第42話 修羅
真夏の太陽の
パ、パン――
タタタタタッ
この廃墟の町の各地で争う敵味方の。
そして、自分へ向けられた敵の銃の。
タタタッ
タタタッ
銃弾が次々と側を
前方、階段出口を覆う
その銃口から伸びる弾道警告線を。
「化物か!」
悲鳴を上げるその男へ右手の
バンッ
予告線に沿って飛んだ弾が直撃し、男は倒れた。でも敵はまだ大勢いる。走り続ける僕へ、四方八方から弾道警告線が飛んでくる。それを怪盗が防犯センサーのレーザーを
弾道予告線
弾道警告線
それは20m級の搭乗式ロボット兵器〝
僕の脳はそれと同じことをしている。
銃の状態・重力・風・湿度——弾道に影響を与えるあらゆる情報を目で見、耳で聞き、肌で感じ、無意識下で統合して算出した弾道の曲線を、はっきり色が見えるまでに思い描いて自分の視界に重ね合わせる。
敵のなら赤、味方のなら青の警告線。
自分のなら緑の予告線として。
こんなこと普通の人間にはできない。チートだ。見えない連中には悪いが、これはゲームじゃない。生き残るため、やれることは何でもやる。この
バンバンバン――
弾切れの度に
チッ!
弾丸の衝撃波が頬をかすめ――撃ち返して無力化――少し血が出た。予測は予測、外れることも考慮して余裕を持ってかわしてるけど想定以上にズレた。まだまだだな。この技を覚えた3年前、暴徒から
今では見ようと意識せずとも見える。
今みたくゾーンに入ってない時でも。
ゾーンに入ってない時は弾自体は見えない。入ってる時なら見える、今のも弾を見てから
バン!
バン!
――ダンッ!
銃弾を応酬しながら走り続け、建物から建物へと跳び移っていく。
2車線分の道路の上空を跳び越え。
1階分の高さを跳び上がり。
3階分を跳び降り、転がって
この忍者みたいな体術は
ガシャァァァン!!
窓を突き破り、ガラスの破片と共に元ホテルの大広間に降り立つ。あちこちに配置された黒服達。奥まった所に身なりのいい太った男。あいつがボスだ。
「な!? ——や、
タタタタタッ
ババババンッ
黒服達が
時代劇の、用心棒?
「お、お願いします、先生!!」
「どれ、お相手進ぜようか!!」
!? 一瞬で目の前まで迫ってきた、すり足で! 左手で刀の鞘を押さえ右手を
「〝
ゾーンに入り、世界の時を遅らせる。女の刀が鞘から
バッ
膝を曲げ、上体を後ろに投げ出した。体が地球の重力に引かれて落ちるスピードは自分の力で体を動かすより遥かに速い。リンボーダンスのように体を反った僕の顔前を刃が通過――今だ! 女の懐に飛び込み、
ガクッ
声もなく、女は崩れ落ちた。
あとはボスに銃を突きつけ。
「まだ、やる?」
「降参します♡」
◆◇◆◇◆
3年前、僕は世界に1人はぐれた。
カグヤ、つば姉。
父さん、母さん。
せめて、この4人とだけはまた会いたい。話がしたい。その一心で生きてきたけど、生きるだけで精一杯でその方法を探す余裕はなかった。
避難所で暴徒と兵士に殺されかけ殺し返したあと。
無我夢中で逃げる内、僕は
そうした捕食に慣れた頃。
気が
その牙が目前に迫った時、先住民族の狩人に助けられ、その人の村に保護された。内陸で暮らす彼等は隕石落下による津波の被害に遭わず、地球と月の戦争にも無縁で、僕を憎むどころか知りもしなかったので助かった。僕は村で雑用して働きながら狩りを教わり、ナイフ1本あれば
あの頃はよかった……でも。
村は銃を持った集団に襲われ全滅した。たまたま狩りに出てて難を逃れた僕は、村人を殺して村に居座るそいつらを
世界の有り様を。
戦争に勝ったルナリア王国は、負けた地球の全国家を
一方。
それまでスペースコロニーに住んでいたアースリングは全員地球へ送られた。隕石落としの被害に遭いながら生き延びた人が難民として
あの戦争は、確かに地球側が原因だけど。
これじゃ加害者と被害者が逆転しただけ。
僕の送った通信で、月の人達が感激してアースリングと和解しようなんて流れにはならなかった。そこまで劇的な効果を期待した訳じゃないけど……
それはともかく。
ルナリアンがアースリングを支配したことより、しっかり支配しなかったことの方が問題だ。ルナリアンはスペースコロニーに住み、アースリングは地球に住む。だがその地球上の土地で王国がちゃんと統治したのは、宇宙に繋がる4基の軌道エレベーターとその基部の
他の大部分は放棄された。
元々ルナリア王国の国力は小さい。そこに隕石落としで
あとは無法地帯。
そこに住む見捨てられた人々は、住む場所や食べ物がなければ、ある者から奪うしかなくなった。村を襲った連中もそうだった。
生きるために奪うのも。
奪われぬよう守るのも。
武力がなくては、始まらない。
無法地帯は武装勢力――事実上の独立国が林立して限られた
僕が早く、
あの時、
隕石の落下とそれが生んだ津波で。
地球の人口70億の約半数が死んだ。
無数の廃墟に残る
生き残り同士の殺し合い。
全て、僕の責任。
村を失ったあとフリーの傭兵になった僕は、無法地帯を渡り歩いた(王国統治領には市民権のない者は入れなかった)。どこに行っても、隕石落下を指示した月の女王、
あの避難所で僕が被災者と兵士を殺したことは知られてなかったけど、あそこで被災者の1人が言っていた〝
そんな中、僕は名を偽り、正体を隠し。
真実が露見するのに怯えて生きてきた。
組の構成員になった今でも。
仲間の誰にも明かせてない。
幸いと言うべきか、整形もしてないのに容姿が変わりすぎてて、一度も
白い短髪で。
褐色の肌の。
小柄な
元は黒かった髪は、ストレスのせいだろう、いつの間にか
そして、名前は――
◆◇◆◇◆
「アスラン、終わったぜ」
「ああ、サンキュー」
敵のアジト、元ホテルの一室で仲間の報告を受ける。そこでは敵の生き残りで怪我もなかった連中が縛り上げられ1ヶ所に集められ、ウチの組の
「
そう。ここで縛られてる者の大半はボスが降参するまで立っていた者じゃない。戦闘中、僕に倒された者だ。僕が、殺さずに無力化した。
これも独学で覚えた。
悪党の体を実験台に。
どの
それが僕の戦い方。
僕のせいで35億が死んだ。
それでも生き延びた命。
できれば生きてほしいから。
「勝者が敗者を従えるのが
「どちらが勝っても、だと? 勝たなくても良かったとでも言うつもりか!」
「ああ。そっちのボスはこっちのボスと同じ、マトモな統治者だからな。それでもどっちが上か決めなきゃオレ達は1つになれない。今回のはそういう戦いだろ」
女用心棒は、凄い
「敵も味方も大勢死んだ、殺し合った中で自分だけ手を汚さず
「生きるために他者の命を奪うのは全ての命に与えられた権利だ。オレはそれを否定しない。その上で犠牲が少なく済むならそれに越したことはない」
「そうやって命を賭した戦いで相手に手心を加えられるのがどれほどの屈辱か! 貴様は人の尊厳を
「そうか」
拳銃の
「非礼をお詫びする」
「は、何を――」
バンッ
ビシャッ
今のは実弾。僕が
女は死んだ。
大方、不殺野郎だから殺されることはないと
バカめ。
「命は重く、尊厳はより重い。殺さぬことが尊厳を
オレはアスラン。
その名の由来は。
トルコ語の
インドの
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