β29 第1部 エピローグ

 ――この流れ星を見た時。


 二人は共に、可愛い笑顔の赤ちゃんを胸に去来する。

 お客様がざわめくガーデンパーティーだったが、静かになった気がした。

 どちらからともなく、目が合う。


「可愛い赤ちゃんだね。玲、見えた?」


 グラスを持つ手を震わせて、歓喜に溢れる。

 美舞の笑顔を見て、玲は綺麗になったと思った。


「うん、可愛い」


 玲の十二ミリある睫毛を伏せる。


「男の子かな? 女の子かな?」


「美舞にそっくりだよ。だから、女の子に決まり」


 でれでれだよ、二人とも。


「え。僕は、女の子らしくないよ」


 先程のキスもあり、又、顔を赤くしてしまった。


「十分、女の子だよ。可愛い奥さん。お嫁さん、妻。何て呼ぼうか」


「何でもいいけれども」


 本当は、マイハニーとか妄想していた美舞だが、言い出せなかった。


「おーい、妻。お茶を」


 家族の居なくなってしまった玲には、嬉しい事この上ない。

 お茶一つ一緒にできる相手がいると言うことが、とてもありがたいと思っている。


「何その小芝居」


 美舞は、恥ずかしかった。


「あ、敢えて一つ選ぶなら。つ、妻。かな?」


 耳たぶをつまんで、なかった事にしたい。


「いいね、妻。いいねー!」


 玲は、何か、ノリノリ。


「あ、玲君、お酒入っている?」


「いいえ、俺は、飲んでましぇん」


 そっぽを向いて、持っているグラスを傾けた。


「お酒臭いよ」


 鼻をつまみたい気分だ。


「今日からは、玲って呼んでください」


 ビッと頭を下げた。


「は、はい。んー。玲。玲、これでいいかな」


「ふふふ」


 にやにやといい顔をしている酔っ払いに、困ったものだと、美舞もアルコールを取りたくなる。

 

「でさ。一人娘になるのかな、僕みたいに。大変だよ」


 まあ、あらゆる意味で。


「そりゃあ、大変だろう。美舞みたいに、お転婆では。なあ」


「うーん、結婚式にそんな事言わないでよ」


 美舞も多少の自覚があるようだ。


「さて、美舞、我が子の運命は大丈夫かな? アレの話」


 そう、痣と、カルキだ。


「強い運命を持っていると思うよ。でも、アレの話は、もう、終わったよ」


 二人は生まれ来る新しい命に願いを掛けていた。

 運命とは、恐いものだが、それを克己する力を持って欲しいと。


「体を使って闘えと言う訳ではない。心で勝てる人になれる様に、俺達が親となってがんばる。それに尽きないか」


「うん。酔っ払いもいい男になっているね」


 玲からコツンと小突かれた。


「もう、闘いは終わった筈なのだがね。心配はしている」


「手には、五芒星や六芒星の痣はあるのかな。僕も、心配しているよ」


 自身の弱さに負けない子に育つ様に、二人は育てたいと思う。

 振り返り、考えた。

 これが、強さよりも毅さを兼ね備えた人の真なる意味だ。


「不思議な力は、ないに越した事はないな」


「そうだね」


 二人は、ふと、物思いに耽った……。

 静かに静かに、長い間。

 そして、夜空を振り仰ぐ。


 ――流星の行く末を案じて。


     【第1部 醒なる美舞 完】

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