第48話 獅子王
暗い宇宙を引き裂く2筋の赤。
敵機の照準を示す弾道警告線が、こちらを
『焼き尽くせ! アルビレオ!!』
カグヤの駆る白鳥の翼を生やした銀色のVD〝シルバーン=キグナス〟は長い銃身が2つ並んだ
『
つば姉の駆る猛禽の翼を生やした漆黒のVD〝グラディウス=アクィラ〟は長大な剣の刀身が割れて並行する2本のレールとなった
サイズからして、どちらも高威力!
1発でも食らったらお終いだ……!
「2人共やめて!!」
どちらの攻撃にも〝
息ピッタリだ!
月の女王と地球の女王、敵対する両陣営の指導者としてこの宙域で大軍を率いて決戦に臨んでいたカグヤとつば姉は今、かつてアーカディアンでしていたように連携している。
アキラの偽者を殺すために。
僕の名を
「僕は本物のアキラ、
『アキラは死んだの!』
『わたしの目の前で!』
「大気圏に突入した時のこと!? コロニーを盾にして無事に突破したよ! だからやる前〝大丈夫〟って言ったじゃない!!」
『確かにそう言ってたけど!』
『アキラにそんな知恵が働くか!』
「ひどいよ!?」
バカだと思われていた!
間違ってはいないけど!
『アキラに成り済まして何を企んでいるのか知らんが、わたしの前に現れたのは失敗だったな! 貴様は
「つば、姉……!」
『可哀想なアキラ。恋人が側におらず寂しがっているだろう──だから、カグヤをあの世に送ってあげないと!!』
いや、あの世に僕いないから!
『やかましい、このヤンデレ女! アタシはこの道を選んでしまったの、アキラを死なせてまで! それを途中で投げ出したら、それこそアキラに顔向けできない!!』
つば姉。僕にふられたのに、それでもそこまで僕のことを想ってくれて……!
カグヤ。国の重責を背負った君を助けられず、余計に苦しめてしまった……!
「僕生きてるから! もういいんだ!!」
『『そんな都合のいいことがあるか!!』』
──そうか。
僕に生きていてほしいと、思ってくれて。でも思い通りにならない現実に慣れすぎて。願った通りのことが起こると逆に信じられないのか。なら2人のためにも、なおさら殺される訳にはいかない!
「僕の顔見て!」
『『えっ──』』
右操縦桿の通信ダイヤルを操作、2機に映像つきの通信を送る──受けてくれた! 全天周モニター上の2機の側に
丸い透明なヘルメットに覆われた頭。
どちらも長い黒髪を後ろでまとめて。
カグヤは銀の。
つば姉は金の。
宝石をあしらった冠を額に
高貴な品が似合う、すっかり女王様だ。
ぱっちりした目の、カグヤ。
切れ長な目をした、つば姉。
2人とも、あんまり変わらない。
胸が熱い、愛しさが込み上げる。
向こうにはこちらの顔が映っているはず。
これで僕とわかってもらえて一件落──
『『違う!!』』
「ええ!?」
『アキラは銀髪じゃないわ!!』
「カグヤ! コレ
『アキラの肌は褐色ではない!!』
「つば姉! コレ日焼けだよ!!」
『よくもそれでアキラを名乗れたわね!』
『下調べがお
ドドキューン!!
ズガァァァン!!
機体を側転させて回避! 急激なGに体が
ズガァァァン!!
ドドキューン!!
グラディウスから放たれた弾丸を回避、した先に放たれたシルバーンからのビームは
両ペダルを踏んでブレーキ!!
オーラムがその場に留まるよう
くっ!!
吹っ飛ばされ体勢を崩したところを撃たれたら終わる、とブレーキを踏んだが。それで動きが止まったのもまずい! この隙を狙ってグラディウスからの警告線がこちらの頭部めがけて飛んでくる、この角度とタイミング──回避も防御も間に合わない!!
「〝
両操縦桿を前へ突き出し、両ペダルを目いっぱい踏み込む。オーラムに前進を命じながら、ゾーンに入って感覚を加速。ゾーンに入ろうと機体の性能は変わらない、どの道もう
僕は!
2人に殺されに来たんじゃない!
2人をこの手に
ドゥッ!!
!? 予想以上のGに息が詰まる!
オーラムが前進し弾丸を回避した?
間に合わないタイミングだったはずなのに普通に速度で振り切った──
ググッ!
ボゥッ!!
両操縦桿を交互に前後させ右へ左へ
操縦桿とペダルが軽い!
異常なほど軽くなった!
わずかな力ですぐ動く、反応が敏感すぎて通常時ならまともに扱えない。ゾーン状態だから誤操作せずに扱え、今までより遥かに緻密に操縦できる!
『『な!?』』
自分の体も含め世界全体がスローモーションになるゾーンの中でも、操縦桿とペダルをすいすい動かせる。機体の速度も追従性もゾーンの中でノロく感じないほど速くなった。
緩やかに進む世界の中で、自分だけ普通に動ける感覚!
ゾーンの時いつも感じる、じれったさから解放された!!
『
『わかってる、速い!』
2本の弾道警告線を楽々と
『『姿も!?』』
オーラムに起こった変化。
多分、リミッター解除だ。
ゾーンに入ると脳波が変化するらしい。それを読み取ると自動で発動する仕組みか。姿──モニター正面下部、機体状態を示すオーラムの略図が少し変わっている。両眼がバイザーで覆われ、胸の獅子の双眸に赤い光が灯っている。肩や
EX-Mode
イクスモード。なんとも中二魂が
さぁ行こう、オーラム!!
『『〝
2人もゾーンに入った。やはりつば姉も覚醒していたか。が、シルバーンとグラディウスは動きの質こそ変わったが機体速度に変化はない。2機にイクスモードは搭載されていない!
『『クッ!!』』
ドキュッ──ズガァン!!
ドキュッ──バシィッ!!
『きゃッ!?』
『なんの!!』
オーラムの放った2条の閃光。片方はカグヤのシルバーンの
なら、まずはシルバーンを!!
逃げるシルバーンを追いながら
ドキューン!
ドキューン!
『調子に乗って!!』
回避しきれなくなったシルバーンが、両手で握った一振りの
ドゥッ!
シルバーンが転進、こちらに真っ直ぐ向かってくる!
『斬り裂け! ノーザンクロス!!』
バヂィィィィッ!
『んなッ!?』
「おおッ!!」
オーラムの左手の銃身がシルバーンの剣を受け止め、横薙ぎに振るった右手の銃身がシルバーンの胴体に食い込み──
ザシュッ!!
両断! シルバーンを上下泣き別れに!!
オーラムの手の中で、2丁の
『やられた!? 偽者なんかに? アキラ、ごめん……!』
ボシュッ──シルバーンの脱出装置が作動、その頭部が胴体から射出されて飛び去っていく。カグヤ、ちょっと待ってて。先に──
ズバァッ!!
『ちィ!』
オーラムが蹴り飛ばしたシルバーンの上半身を、こちらが脚を止めた隙に襲いかかってきたグラディウスの
ダブルソードモード!!
「うおおおお!!」
『はああああ!!』
剣と剣ががっちり噛み合い火花を咲かす!
ガンッ!
ガンッ!
『わたしに剣で挑むとは! 度胸だけは認めてやる!!』
「VD剣術最強と命がけで斬り合えるのは今だけだから!!」
ガインッ!
ガインッ!
『確かに! 貴様はここで死ぬからな!!』
「死なない勝負はこれからもしよう!?」
『断る!!』
バヂィィィッ!!
何度も!
何度も!
何度も!
剣を振って、ぶつけ合う!!
VDの関節はAI制御、パイロットは単純な指示を出すだけ。複雑な動作はさせられない。自然、VD同士の
だがそれがいい。
それでも技の駆け引きは生まれる。アーカディアンでVDならではの剣技を真っ先に模索したプレイヤーがつば姉──
斬って。突いて。
受けて。払って。
繰り出す技。
返される技。
どれも皆、かつて2人で交わした剣筋。
まるであの頃の続きをしているようだ。
やっぱり
今はまだ、敵わない。
こちらは中量級。
あちらは軽量級。
本来、こちらはパワーで勝りスピードで劣る関係。だがイクスモードによってパワーはさらに差が開きスピードも逆転した。なのに互角の攻防。剣の腕は完全にあちらが上な証拠だ。
試合には勝てない、だが勝負には勝つ!
勝って! 生きて2人と添い遂げる!!
「一刀両断! アルジーバ!!」
オーラムの剣を袈裟懸けに振り下ろす。グラディウスはそれを一歩退いて紙一重でかわし、即座に前に出てオーラムの頭に剣を振り下ろし──
『断ち斬れ! ケラウノス!!』
ズバァッ!!
振り上げたオーラムの剣が。
グラディウスの胴を薙いだ。
「──秘剣・
空飛ぶ燕を斬ったという由来の技。初太刀が空振りしたあとすかさず切り返して二の太刀を見舞う。それをVDで再現するには機体の回転で剣を振り、振り切る前から逆回転を入力し始める。昔、僕が考えて
ボシュッ
グラディウスの頭部が吹っ飛ぶ。
剣を納めて追いかけ、キャッチ。
『
「ごめん。この技名嫌いだよね。
『……ああ。その話、アキラ以外が知っているとは思えない。いや、剣を合わせている内にわかった。わたしが教えた剣技だ……本当に、アキラなんだな』
「つば姉! うん!!」
『なら、わたしは、アキラを殺そうと……』
「そんなのいいから! 気にしないで!!」
シルバーンの頭部も。
探してキャッチする。
『
『わたしは確信した。アキラ、直に会えるか?』
「もちろん!」
『ありがとう。カグヤも来い。その目で確めろ』
『命令すんな! う~、わ、わかったわよ!!』
はぁ~~~~っ。
ほっとした……
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