7. 星形飯店

 その後の時間は矢の如く過ぎ、相次ぐ書類仕事やらなんやらから解放されたのは二十一時を越えた頃だった。他の刑事は未だにばたばたと仕事をしていると思うと、無能扱いも悪いことばかりではないなと思えた。

 自首してきた男は被害者の友人だった大学生で北原孝雄と言った。スポーツをやっているらしい彼はガタイが良く、短く刈り込まれた髪や清潔感のある服装など、殺人事件の容疑者でなければ好青年と評価するに十分な要素を持っていた。

 彼に対する取り調べは私にとっては地獄の時間だったが、他の刑事にとっては至福の時間だったらしい。難事件解決のめどが見えたためか、普段は容疑者に辛く当たる刑事たちもまるで迷子センターに連れてこられた子供に親の特徴を聞くかのように優しく甘かった。北原はその誘導に乗るように事件についてペラペラと喋った。就職試験の面接なら満点を貰えるような回答ぶりだった。

 そして北原がしゃべったのは今日見つかった遺体のことだけではなかった。一昨日の遺体のこと、そして半年前の事件のことも克明に話したようにみえた。曰く、性欲を抑えきれなくなって女性を襲ったとかなんとか。今までの事件では自首しなかったのに今回になって急に自首したのは、現場から逃げるところを通行人に目撃され失敗したと感じたかららしい。

 その証言を受けて警部は彼を緊急逮捕した。本当にその日のうちの逮捕が必要だったのか微妙だった気がするし、半ば無理矢理だったが、それでも今日中の逮捕にこぎつけたのだった。恐らく連続殺人犯をいつまでたっても逮捕できない京都府警という烙印を免れるためにできるだけ速く「逮捕」という発表をしたかったのだろう。思惑がうまくいけば明日の朝刊には「犯人逮捕」の見出しが躍ることになるはずだ。

 結局あのあと、紫木との電話はあやふやのまま切れてしまった。あとで電話すると彼に言った気もするがこれもよく覚えていない。

 警察署最寄りの駅から電車に乗って京都駅に向かう。乗り換えのために一旦京都駅に降りるのだが、ここで私の空腹が限界に達した。家にたどり着くにはまだしばらくかかるし、帰ったところで冷蔵庫にまともな食材はない。なら駅周辺のどこかで食事をした方がいいだろう。

 黒い階段を下りバスターミナルを抜けて人のごった返す通りに出る。京都駅の周りは県庁所在地を冠する駅とは思えないほど薄暗い。駅にこそ人通りは多いが、少し外れたところに出るとぐっと減る。この駅を犯行の中心点に選んだ犯人は京都の街をよく見ていると言わざるを得ない。

 適当に歩いて駅から東に離れていくとこじんまりした中華料理屋が目に入った。看板には「星形飯店」と銘打たれており、店名通り星のマークがでかでかと描かれていた。赤地に黄色なので中国の国旗にも見える。確か中国語の「飯店」には料理屋の意味はなかったはずだが……たぶん店主が中国人ではないのだろう。

 あまり駅から離れると戻るのが面倒だし、私はここで夕食をとることに決め中に入った。店内は外から想像していたよりも混雑している。仕事帰りなのかスーツ姿の男の姿が目立ったせいで私の頭に六月のことがまたよぎりそうになる。私が眉間を押さえてスーツの残像を振り払っていると若い女性の店員が話しかけてきた。

「すいませんお客さん。今満席でして……相席ならご案内できるんですけど」

「あー……わかりました。じゃあそれでお願いします」

 さっさと食べ物にありつきたい欲求が強かったので、私は相席を承知することにした。スーツの集団の真っただ中で待つというのもあまりぞっとしなかった。すっかりスーツ恐怖症の様相だ。

 店員に案内された先の席には既にスーツの若い男が一人で座っていた。彼は読書をしていてこちらには一瞥もくれなかった。席に座りつつ本の表紙を覗いてみると『犯罪者プロファイリング入門』と大きな黒字で銘打たれている。

 本を読む男と目が合う。黒目の大きく濁った目、紫木優だった。

「……って、先生?どうしてここに?」

「……食事です」

 私が驚いてそう言うと、彼も一瞬だけ驚いた顔をして当たり前のことをいった。彼は無表情に戻った顔をすぐに困った表情に変えるときょろきょろとあたりを見回しながら本を鞄にしまった。

「刑事さんは……なぜここに?」

「食事です」

 私も当たり前の答えを返した。なんとなくおかしくなって笑う。彼はまだ困った顔のままだった。

「えっと……そうだ、どうでした捜査の方は。何かあったんでしょう?」

 突然現れた私に対して話題に窮したのか、紫木はぼんやりとした質問をぶつけてきた。手がそわそわとおしぼりを掴んだり離したりする。

「ええ、それが今日見つかった遺体の下手人を名乗る人が自首して来まして」

「ほう」

 紫木はまた驚いたように目を見開く。ちょうどいい機会なので私は彼に自首してきた犯人についてわかっていることを大まかに話し始めることにした。そうしている間にさっきの店員がお冷を持ってきたのでついでに注文を取ってもらう。セットメニューのAセット。麻婆豆腐とチャーハン、それにミニラーメンだ。


「なるほど。でも僕の仮説が覆されるような状況ではなさそうで安心しました」

「うん? どういうことですか? そういえば昼にも、よかったって言ってましたけど……」

「それはですね、簡単に言えば僕は昨日出頭してきた犯人が半年前と三日前の事件の犯人と同一人物だとは思っていないんですよ」

「え、それって……?」

 紫木の口から飛び出した言葉に私はまごついてしまう。その時、今度は店員が先に注文していたのであろう紫木の分の料理が運んできた。焼き餃子にチャーハン、ミニラーメンのBセットだ。思ったより量がある。紫木は割り箸をとると、軽く手を合わせてから料理にパクつき出した。

「同一人物じゃない? でも北原は事件のことを自白して……」

「昨日見つかった被害者を殺めた犯人ではない、とは言っていませんよ。予想ですが、北原は昨日の事件の犯人ではあるかもしれません。少なくとも無関係ではないでしょう。でも先の二件、いや未遂含めて三件でしたっけ? それらの事件に関係があるとは考えにくいです」

 ラーメンを食べながら話される彼の言葉は私の理解を進めるどころかかえって混乱を呼び起こす。どういうことだ?

「じゃあ、僕の主張を整理しながらお話しますね」

 しばらく私が黙っていると、箸をおいて紫木が続けた。

「便宜上、半年前、つまり京都通り魔殺人の第一の事件をAとします。そして三日前の事件、結城さんが亡くなった事件ですね、これをCとします。Bは刑事さんが行き合った未遂事件で、Dは昨日の事件とします」

 私は紫木の、だんだん早口になっていく説明を聞きながら慌ててメモ帳をスーツから引っ張り出した。紫木はもう食事を中断してしまい説明に注力しだしている。

「僕の考えでは、北原はDと関係があります。しかしそれ以前のAからCまでには関係がないと思います」

「うんうん……でもどうしてですか。事件現場の状況とかはほとんど同じで、同一犯にしか見えないんですけど」

「でもほんの些細な違いがありましたよね。昼に刑事さんが言っていたような違いが」

「まあ、あるにはありましたけど……でもそれがどうかしたんですか?」

 私はそう言いながら電話での紫木との会話を思い返していた。ほとんど同じだったが、しかし全く同一というわけでもなかったっけ。確か凶器の刃物と遺体の性的暴行の跡に違いがあった。

「どうしたもこうしたも、それこそ僕がDの事件とAとCの事件の犯人が同一犯ではないと考える重大な根拠なのです」

 紫木の口調は、昨日研究室でプロファイリングの説明をしていた時に似てきていた。彼は自分の推測に自信を持っているということだろうか。

「まず性的暴行の跡です。AとCにはあってDにはありませんでした」

「うん、でもそれってどういう意味が」

「これは犯人の動機に差異があることの証拠でしょう」

 私の質問に覆いかぶさるように紫木が答えた。目には生気が宿りつつあり心なしか興奮してきているように見えた。

「動機が違う?」

「はい。まずAとCですけど、性的暴行の跡があったということは多かれ少なかれ性欲が事件の動機に絡んでいるってことでしょう。いわゆる快楽殺人の類ですね。一方Dですが、それがないということはごく普通の殺人事件の範疇だということでしょう。少なくとも前二件で性的暴行をしておいて今回に限ってしなかったというのは考えにくいです。Dのときは何らかの邪魔が入ってできなかったという可能性もあるのですけど」

「は、はあ……」

 私は紫木のまくしたてる説明に圧倒されながらメモをとった。要するに動機が違うから犯人も違うはずだというのが紫木の主張なのだろう。

「それと凶器ですね。AとCでは包丁のようなものを使用している一方でDはカッターナイフでした」

「だけどそれって単なる偶然というか、調達できた刃物が違ったというだけの話じゃ」

「とんでもない!」

 私は紫木の大声に驚いてのけぞってしまう。そんなに大きな声も出せたのかと感心していると周りの客がこちらをじろじろと迷惑そうに見ているのが目に入った。紫木もそのことに気がついたのか音量を一気に落として続ける。

「今まで包丁を使ってうまくいっていたものを、より切れ味の悪そうなカッターナイフに変えるなんて犯罪者の心理からすればあり得ません。もしカッターで犯行に及んで、思ったよりも刺さらなかったりしたらどうするのですか?」

「どうするんですかって言われても……」

「とにかく、犯罪者は一度うまくいった方法を変えたがらないものなのです。失敗すれば即逮捕、連続殺人犯ならそのまま死刑もありえますからね。無駄なリスクを取ろうとはしないです。だから同一犯が刃物を変えるというのはまず考えにくいです」

「そうか……」

 私はそのこともメモに取った。空き巣にせよ車上荒らしにせよ、常習犯というのは自分なりのやり方を持っていてそれを変えたがらなかった、というのが若かりし日の交番勤務時代の経験だ。それは殺人犯でも同じということか。

 いつの間にかテーブルには私の分の料理も運ばれてきていたが、もう食事をしている場合ではなく私は話を聞き続けた。

「凶器と言えば、処分の仕方も違いますよね。AとCでは見つかりすらしなかったのに、Dでは川の中から簡単に見つかった。杜撰の一言に尽きます」

 僕ならもっとうまく捨てるのに……とでも続きそうな口調で、紫木が言った。そして止まることなくさらに説明を続ける。

「これは前に簡単に話した、FBI方式のプロファイリングの理論になるんですけど、連続殺人犯は二パターンに分けられます。秩序型と無秩序型って聞いたことありません?」

「全然」

 私は紫木の質問に即答した。今日までプロファイリングの話すら記憶の彼方だったのだ。知るはずがない。紫木は私の答えに少しもがっかりした様子を見せずに、というか私の答えをちゃんと聞いているのかも怪しい様子で続けた。

「平たく言えば秩序型はきちんと犯行の計画を立てて現場に証拠を残さないタイプ、無秩序型は逆に無計画で衝動的なタイプです。AとCはまさに秩序型の事件だったでしょう? そのせいで刑事さんたちは苦労する羽目になっているのですから」

「まあ、確かに……」

「でもDの事件はどちらかというと無秩序型に近いですよね。無秩序ってほどでもないかもしれませんが、それでも物証は出るわ目撃証言も出るわでしたから」

 私はここまでも話もメモに取ってから考える。段々彼の言う通り北原が半年前と三日前の事件の犯人ではないような気がしてきた。晶のときと同じく、口車に乗せられているだけかもしれないけど。

 でも、本当にそうだろうかと思う私もいた。彼の言うことがもっともらしく聞こえるのは私がそうあって欲しいと思っているからじゃないか? 京都の街に女性をめった刺しにするような凶悪犯が同時期に複数存在するなんてことがあり得るのだろうか。

「でも、ここまでの話って確実な証拠ではないですよね? 確かに組み合わせると同一犯である可能性が減るかもとは思いますけど、でも同一犯ではないと断言できる証拠とまでは言えませんよね」

「まあ、そうですね」

 私が恐る恐る疑問を呈してみると紫木はケロッとした口調で答え、放置されていた餃子を一つ口に入れた。

「でも同一犯ではないかもしれないという可能性が、真犯人が他にいるという仮説が、分の悪い賭けではないと思える程度の証拠ではないですか?」

 紫木がしっかりとした口調で続ける。確かに賭けと考えると決して悪い勝負ではないようにも思えた。そもそも私は今回の事件で何らかの手柄をあげないとまずい身の上だ。だったらもう手柄になり得ない、北原の取り調べや裏付け調査をするよりはより取り分の大きい目、もう1人の犯人の可能性にベットした方がいいのかもしれない。

「まあ、今後どうするかは刑事さん次第ですが……もし真犯人が他にいるという仮説にのっていただけるなら、確かめたいことがあるのですが」

 紫木はチャーハンに手をつけつつ言った。私もそれにならってチャーハンをレンゲで掬い上げた。

「うん、なんですか?」

「AとCでは、アクセサリーがなくなっていたという話でしたね……Dでもそのようなことが起こったかどうかを確かめてほしいのです」

「それも同一犯かどうかの確認に関係あるんですか?」

「はい。連続殺人犯の多くは被害者から戦利品を持ち帰ることがあります。それは被害者の身に着けていたものだったり、被害者の体の一部そのものだったりするのですけど、今回の場合はなくなったアクセサリーがそれに当たると思います」

「昨日の事件の被害者の持ち物が無くなっていなければ、同一犯じゃない傍証になる……か」

「それとこっちは真犯人を捕まえるために必要なことなのですが」

「はい?」

 紫木が急に話題を転換させたために、私は一瞬何の話かわからなかった。すぐに過去の二つの事件の真犯人を捕まえる話だと理解して、緊張して彼の言葉を待った。

「京都府内で、今回の事件と同様の殺人事件で未解決のものを探してほしいのです。僕の予想が正しいならたぶんあるはずです」

「どうしてですか?」

「連続殺人犯の多くは事件のインターバルを最初は長く持ち、次第に短くしていくという行動形態をとると言われています。例えば、一件目と二件目の間が五年あって、二件目と三件目の間は三年、四件目との間は一年というようにです。でも今回の事件群は、AとBの間隔がわずか一か月ほど、BとCの間は半年開いていますが、CとDの間は二日しか開いていません。Aをその犯人にとっての一件目と考えるとあまりにも間隔が狭すぎます」

「えーと、だから……先生の考えでは、犯人は実はもっと前に何件か事件を起こしていて、そのせいで今回の事件の間隔がやたら短くなっているってことですか?」

「そうです。話が早くて助かります」

 私に電話があった時に紫木が言った「早すぎる」は、そういう意味だったのか。私はちょっと続きが気になっていたドラマを見終えた気分で、一人で納得した。

「うーん……でもですよ、事件ごとの間隔がどのくらいあるかはわからないですけど精々長くて五年から十年くらいですよね? その間にそんな凄惨な事件があれば覚えていそうなものですけど……記憶にはないですよ?」

「それは僕も引っかかっているのですけどね。まあ僕は京都に住み始めたのがそこまで昔の話ではないですし、それを差し引いても人間の記憶なんて案外いい加減なものですけど。ともかく確認だけお願いできますか? もし見つからないようであれば、府外に視野を広げる必要があるかもしれません」

「おーけー、わかりました。なんにせよまずは確認してみます」

 二人してラーメンをすすった。既に麺は伸びてしまっていた。


 ひとしきり事件について話し終わると私と紫木は黙々と食事をした。折角同じ席に座っているのだし何か話そうかとも思ったが話題が思いつかなかった。談笑するには年齢が開きすぎているし、住んでいる世界があまりにも違った。

 同じようなことは紫木も考えていたようで、私のことを時々窺っていた。けれども結局に何も話さずにまた食事の方に戻ってしまう。人見知りらしい彼に座を温めるのを期待するのも無理な話だった。

 二人して同じくらいのタイミングで食べ終わり店を出た。店の外は街灯も少なく、京都駅の周りよりもさらに暗かった。別れの挨拶でもしようと紫木の方を向くと、彼は空を見上げてぼうっと突っ立っていた。私もつられて空を見ると星が綺麗に輝いていた。こんな中心街で見られるものだったのかと私はちょっと驚く。

「星を見ていると……なんだか自分の悩みとか心配事がちっぽけなものだって感じがしますよね」

「え、そうなんですか? 僕はそう思ったことないですけど」

 私の何のひねりもない月並みなセリフは、若い学者に一刀両断されてしまう。まあロマンチストって感じではないしな、彼。

「悩みの大きさなんて主観的なものですし、人によっては恒星よりも小さく感じられる場合があるのか……いやでも恒星よりも大きな悩みって重大すぎじゃあ……」

 大真面目な顔をして妙なことを言う紫木の姿がなんだかおかしくて、私は噴き出してしまった。怪訝そうな顔でこちらを見る紫木の姿も今の状況では滑稽なだけだった。


 翌朝、私は時間通り起きるとさっさと顔を洗ってクローゼットから仕事に使っていた「いつもの」服を取り出した。黒っぽい色の革ジャンとジーパンだ。半年ぶりに引っ張り出されたそれらはクローゼットの中の黴臭さをしっかり吸収してしまっていたが、それには目をつむる、もとい鼻をつまむことにした。

 昨日はスーツだったがそれは復職初日を考慮した結果であり、普段はむしろあんな動きにくい服装でよく捜査をするものだと思っていた。もう二日目だから遠慮はいらないだろう。私が停職になった理由の一つである服装というのはこれを指していた。とは言っても、同僚にはスタジャン刑事もいるのでそこまで致命的な理由というわけではなかった……はずだ。警官には服務規程があるけれど、刑事にどのくらい適用されるのかは実はみんなぼんやりとしか知らない。

 久々に革ジャンに袖を通すと気持ちが引き締まる思いがした。こんなラフな格好をして引き締まる私の気持ちというのもなかなかおかしなものだ。普段仕事に行っている服装であるということに負うところが大きいのだろう。ジーパンを履いていつもの恰好が完成する。革ジャンにしてもジーパンにしても、けっこうスリムに作られているので私の背の高さがさらに強調されてしまうのだが、晶を始めとする警察署の女性陣には似合っていると言われることが多いので気に入っている。図体が大きく見えること自体は刑事をやるうえで有利に働くことも多かった。

 私は玄関を出てマンションのガレージに向かう。ここに私が停職をくらったもう一つの理由が眠っていた。十一月の気温に冷やされた、コンクリ打ちっぱなしの地下室は寒かったが、かえって頭がすっきりする。

 私はガレージの隅にある、灰色のカバーをかけられた物体に近づくとそのカバーを勢いよく跳ねのける。カバーの下には真っ黒なボディの大型バイクが止まっている。停職中放置されていたので少し埃っぽいが、キーをまわすと問題なくエンジンがかかった。

「久しぶり」

 私はそうつぶやくとバイクにまたがりヘルメットを装着する。エンジン音は半年ぶりの出発を待ちきれない様子で私をせっついていうように聞こえる。

 スロットルを捻ると同時に地面を蹴りバイクを発進させる。体が前へ進む独特な浮遊感があってから、私は地下から広々とした路上へと吐き出された。

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