β25 仇討☆ワタシは醒なる美舞だ・前
1
「実は、個人的に、こちらに来ても調べていました。八重桜が綺麗な所があるのですが、どうやら、私はそこに不思議な気を感じるのです」
玲が口火を切った。
玲の父、葉慈が殺されたのだ。
熱さは人一倍ある。
「あ、あの桜? この間の徳乃川神宮の森で見た……!」
美舞がはっとして玲に訊いた。
「はい、そうです」
玲が言い掛けると、ウルフが口を挟んだ。
「この間のって……。何だい?」
眉間に皺を寄せて眉をぴくつかせ、玲の顔に己の顔を近付けた。
「おデートにでも行ったのかい?」
玲には強くも出られるウルフの震えが止まらない。
しっかりと目を合わせてやった。
「俺は、真面目な話しかしません」
ビッと詰まらない話を断られた可哀想なウルフ。
「やめなさいよ、ウルフ」
ガーン。
「わかったよ。マリア。ぶつぶつ」
マリアにまで追い打ちを掛けられ、渋々パパウルフを一時休止した。
「ぶつぶつ煩いと、怖いわよ。ウルフ」
マリアが左手の拳をポキリポキリと鳴らす。
もう既に、ウルフは怖かった。
「よし、行ってみよう。四人で。これは、傭兵とは違う形になるだろう。知っての通り、特殊な力が要る。皆、動き易い服に着替えて。そして、手袋は、両手にしてくれ」
シャラン。
シャラン。
さっと身支度をした後で、皆、玄関から出た。
そして、美舞、玲、ウルフ、マリアが揃った時に、合図をして、声を合わせる。
「いざ……!」
ウルフの掛け声で、一気に徳乃川神宮の森に辿り着いた。
皆足が速い。
「おかしいですね。この間とは違いますね。今なら、寧ろ、美舞さんを神が憑依した時と同じ気を感じます」
玲の勘も研ぎ澄まされていた。
「僕も、今なら分かるよ。この間はなかった気だ」
美舞も同意し、ある物を見つけた。
「特にあの八重桜……!」
美舞がそう言うと、突然に、その目立つ花盛りの大きな八重桜が、勢いよく散って行く。
ブワアア……。
先ず、一枚の花弁から異形のモノが現れた。
茶色でグニャリグニャリとしている。
そのモノは魔のモノと思われた。
額に六芒星がある。
――吾は木のモノだ。
「テレパシーか。魔のモノでもやるもんだな」
美舞が、挑発する。
木のモノに続いて、又一片から、異形のモノが現れた。
思った通り、魔のモノだ。
――吾は火のモノだ。
赤くて、ボウッボウッと煩くしている。
――吾は月のモノだ。
又、一片散り、魔の異形のモノが現れた。
黄色で、平たい円で、少し眩しく光っている。
――吾は金のモノだ。
今度は雰囲気が変わる。
一片落ちる際に不思議なモノに変化した。
そのモノは聖なるモノと思われる。
額に五芒星が印されていた。
光っていて、よく見えず、キイーンと言う音が耳に障った。
続けざまに一片から変化した。
そのモノも聖なるモノだ。
半透明でビシャリビシャリと煩いリズムを取っている。
――吾は水のモノだ。
もう一片から変化したモノも又聖なるモノだ。
これが、一番眩しかった。
形は、分からなかった。
――吾は日のモノなり。
2
「分かったよ。僕の考えだけどね、どうやら気から察するに位の低い順に登場したらしいね。魔のモノが、木、火、月の三つで、聖のモノが、金、水、日の三つだろう」
バンッババンッ。
美舞達四人の前に、聖魔が六つ、立ちはだかった。
そのモノ達は、魔のモノや聖のモノと呼ばれながらも、臭気の様に闘気がムンムンとしている。
「行くわよ」
マリアが先制を放った。
さっと、左手の黒い革手袋を外す。
カッ。
シャーアー。
ドカッ。
左の掌に気を込めて、木のモノに聖なる光球を与えた。
一直線に木のモノに当たり、一時は木のモノを斃したと思えたが、それは甘かった。
――吾を見くびるな。
言うなり、木のモノは蔦をマリアに絡めた。
グルングルルルアー。
「はああ! うう。こ、この位」
カッ。
再び、左の掌を光らせると食い千切る様に蔦から逃れた。
しかし、魔のモノの攻撃は続く。
――火の業火。
ボウッボウッボボウッ。
火のモノが、マリアの体躯を取り巻く様に焼き尽くそうとした。
「うああ!」
左の腕でクロスを描き火を払ったが、その痛手は酷く、火傷をあちらこちらにしてしまった。
そのマリアを背にして闘っていたのは、ウルフだった。
――吾の力も受けよ。
金のモノが聖なるモノの一番を名乗り出た。
「ここは私に任せなさい。」
ウルフは受けて立った。
シュアア、シュアア。
聖なる力が込められた金粉の様なものが吹雪の如く降り注ぎ、ウルフは窒息しかかった。
「ん、んぐう……」
カッ。
スウウー。
右の掌を光らせた。
その手で口を覆うとウルフの口から入った金粉の様なものは、右手の力で、虚数空間に吸い込まれて行った。
そして、手で体の周りに円を描き、次々と金粉の様なものを取り除く。
「こ、この位ではまだまだ」
そう言いつつもウルフのダメージは強かった。
足をよろめかせる。
――水の矢。
スシャアシャアアスシャアシャアア。
数々の水の矢の様なものがウルフを攻撃した。
半分程は躱せたが、半分は体躯のあちらこちらに当たっている。
「うおうお、水なのに熱い!」
流石のウルフも倒れそうになったが、何とか持ち堪えていた。
兵のウルフとマリアをもってしても苦戦を強いられる。
傭兵の頃とは全く闘い方が違う。
しかし、この二人は困難にあっても挫けやしなかった。
3
ウルフとマリアは、手玉に取られている。
一方、六つのモノは皆どろどろどろろと音を立てて大首絵の様に迫って来た。
玲を一視したて煩くなる。
――裏切りモノの土のモノめ!
ボウッボウッ。
火のモノがケタケタと笑い、炎を飛ばした。
ババッ。
玲は、素早く片手を地に付けて回転し、躱した。
――土方玲、そなたの父、土方葉慈を殺したのは吾らなり。
ザーンッザーンッ。
月のモノが強い影を与えた。
玲はその場で金縛りにあってしまった。
口も利けない状態になり、蝋人形の様になっている。
「どうしたの? 玲君!」
美舞はマリアとウルフに応戦しようと思っていた所だったが、玲の異様さに気が付いて、踵を返して近付こうとした。
しかし、六つのモノの視線は美舞にも向けられ、行く手を阻まれた。
――土のモノは、聖なるモノから魔なるモノに堕ちて行き、又、吾らを裏切り、“人”と同衾した。
口々に聞こえるが、テレパシーで谺している。
木のモノが、美舞や玲やマリアやウルフの四人に、起こした仕業だ。
ボウッボウッボッ。
ザーンッ。
火のモノは、四人の足元に大きな炎の輪を作り、月のモノは又強い影を放ち四人共金縛りにした。
魔のモノの得意技の様だった。
ゴオーンッダンッ。
金のモノは大きな金の斧に襲われる幻覚を起こす。
サアーサアーサアー。
水のモノは火の輪の周囲に果てしない湖を作った。
サッギラーッ。
日のモノが一旦頗る眩しい閃光を与える。
ズザアアウ……。
そして、月のモノと日のモノが同意して、とうとう日光を消し去った。
皆既日食を人工的に引き起こすとは、この場の誰も想像できない事だ。
これが魔なるモノと聖なるモノの力だ。
――マリア、お前は私の娘だった。聖なる娘、マリア……。
日のモノが泣き咽ぶ様に言う。
――ウルフ、お前は私の息子だった。魔の息子、ウルフ……。
月のモノが冷徹な声で言い放った。
――美舞、お前は運命の子。吾らが捜していた運命の子。聖でも魔でもない。……では何ぞ?
日のモノと月のモノが口を揃えた。
――では、何ぞ?
再び、日のモノと月のモノがユニゾンする。
――では、何ぞ?
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