β24 殺害の真相☆奇異なる死因に背後から

   1


 美舞は、玲によって手厚く看護された。

 美舞の部屋に入るのは憚られ、体躯はリビングのソファーに横たえられていた。

 白いシャツは、何故か雷を浴びた筈だが、焦げていない。

 そのシャツを開襟した。


「俺の不注意だった……!」


 玲は右手を掲げ、左手で自身の右手の手首を握り締めた。

 シャラン。

 シャラン。

 三浦家のベルが鳴った。

 美舞の両親が、その晩遅く帰って来た。


「美舞! どうしたんだ」


 美舞の父、ウルフが先ず駆け寄って顔を覗き込む。


「ウルフ、大丈夫みたいよ」


 美舞の母、マリアがウルフの横に来て冷静に見ていた。

 そして、自分の利き手でない右手でウルフの同じく痣のない手を取る。

 マリアが美舞の胸の上に翳して気を与えると、美舞は目を覚ました。


「あれ? 僕、どうしてここに」


 美舞が美舞に戻る。

 生きていた事に感謝し、玲は胸を撫で下ろした。


「うん、でも何ともないみたいだけど」


 美舞は、静かにソファーに座る。

 玲は傍に付き添った。

 ウルフとマリアは向いに腰掛ける。


「気を失っていたんだ。それからの事、自分が語った事は、両の手の痣に訊いてみるといい」


 玲はきっと何かある筈だと確信があった。

 ウルフとマリアも見守る。


「はっ。そうなんだ……。うん、うん」


 美舞は、玲の言葉に素直に従い、自分と会話をする。


「父さん、母さん、僕は神になっていたみたいだ。それもただならぬ神の様な」


 そして、自分が語ったジーンアブダクションと神のカルマについて語り出す。

 美舞の両親は真剣に聞いていた。


「分かったよ、美舞」


 ウルフも涙ながらに聞いていた。

 娘がこんな辛い目に会うとは、父以上に辛い。


「そうね、ウルフ」


 マリアも勿論心配ではあったが、若い頃とは違い落ち着いて聞いていた。


   2


「そうだ、玲君、大切な話がある」


 いつになく真剣な顔のウルフだ。


「言い難いが、君の父、土方葉慈は殺されたと分かった」


 膝の上で手を組み、玲の表情を見つめていた。


「何が、優しい父の何がいけなかったのでしょうか」


 あの怜悧な玲が、衝撃を隠さなかった。

 ウルフもそれを見て、自分も苦しくなる。

 戦友だ。

 戦場で刎頸ふんけいの交わりとも言うべき絆がある。


「くっ……。悔しいです」


 正直な感想を伝えた。

 母も他界してしまっていたから、もう玲には親はいない。

 しかも、見知らぬ犯人に、理由もなく殺されたと聞いて、涙も出ない。


「分かるよ」


 ウルフが宥めた。

 気持ちを穏やかにさせようと肩を抱く。


「一体、誰がどうやって父を殺めたんだ」


 玲が真相を知りたいのは、至極の事だ。


「それが、聖魔なんだ。聖魔の仕業なんだ。いや、神も関わっているのかも知れない」


 葉慈の事は、マリアはウルフの口から語らせてあげたいと控えている。


「どうして、殺人だと分かったのですか? 私には分かりませんでした」


 玲は、縋る様な目つきで、第二の父とも感じ取れる司狼に伺った。


「葉慈の場合、司法解剖されたそうだね。我々が、コネを使ってそのデータを見せて貰った」


 経緯を簡潔に語り出す。

 話が長引いては玲も辛かろうとの配慮だ。


「どうだったのですか?」


 父が大好きだった玲の事だ。

 懐に秘めてある小さな尊影を胸の上から抱いた。


「遺伝子が全て核から抜かれていたのだよ。解剖して、念の為電気泳動をしたデータには、下の方にカスすら流れて来なかったらしい」


 意外な死因をウルフが述べたので、玲は混乱した。


「馬鹿な!」

「嘘だよ!」


 美舞と玲が、声を揃えた。

 高校生にだって、あり得ない事だと分かる奇妙な出来事だ。


   3


「こんな仕業をするのは、人間、いや、人類には出来ない。きっと聖魔が絡んでいるに違いない!」


 異常な死に方が分かった時に、真っ先に憤りを隠せなかったのは、ウルフだ。

 死因がおぞましく、さぞ辛かったろう。


「自分の運命は享受できる。だが、葉慈だけは……。あんな事になるなんて」


 立ち上がって、右手を震わせた。


「母さんも聖魔が絡んでいると思うわ」


 左手の革手袋を引き締めて立ち上がる。


「父さん、母さん。それじゃあ、僕も黙っていられないよ」


 美舞もギラついた瞳で立ちあがった。

 仄かに両の手の痣に紫煙が認められる。


「……そうですね」


 玲も立ち上がった。


「美舞、同意すると思ったよ」


 ウルフが玲の瞳を見つめた。


「土方玲君。君は、右手に痣はないが、力を消失する力を携えているそうだね。葉慈の日記で分かったのだよ」


 玲は、頷いた。


「ウルフ、決まりね」


 マリアが、好戦的な顔でアルカイックに笑みを作る。


「四人で真相を暴きに行きますか」


 皆に答えを訊くまでもないが、ウルフがマリアと同じ表情で笑った。


「報復なんて汚い事かも知れない。でも美舞も狙われている現状、相手の事を知るのは大切な事だ」


 ウルフがリーダーになって纏める。


「僕は、勿論闘うよ」


 美舞。


「父の仇。仇討させて戴きます」


 玲。


「皆、気を付けて行くのよ」


 マリア。


「OK! OK、OKよ……!」


 こうして四人のつわものが揃った。

 いざ……!

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