が三年前から姿を消している奴らだと気が付いた。


「なぁ、本当にこんな田舎に魔王軍が来るのか?」


 二人組の内の一人が、もう一人に話しかけた。


「一番近くにあるアビルカの村も占領されただろ。ラベラタに来るのも時間の問題じゃないか?」

「だよなぁ。はぁ……」

「……」


 バルクは自分が置かれている状況を理解した。


(ここは三年前、魔王軍に占領される日のラベラタだ。記憶の中の世界を見せられてるだけだから、俺の声が届かねェのか。ドグラスの野郎!……)

「みんな! 聞いてくれ!」


 噴水の縁に立って、注目を集めようとする若者の声がした。赤髪ボサボサ頭に鉄の鎧を身に着け、さやに収めた鉄の大剣を背負う少年――三年前のバルクだ。


「占領されたアビルカ村から逃げてきた男性から、魔王軍がこちらに向かっているという知らせが入った!」

「なんだって!」

「本当に来るのか……」

「どうすんだよ! 俺たちの村も明け渡せってか?」

「そんな訳ねェさ! 女性や子供は非難しているし、村の傭兵たちも戦闘の用意ができている! どんな手を使ってでも、村を守り抜く!」

「よっ! さすがは剣道場の一番弟子!」

「そうだよな! 俺たちの村を好き勝手にさせてたまるか!」

「村長が王都アルクラントへ援軍を求めに行った。あの王様が民を見捨てるとは考えられねェ。だから援軍が到着するまで、みんなで何とか耐えるんだ!」

「おお、村長ナイス!」

(やめろ。勝手な期待を持たせんな……)

「でも剣道場に通ってる連中はいいけどよ。俺は剣すら握ったことがないんだぜ?」

「大丈夫だぁ! おらたち大工だってこの金槌で戦う! それぞれ使いやすい武器で戦えばいい!」

「なるほど! その手があったか!」

「……」



―*―


 場面が切り変わり、その後村が襲撃されている状況になった。木造住宅には火をつけられ、勇敢な者ほど早く殺され、臆病な者は逃げ回っている。さっきバルクが声をかけた二人組が、ゴブリンに襲われている。


「助けてくれ! 命だけは!」

「くそっ! 王都の援軍はまだなのかよ!」

「もう無理すんな! ここは俺が食い止める! 村の外に逃げろ!」

「バルク!」


 バルクはゴブリンを一撃で倒した。しかし、男性二人組は立ち止まったままだ。


「何してんだ! 早く行け!」

「……おまえのせいだ!」

「は?」

「おまえが期待させることを言わなければ、俺たちはとっくに逃げていた! こんな目に合わずに済んだんだ!」

「このガキ、何人やられたか分かってんのか! おまえが殺したんだ!」

「そんな……俺はただ、村を守りたくて――」

「グルルルル……」


 火炎を吐く巨大なトロルが、燃える住居の上から顔を出した。


「ひいっ!」

「文句は後で聞く! だから早く行ってくれ! ここは俺が戦う! うおおおお!」


 バルクは建物の屋根に飛び移り、トロルに斬りかかった。


「ふん! おまえなんか、トロルにやられちまえ!」

「死ね! この人殺しが!」


 二人組は走り去っていった。バルクは村を守るために取った行動を否定され、心がとても痛んだ。


「自分の村を守ろうとして何が悪い。先に逃げてもよかったくせに、自分の意志で村に残ったんだろうが! 大人のくせに人のせいにすんなよ! ふざけんじゃねェ!」


 バルクは怒りに身を任せて斬撃を食らわし、火炎トロルを倒した。しかし、周りにはモンスターが集まり始めた。


「他人の死を願う者は悪だ! モンスターと変わらねェ!」


 火炎ウルフや火の鳥が一斉に飛びかかってきたが、バルクは大剣でなぎ払った。


「俺は人の命を狙うモンスターを全滅させる。人の心の中にある、モンスターを含めてな!」


 バルクは次々とモンスターへ斬撃を与えていく。


「うおおおお!」


 燃え盛る村の中で、一人の青年は雄たけびをあげながらモンスターに立ち向かった。途中、さっきの二人組の悲鳴が、遠くから聞こえたような気がした。




□*■*□*■*□*■*□……


「……う、うう」

「バルクさん! 大丈夫ですか!」


 バルクの意識が戻ると、プラノが心配そうにこちらを見ている。


「ああ、大丈夫だ」


 プラノはハンカチでバルクの汗を拭いた。


「すごい汗よん、豪傑の剣神ちゃん!」

「最も嫌な思い出を見させる術だし。かなり悪趣味」

「おっほほほほほ! みんないい夢を見てるじゃないの!」


 甲冑魔導士は大きな岩に座り、高らかに笑っている。


「人の心で遊びやがって! 許さねェ!」

「いやああああああ!」


 バルクが大剣を握った時、サヤの悲鳴が響いた。


「サヤ! 大丈夫ですの!」

「いや! いやだ! いやああああああ!」

「サヤ! しっかりしろ!」

「ただの夢だし! サヤ落ち着いて!」

「夢? はぁ、はぁ……」


 呼吸を整えるサヤの汗を、プラノは別のハンカチで拭った。


「うふふ、いいもの見ちゃった! 転生人だったとはねぇ!」

「貴様の目的は何だ? 温泉を止めたあげく、サヤの正体を探るなんてな」

「あらいやだ、正当防衛じゃない? 突然襲われたから反撃しただけ。その子が勇者だって分かっても、今のわたしが何かをする予定はないわ」

「黙れ! 貴様の言葉を信じる理由もねェ!」

「質問したのに『黙れ』だなんて、失礼しちゃうわん」


 バルクは技の構えに入ったが、エックスが前に入って制止した。


「待ってバルク! ドグラスはカウンター魔法とか過去の記憶を覗いただけで、自分から攻撃はしてきてないし!」

「はぁ? 嫌な記憶を蘇らせて、攻撃じゃねェだと?」

「幻術の間に僕らを殺すこともできたはずだし。立ち去る選択肢もあったのに、この場に残って過去を覗く選択をしたんだ」

「うふ、賢い坊やね。ご両親は元気かしらん?」

「親は関係ないし。それより、元魔王軍の幹部がここで何をしてんの?」

「つれないわねぇ。ご両親とは昔のよしみなのに?」

「話を逸らさないでほしいし。親の交友関係に興味はない」

「ふふ、パパに似てかわいくないわね。ここの温泉も十分堪能たんのうしたし、わたしは行くわ。ここの温泉に栓でもして塞いだら、街で出るようになるはずよ」


 ドグラスは自分の足元に魔法陣を展開した。


「待て! おまえはなんで生きている? 三年前に死んだはずだ!」


 魔導士は甲冑の目元を開け、ニヤニヤした目を出しながら答えた。


「いずれ分かる日が来るわ。それじゃ『イロアス』さん、応援してるわね」

「なっ!――」


 得意げに話したドグラスは、どこかへ転移していった。

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