第50話 三位一体
「イヤぁ! 死んじゃった、たくさん、死んじゃった……! やっと月から抜け出せて、救われたはずだったのに!!」
「カグヤ……!」
カグヤの同胞、ルナリアン達が暮らしていたスペースコロニーが破壊される様を映したモニターが照らす、暗い室内。2段ベッドの下段で、泣きじゃくるカグヤを抱きしめる。裸の肌がふれ合い、震えが伝わってくる。僕の首筋に、カグヤの流した涙が
「アタシのせいなの?」
「そんなこと──」
「アースリングから力ずくでコロニーを奪ったから? 戦争に勝つために大勢殺したから?」
それは、そうだ、としか言えない。
そんな言葉を、カグヤに言えない。
「でも、ああするしかなかった! アースリングはアタシ達を月に閉じ込めて、
「いいんだ、君は間違ってない!!」
元はと言えば、アースリングがルナリアンを虐げたのが悪いのは間違いない。しかし、だからといってルナリアンに大切な何かを奪われたアースリングが納得するはずもない。
やられたから。
やり返しての。
繰り返し。
「カグヤ、すまない!!」
それまで側で黙っていたつば姉が、カグヤへ土下座した。長い黒髪がベッドの上に乱れて広がり、白いうなじと背中が
なりふり構わない
「わたしの責任だ、ルナリアン
「謝るな!!」
カグヤの一喝に、つば姉が押し黙る。
「知ってる。アンタはあの日、
「カグ、ヤ……!」
「う、うぅ……!」
「「うわあぁぁぁぁぁっ!!」」
2人は抱き合って。
声を上げて泣いた。
僕はその上から、2人を抱きしめた。
2人は互いを許し合えた。トップ同士和解したからといって、アースリングとルナリアン全体がすぐそうなる訳じゃない。それでもこれは、そうなるための──
確かな、一歩だ。
◆◇◆◇◆
宇宙海賊船
──中央作戦室。
学校の視聴覚室くらいの直方体の空間に、この船の幹部が整列している。無重力区内で体を固定するため、床とその少し上を水平に渡る棒との隙間に爪先を入れて。
皆、黒の宇宙服に白い
僕────
カグヤ──月の女王、
つば姉──地球の女王、
僕達3人も部外者ながら会議に招かれ、ここにいる。
「状況を説明するよ!」
モニター前に立つ赤髪の美女。左眼に眼帯、
ビューティ=ヴァーミリオン
と名乗るこの人は、国連軍時代は副長を務めていた
「
3年前まで僕が住んでいたスペースコロニー
小惑星からなる要塞部。
それが。
地球軍──地球連合王国軍によって要塞部は陥落し。都市がある
中にいた人の生存は、絶望的。
「昨日、
対照的だな……
「女王様がさらわれたのは地球軍も同じなのにねぇ。
「我が軍には兵の動揺を
アーカディアンで、僕達とギルド・クロスロードで一緒だったプレイヤー。カグヤにとっては第1回世界大会・団体の部でチーム・ホリゾンタルの仲間としても一緒だった。
どんなに負けても常に楽しむことを忘れないエンジョイ勢。僕が昔、戦績を気にして楽しめなくなった時、
あの
「あの人かい。第3次世界大戦中はアタイとユキちゃんがいた民間軍事会社、アルカディアの社長だった。彼の優秀さは良~く知ってるよ」
ユキちゃん──前艦長の
「はい。軍事だけでなく政治・経済、多方面に明るく人脈も豊富──地球連合王国は事実上、彼が作り上げました。女王と言ってもわたしは客寄せパンダに過ぎません」
「どっかで聞いた話だねぇ」
確かに
「
「はい。それと、恐怖です。一度地球に巨大隕石を落としたルナリアンがいつまた同じことをするかわからない。奴等が宇宙にいる限り安心できない。その不安から逃れるためには1人残らず滅ぼすしかないと、我が軍は全てのコロニーの破壊を計画しました」
「なんてこった……」
彼女が宇宙で接してきた、仕事や観光で宇宙に上がってくるルナリア王国内のアースリングは、ルナリアンに不満はあっても地球連合王国の人ほど先鋭化してはいなかったのだろう。だから今回の事態を予見できなかった。
それは僕も同じだ。
僕がいた辺りでは少ない富を巡って争い、支配者でハズレを引くと悲惨な目に遭う暮らしに疲れ、まともな統治をしてくれるならルナリア王国でもいいという空気も広がっていた。地球連合王国とは温度差を感じる。
全体が1つの考えに染まるなんて、そうそうないってことだ。
「ウィーラー
「いえ。
「──てことは、アンタはルナリアンを皆殺しにしたい?」
「いいえ。わたしはカグヤさえ殺せればよかった。ですがその目的のためなら他のルナリアンを殺すことも
誰かが息を飲み込んだ気配。
室内の緊張が高まっている。
「アタシゃ
その人達を守るのが宇宙海賊の仕事だ。
「知っていました。承知の上で、
「それ言っちゃう。戦争やってるとそうなるか──よし! 野郎共、地球軍がどういう連中かは聞いての通りだ! アタイ等は宇宙にいるアースリングを守んのが仕事。同業者にも声かけて地球軍にカチコミかけるよ!! いいね!?」
「「イエス、マム!!」」
「──てのが、アタイ等の方針。で? アンタ達はこれからどーすんだい?」
まるで、世間話のように尋ねてくる。
それはもう、3人で相談して決めた。
◆◇◆◇◆
「
出た。一人称〝
カグヤの女王様モード。
「戦術目標は皆様と同じ〝地球軍による虐殺を阻止する〟──その上で、できる限りの言葉を投げかけます。
「わたしは地球連合王国軍へ」
「何て言うんだい?」
「「アキラとの仲を認めてください、と」」
「……うん?」
「同胞達は、
「地球の人々はアキラのことを、3年前カグヤと共に地球へ隕石を落とした張本人だと誤解し、憎んでいます。今のままでは地球の代表たるわたしがアキラの女となることを祝福してはくれないでしょう。ですから誤解を解いて、認めてもらえるよう説得します」
「……ああ、いや。その」
「どうかなさいまして?」
きょとんとしたカグヤの仕草は……わざとだ。
「それはいいんだけど。てっきり、戦争を止めてアースリングとルナリアンが和解するよう説得する、って話だと思ったもんで」
「無論、それもいたします」
「ええ、ついでに」
「「ついでかよ!!」」
とうとう海賊達から総ツッコミが入った。
「当然です。
「3人で幸せに暮らすことですから」
「他のことは二の次ですわ」
流れるように続けるカグヤとつば姉に、ざわざわと〝ダメだこいつら〟〝早くなんとかしないと〟などの声が上がる。すっかり空気が
「
「はい。
「そこだけ聞くとイイ
「わたしは、一度あきらめました。これまで打倒ルナリアンの旗頭として国を率いてきながら、アキラの生存を知って掌を返したわたしは彼等にとって裏切り者、わかってもらえるはずがないと。ですがわたしにとって彼等は苦楽を共にした仲間、本当はあきらめたくなくて──そのことを察してアキラは〝あきらめないで〟と言ってくれました。だから」
「
「わたしは」
「愛する人と」
「愛する民に」
「「二股をかけます!!」」
ブフッ──
「
「ならわたし達も二股をかけなければ不公平なので」
「「あはははは!!」」
みんな腹を抱えて笑い出す。
「こんなヒドイ
「アキラ! うまいことやりやがって!!」
「うらやましいぞ、コンチクショー!!」
「──で、その幸せ者は? さっきから何も言ってないけど」
「僕? 2人と2人が大切に想うもの全てを守って戦います」
「それは……アースリングもルナリアンもみんな守るってことだよ?」
作戦室がしんとなる。
皆が真剣な面持ちで。
僕の言葉に耳を傾けている。
「はい。でも僕はあくまで自分と自分の大切な人の幸福しか考えてません。その邪魔をするなら自分達以外の全人類だろうが滅ぼしてやりますし、そのために必要だってんなら全人類だろうが救ってやる、それだけです」
僕はドヤ顔でそう言った──決まった。
「「決まってない!!」」
「「前振りが怖い!!」」
カグヤとつば姉以外全員からのツッコミが、部屋中に響き渡った。
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