第48話 獅子王

 暗い宇宙を引き裂く2筋の赤。


 敵機の照準を示す弾道警告線が、こちらをしつように追い回す。オーラム=レオニードの加速性と旋回性をフル活用してそれらから逃げる──が、あわや線にふれそうになると、その道筋に銃弾が飛ぶ。



『焼き尽くせ! アルビレオ!!』



 カグヤの駆る白鳥の翼を生やした銀色のVD〝シルバーン=キグナス〟は長い銃身が2つ並んだ長身二連極光銃ロングダブルバレルビームライフル〝アルビレオ〟から金と青2色のビームを放つ。



穿うがて! ケラウノス!!』



 つば姉の駆る猛禽の翼を生やした漆黒のVD〝グラディウス=アクィラ〟は長大な剣の刀身が割れて並行する2本のレールとなった振動大剣兼電磁軌条砲ヴァイブロクレイモアレールガン〝ケラウノス〟のガンモードから実体弾を。



 サイズからして、どちらも高威力!

 1発でも食らったらお終いだ……!



「2人共やめて!!」



 どちらの攻撃にも〝けやすい方向〟がある。だが素直にそちらへけるともう一方が逃げ道を塞ぐように先回りして追撃してくる。


 息ピッタリだ!


 月の女王と地球の女王、敵対する両陣営の指導者としてこの宙域で大軍を率いて決戦に臨んでいたカグヤとつば姉は今、かつてアーカディアンでしていたように連携している。


 を殺すために。


 僕の名をかたることは2人にはそれほど許しがたく、その気持ちは共有しているからこその共闘か。2人の愛を感じてジンとするが、それにひたっている場合じゃない!



「僕は本物のアキラ、かどあきらだって!!」


『アキラは死んだの!』

『わたしの目の前で!』


「大気圏に突入した時のこと!? コロニーを盾にして無事に突破したよ! だからやる前〝大丈夫〟って言ったじゃない!!」


『確かにそう言ってたけど!』

『アキラにそんな知恵が働くか!』


「ひどいよ!?」



 バカだと思われていた!

 間違ってはいないけど!



『アキラに成り済まして何を企んでいるのか知らんが、わたしの前に現れたのは失敗だったな! 貴様はげきりんにふれた……アキラのために戦っているこのわたしの!!』


「つば、姉……!」


『可哀想なアキラ。恋人が側におらず寂しがっているだろう──だから、カグヤをあの世に送ってあげないと!!』



 いや、あの世に僕いないから!



『やかましい、このヤンデレ女! アタシはこの道を選んでしまったの、アキラを死なせてまで! それを途中で投げ出したら、それこそアキラに顔向けできない!!』



 つば姉。僕にふられたのに、それでもそこまで僕のことを想ってくれて……!

 カグヤ。国の重責を背負った君を助けられず、余計に苦しめてしまった……!



「僕生きてるから! もういいんだ!!」

『『そんな都合のいいことがあるか!!』』



 ──そうか。



 僕に生きていてほしいと、思ってくれて。でも思い通りにならない現実に慣れすぎて。願った通りのことが起こると逆に信じられないのか。なら2人のためにも、なおさら殺される訳にはいかない!



「僕の顔見て!」

『『えっ──』』



 右操縦桿の通信ダイヤルを操作、2機に映像つきの通信を送る──受けてくれた! 全天周モニター上の2機の側にウィンドウが開き、宇宙服の首から上が映る。


 丸い透明なヘルメットに覆われた頭。

 どちらも長い黒髪を後ろでまとめて。


 カグヤは銀の。

 つば姉は金の。


 宝石をあしらった冠を額にめている。

 高貴な品が似合う、すっかり女王様だ。


 ぱっちりした目の、カグヤ。

 切れ長な目をした、つば姉。


 2人とも、あんまり変わらない。

 胸が熱い、愛しさが込み上げる。


 向こうにはこちらの顔が映っているはず。

 これで僕とわかってもらえて一件落──



『『違う!!』』



「ええ!?」


『アキラは銀髪じゃないわ!!』

「カグヤ! コレわかしら!!」


『アキラの肌は褐色ではない!!』

「つば姉! コレ日焼けだよ!!」


『よくもそれでアキラを名乗れたわね!』

『下調べがおまつだな! 詐欺師よ!!』



 ドドキューン!!

 ズガァァァン!!



 機体を側転させて回避! 急激なGに体がきしむ、でもこの胸の痛みはそのせいじゃない──素顔を見せたのに、愛する人にわかってもらえない……!



 ズガァァァン!!

 ドドキューン!!



 グラディウスから放たれた弾丸を回避、した先に放たれたシルバーンからのビームはけられない! 自動防御、交差させた2振りの極光剣ビームサーベルで受け止める!


 両ペダルを踏んでブレーキ!!


 オーラムがその場に留まるよう推進器スラスターを噴射、ビームの奔流に吹っ飛ばされないよう踏ん張る──


 くっ!!


 吹っ飛ばされ体勢を崩したところを撃たれたら終わる、とブレーキを踏んだが。それで動きが止まったのもまずい! この隙を狙ってグラディウスからの警告線がこちらの頭部めがけて飛んでくる、この角度とタイミング──回避も防御も間に合わない!!



「〝限界突破イクシード〟!!」



 両操縦桿を前へ突き出し、両ペダルを目いっぱい踏み込む。オーラムに前進を命じながら、ゾーンに入って感覚を加速。ゾーンに入ろうと機体の性能は変わらない、どの道もうけられないが──あきらめるか!


 僕は!


 2人に殺されに来たんじゃない!

 2人をこの手にきに来たんだ!!































 ドゥッ!!































 !? 予想以上のGに息が詰まる!

 オーラムが前進し弾丸を回避した?


 間に合わないタイミングだったはずなのに振り切った──推進器スラスター出力が上がっている! 既に上限のギア4だったのに。それに──



 ググッ!

 ボゥッ!!



 両操縦桿を交互に前後させ右へ左へかんせんかい、しながらペダルを踏む足を左右交互に緩めてそちら側へ機体をスライド、蛇行して警告線をけながら2機の許へと向かう。間違いない、機体速度が上がっているし──


 操縦桿とペダルが軽い!

 異常なほど軽くなった!


 わずかな力ですぐ動く、反応が敏感すぎて通常時ならまともに扱えない。ゾーン状態だから誤操作せずに扱え、今までより遥かに緻密に操縦できる!



『『な!?』』



 世界全体がスローモーションになるゾーンの中でも、操縦桿とペダルをすいすい動かせる。機体の速度も追従性もゾーンの中でノロく感じないほど速くなった。


 緩やかに進む世界の中で、自分だけ普通に動ける感覚!

 ゾーンの時いつも感じる、じれったさから解放された!!



氷威コーリィ、気をつけて!』

『わかってる、速い!』



 2本の弾道警告線を楽々とける!



『『姿も!?』』



 オーラムに起こった変化。

 多分、リミッター解除だ。


 ゾーンに入ると脳波が変化するらしい。それを読み取ると自動で発動する仕組みか。姿──モニター正面下部、機体状態を示すオーラムの略図が少し変わっている。両眼がバイザーで覆われ、胸の獅子の双眸に赤い光が灯っている。肩やすねから放熱板が展開して全体的に刺々しく──側に文字が。



 EX-Mode



 イクスモード。なんとも中二魂がうずく。この機体はしまさんが僕へと。お互い好きだよね、こういうの──ありがとう、嶋さんグラール


 さぁ行こう、オーラム!!



『『〝限界突破イクシード〟!!』』



 2人もゾーンに入った。やはりつば姉も覚醒していたか。が、シルバーンとグラディウスは動きの質こそ変わったが機体速度に変化はない。2機にイクスモードは搭載されていない!



『『クッ!!』』



 極光剣ビームサーベル二刀をしまい、左右それぞれ3枚の羽根の真ん中の1枚から分離した極光銃ビームライフル二丁に持ち替える! 両操縦桿のパッドを親指で弾いて手動照準。オーラムの両腕を別々に動かし、その手のライフルから伸びる弾道予告線で2機を個別に狙う。予告線が目標に当たったら人差し指で引鉄トリガーを──!



 ドキュッ──ズガァン!!

 ドキュッ──バシィッ!!



『きゃッ!?』

『なんの!!』



 オーラムの放った2条の閃光。片方はカグヤのシルバーンの長身二連極光銃ロングダブルバレルビームライフルを破壊。だがもう一方はつば姉のグラディウスの振動大剣兼電磁軌条砲ヴァイブロクレイモアレールガンに弾かれた。二又のレールだったのが結合して一振りの刃になっている。ソードモードに切り替えたことで高周波振動装置が作動、装置の発する磁場がビームの荷電粒子を弾いたんだ。


 なら、まずはシルバーンを!!


 逃げるシルバーンを追いながら極光銃ビームライフルを左右両方そちらに向ける。さっきのお返し、2本の弾道予告線で逃げ道を塞ぎながら追い込んでいく!



 ドキューン!

 ドキューン!



『調子に乗って!!』



 回避しきれなくなったシルバーンが、両手で握った一振りの極光剣ビームサーベルでビームを受けた──側に極光大剣ビームクレイモア〝ノーザンクロス〟の表示。つかと一直線に伸びる通常の極光剣ビームサーベルより太く長いこうじんの他に、手元でそれと直行する2本の短いこうじんつばを成している。



 ドゥッ!



 シルバーンが転進、こちらに真っ直ぐ向かってくる! 流石さすが軽量級の第2世代機、今のオーラムほどじゃないけど速い! すぐさま至近距離に接近し、極光大剣ビームクレイモアを振りかぶって──



『斬り裂け! ノーザンクロス!!』



 バヂィィィィッ!



『んなッ!?』

「おおッ!!」



 オーラムの左手の銃身がシルバーンの剣を受け止め、横薙ぎに振るった右手の銃身がシルバーンの胴体に食い込み──



 ザシュッ!!



 両断! シルバーンを上下泣き別れに!!


 オーラムの手の中で、2丁の極光銃ビームライフルは2振りの振動長刀ヴァイブロウォーブランドに変化している。元々羽根だった銃身は下部が鋭い刃で、銃把グリップが根元から回転、銃身と一直線となることでちょくとうの形に。さらに高周波で切れ味を増した、オーラム=レオニードの振動長刀兼極光銃ヴァイブロウォーブランドビームライフル〝アルジーバ〟のツインソードモード!



『やられた!? 偽者なんかに? アキラ、ごめん……!』



 ボシュッ──シルバーンの脱出装置が作動、その頭部が胴体から射出されて飛び去っていく。カグヤ、ちょっと待ってて。先に──



 ズバァッ!!



『ちィ!』



 オーラムが蹴り飛ばしたシルバーンの上半身を、こちらが脚を止めた隙に襲いかかってきたグラディウスの振動大剣ヴァイブロクレイモアが両断した。稼いだ時間で使用武器変更! 2振りの振動長刀ヴァイブロウォーブランドの峰と峰がピタリと合わさりドッキング、1振りの振動大剣ヴァイブロクレイモアに!



 ダブルソードモード!!



「うおおおお!!」

『はああああ!!』



 剣と剣ががっちり噛み合い火花を咲かす!



 ガンッ!

 ガンッ!



『わたしに剣で挑むとは! 度胸だけは認めてやる!!』

「VD剣術最強と命がけで斬り合えるのは今だけだから!!」



 ガインッ!

 ガインッ!



『確かに! 貴様はここで死ぬからな!!』

「死なない勝負はこれからもしよう!?」

『断る!!』



 バヂィィィッ!!



 何度も!

 何度も!

 何度も!


 剣を振って、ぶつけ合う!!


 VDの関節はAI制御、パイロットは単純な指示を出すだけ。複雑な動作はさせられない。自然、VD同士の剣戟チャンバラは生身のものより大味になる。


 だがそれがいい。


 それでも技の駆け引きは生まれる。アーカディアンでVDならではの剣技を真っ先に模索したプレイヤーがつば姉──氷威コーリィで、僕はその一番弟子。


 斬って。突いて。

 受けて。払って。


 繰り出す技。

 返される技。


 どれも皆、かつて2人で交わした剣筋。

 まるであの頃の続きをしているようだ。


 やっぱり氷威コーリィは強い。

 今はまだ、敵わない。


 こちらは中量級。

 あちらは軽量級。


 本来、こちらはパワーで勝りスピードで劣る関係。だがイクスモードによってパワーはさらに差が開きスピードも逆転した。なのに互角の攻防。剣の腕は完全にあちらが上な証拠だ。


 試合には勝てない、だが勝負には勝つ!

 勝って! 生きて2人と添い遂げる!!



「一刀両断! アルジーバ!!」



 オーラムの剣を袈裟懸けに振り下ろす。グラディウスはそれを一歩退いて紙一重でかわし、即座に前に出てオーラムの頭に剣を振り下ろし──



『断ち斬れ! ケラウノス!!』



 ズバァッ!!



 振り上げたが。

 グラディウスの胴を薙いだ。



「──秘剣・つばめがえし」



 空飛ぶ燕を斬ったという由来の技。初太刀が空振りしたあとすかさず切り返して二の太刀を見舞う。それをVDで再現するには機体の回転で剣を振り、振り切る前から逆回転を入力し始める。昔、僕が考えて氷威コーリィに見せた。



 ボシュッ



 グラディウスの頭部が吹っ飛ぶ。

 剣を納めて追いかけ、キャッチ。



つばめがえし、か』


「ごめん。この技名嫌いだよね。氷威コーリィからそう聞いた時は不思議だったけど、本名がつばめだからだったんだね」


『……ああ。その話、アキラ以外が知っているとは思えない。いや、剣を合わせている内にわかった。わたしが教えた剣技だ……本当に、アキラなんだな』


「つば姉! うん!!」


『なら、わたしは、アキラを殺そうと……』

「そんなのいいから! 気にしないで!!」



 シルバーンの頭部も。

 探してキャッチする。



氷威コーリィ……今の話……ホントに?』

『わたしは確信した。アキラ、直に会えるか?』


「もちろん!」


『ありがとう。カグヤも来い。その目で確めろ』

『命令すんな! う~、わ、わかったわよ!!』



 はぁ~~~~っ。

 ほっとした……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る