β26 仇討☆ワタシは醒なる美舞だ・後

   4


 美舞は自我がホワイトアウトしていた。

 美舞には分からないが、虚数空間にいる。


「ぼ、僕は……。何ぞ?」


 自分と対話していた。


「僕は誰って事だよね? 僕は一体誰なんだろう」


 じっとしているだけに見えて、かなりセルフコントロールに努めていた。


「僕はマリアとウルフの子。聖と魔のハーフ。両の掌に五芒星と六芒星の痣を持つ秘密がある」


 暫くその秘密の重みに圧されていたが、はっと気が付く。


「その前に母さんが父さんを愛して産んでくれた人間じゃないか!」


 美舞は、心に強く念じた。

 自分を知る事は、強くなる第一歩だと。


「僕は――。そうだ。玲君と手を繋いで神になった事があったっけ」


 次第にホワイトノイズが聞こえ出す。


「何? 聞いた声がする。誰だろう? あたたかい。とてもあたたかい」


 落ち着いて来た。


「トクン……。トクン……」


 美舞は最後まで克己している。


「美舞……」


 マリアの声だ。


「母さん……」


「大切な美舞……」


 ウルフの声だ。


「父さん……」


「愛しているよ、美舞……」


 玲の声だ。

 聞けば、涙脆さを晒してしまいそうだったが、美舞は我慢する。


「大切な人……」


 美舞の瞳が、魔なるモノと聖なるモノの力、金縛りや幻覚を破り、桜の花が開く様に目覚めた。

 “大切な愛”を感じた美舞のエネルギーは今までにない莫大なものだ。

 美舞に宿る自然の力と愛の力が、心の奥底から生まれて来た。

 マリアがウルフの子として宿されて約十月、そして産声を上げて生まれて最初に肺に溜めた空気、それを一気に吐き出した。


「はああ! ああああ……!」


 美舞の左手の聖なる印、五芒星の痣が光芒を放った!

 美舞の右手の魔なる印、六芒星の痣が光芒を放った!


「僕は、マリアとウルフの愛の結晶、三浦美舞だ!」


 スーッ。


「五芒星よ! 僕に力を!」


 肩の高さに左手を前に伸ばした。

 スーッ


「六芒星よ! 僕に力を!」


 右手を前に伸ばす。

 そして、掌を重ねた!

 両の光芒が重なる時が今だ!

 美舞は、少し頬を染めて、本当を叫んだ。


「そして、土方玲を愛している……! その力を!」


   5


 ド。

 ド、ド。

 ド、ド、ド。

 ド、ド、ド、ド。

 ド、ド、ド、ド、ド。

 ド、ド、ド、ド、ド、ド。

 怒涛の様な振動波が、果てしない火の輪を破り、湖一杯を走破する。

 四人の金縛りが解けた。

 見ると、木のモノは、ムンクが耳を押さえて叫んだ様な洞を胴体の真ん中に開けて枯れ果てた。

 四人が各々見ていた金の斧の幻覚も消える。

 金のモノは、白金耳の様に小さく丸まって焼けて消滅した。

 それを見た火のモノは、面白がって狂った様に木のモノを燃やし金のモノを熱している。

 それを見ていた水のモノも可笑しな磁石の様に、火のモノに取り憑いて火のモノを消してしまった。

 同時に木のモノも金のモノも消える。

 そして、水のモノ自身、火のモノを消すと蒸気すら残らなくなった。


「日よ、大地を照らせ! 月よ別てよ!」


 美舞が、光芒の一筋を月のモノ日のモノに向けて当てた。

 すると、宇宙船から見る地球の夜明けの様に、月と日が別ち、光の小さな塊を作ったかと思うと、日輪が翳し出し、金環食になり、とうとう皆既日食を終わらせられた。

 大地は、素晴らしく神々しい陽射しに溢れ出す。

 地球一杯を照らされ、美舞や玲やマリアやウルフの四人は歓喜に満ちていた。


「美舞……!」


 三人が駆け寄って来て美舞を抱き締める。

 美舞の体は、沸騰したかの様に、熱かった。


   6


 一方、木田洋次、火野光輝、月代夕矢、金山柔一、水城猛威、日下部涼夏、彼ら空手部員六名は、徳乃川神宮の森で、各々失神していたそうだ。

 しかし、それは、後に分かった事だった。

 いつでも、刺客を送れる様にしていたのか。

 それは、聖魔の依代として、彼らは使われていたのか。

 彼らに記憶がなくては、今は、もう分からない。

 土方玲は、この様な運命の中で、父、葉慈を失った。


「皆さん、父、土方葉慈の為に、尽力なさってくださり、誠にありがとうございます」


 玲は、深々と、ウルフに一礼、マリアに一礼、そして、美舞に一礼した。


「これからは、お母さんみたいに思ってね」


 ウルフは、マリアの爆弾発言に、動揺した。


「そう言うのは、まだ、早いから」


 いい大人が、両手をぱたぱたと振った。


「はは、あははは」


 美舞が笑う。


「うふふ、ふふふふ」


 マリアも笑った。


「くくっ。ははは」


 玲さえ笑うとは。


「笑うしかないな。ははは」


 ウルフは、目を細めた。

 はっはは……。

 笑い声が谺する。

 それが、どんなにか大切な事か胸に刻み込もうと、美舞は思った。

 大切な人の笑顔をこれからも信じて守りたい。

 美舞は誓った。

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