第39話 一騎当千
「見えた‼」
アブソレイルパックを着けて大推力を得たオーラムを
そこはもう、戦場になっていた。
球殻状コクピットの内壁一面の全天周モニターには、機外の宇宙空間の景色に重なって
赤は敵軍――ルナリア王国軍
青は自軍――地球軍
数はほぼ互角。
どちらも1週間前の比じゃない大軍勢。
両軍とも使える戦力をかき集めたのか。
正に、決戦。
地球軍の作戦は
ただし。
ミサイルは遠くから撃ったら
1機でもそれに成功すればいい。
僕もこれからそれを目指す。ただ遅れて到着した僕は味方のどの部隊とも離れてる。このまま真っすぐ
左右の操縦桿をグイッと押し込み!
左右のペダルをズダッと踏み込む!
ドゥッ‼
全速前進、進行方向の逆に猛烈な加速Gがかかって体がシートに押しつけられる。水平方向に働くGは上下方向のほど危険じゃないとはいえ、かなりキツい。通常のVDの3倍もの加速をしてんだから当然だ。
でも――耐えられる!
僕の耐G能力は前回より向上してる!
これならこの暴れ馬を乗りこなせる!
アブソレイルパックの7つの
両肩に担いだ大砲
両腕に持った
両足に履いたスキー板
盾とスキー板にも大砲が内包されてて、それら6本全ての砲身の後部に
撃つ者の体勢を崩す発射時の反動を後方にも何か噴射して逆向きの反動で相殺する〝無反動砲〟の仕組みを持つ、主に戦艦の主砲に使われてる大出力・長射程な荷電粒子砲。
〝メガバスターキャノン〟
って名づけられたアブソレイルパックの
こいつで、進路上の敵を一掃する!
「
左右の操縦桿のパッドを押し込み自動照準。
「
ブァァァッ‼ ――操縦桿の
1セットのパッドと
対人戦でやるのは久し振りだ。
動く複数の敵に同時に当てるのは至難の技。それを成功させることは相手に力の差を見せつけることになる。昔アーカディアンでやって反感買って以来、対CP戦でしかやらなくなったけど――今は実戦。
遠慮なんてしてられない!
むしろ
目に映る敵を、
『うわぁぁぁッ⁉』
『何だ、あれは‼』
ズガガガガガガァンッ‼
『新型……いや』
『オーラムだ!』
ズガガガガガガァンッ‼
『奴だ……!』
『奴が来た!』
ズガガガガガガァンッ‼
『『アキラッ‼』』
メガバスターキャノンの射程は大抵のVDの武器より長い。こっちの有効射程内で、かつ相手の有効射程外な間は一方的に撃ち込める――けど、お互い高速で接近してるんだ、すぐに間合いを詰められる。
『これ以上やらせん!』
『お前は、ここでッ!』
『死ね! 仲間の
ドキューン‼ ドキューン‼ ドキューン‼
――バシュゥッ‼
接近してきた敵3機が次々に
問題ない。
砲はどれも装甲に護られてる。装甲の耐久値が残ってる間は、この程度のビームは受けた方がいい。今は小回りの利かない巨体で
ドキューン‼
――急加速で振り切って回避!
で、この距離だと取り回しの悪い砲は当てづらい。こっちも
ガチャッ!
両操縦桿のグリップを、傾けひねって姿勢制御。わずかに進路を変えて敵機に突っ込み――肉薄し、すれ違う! 1機、2機、3機‼
『は⁉』
『なっ‼』
『うわぁ‼』
ズガガガァァン‼
レーダーに映る背後の3機の光点が次々と消えていく。すれ違いざま接触した、メガバスターキャノンの砲身を包む装甲が斬り裂いたんだ。
それは――
両肩の砲を包んで剣のように見える放熱板。事実それは剣で、〝ヒートキャリバー〟って名づけられた大型の
両腕の砲を包む大型
両足の砲を包み込むスキー板は、その爪先から超大型
――の3種類。
どれも敵との近接時に自動で発動する便利な武器。
遠くのVDは、撃って撃って撃って!
近くのVDは、斬って裂いて貫いて!
ドガァァッ‼
ドガァァッ‼
敵陣に穴を開けて掘り進む‼
そして――奥の――艦隊に‼
ドガァァァァン‼
敵艦からの対空放火をくぐり抜け、そのデカイ図体にメガバスターキャノン6門をまとめて叩き込み、近接してから爪先の超大型
『ふ、
ドカァン――駆逐艦!
ドカァン――巡洋艦!
ドカァン――VD母艦!
撃沈‼
『俺達の
『やめろ、やめてくれ!』
「こっちの台詞だ! もうやめろ、こんなこと! 隕石落としなんて――自分達が何しようとしてるか、本当にわかってんのか‼」
『そんなこと、言われなくても‼』
『俺達にはこうするし――ガッ‼』
ドカァン!
ドカァン!
よし、敵陣を1つ突破。次は――
‼
カグヤのシルバーンと、つば姉のグラディウスが、戦ってる! 2人の方へ向かったら
今は
大気圏突入まで1分1秒を争う。わずかな遅れが失敗に繋がる。
カグヤ。
つば姉。
2人の戦いを放置したらどちらか、あるいは両方が死んじゃうかも知れない。地球の人達を救えてもそれじゃ意味がない。悪いけど、見ず知らずの他人の命が70億と積み重なろうと、僕には愛する女の子2人の方が大事なのは変わらない。
僕は、ただ。
そんな恐ろしい、取り返しのつかない罪をカグヤに負わせたくないから。被害者からの消えない憎悪、復讐の連鎖に
ガチャッ‼
進路変更、2人の許へ!
頼む、間に合ってくれ‼
◆◇◆◇◆
『
『カグヤ……!』
白銀の闘士――カグヤのシルバーンと。
漆黒の剣士――つば姉のグラディウスが。
ジジジッ!
バジィッ‼
シルバーンは
でも――
『アンタ、やる気あんの⁉』
『クッ……!』
つば姉が押されてる、剣戟で⁉ つば姉はVD格闘戦最強だ。カグヤの格闘戦は僕と同じくらい、この短期間でつば姉を超えるほど腕を上げた?
――いや。
つば姉の剣にいつもの鋭さがない!
つば姉、やっぱり心が弱って――
『さっきから、コクピット
『おまえが死んだらアキラが悲しむ! アキラの幸せのために、おまえに死なれる訳にはいかん‼』
な……!
つば姉、僕のために……
ダメだ、つば姉!
『うるさいッ‼ 自分ばっかアキラを大切にしてるみたいに――そっちがその気でも、こっちは遠慮しないわよ‼』
『カグヤ! くっ――』
ズバッ‼
シルバーンの
シルバーンが追い打ちをかける。
グラディウスは体勢を崩してる。
あれじゃ避けられない!
急いで、オーラム――!
『これで、トドメ‼』
『い――嫌ぁぁッ‼』
「やめろォォォォォッ‼」
ズバッ‼ ――シルバーンの
『『アキラ⁉』』
「逃げてつば姉! 母艦に帰投を‼」
『なっ、おまえを置いて行けるか‼』
つば姉……!
大好きだ、愛してるって伝えたい。でも、艦長さんに言われた。2人とも愛してるなんて言ったらまたつば姉を苦しめるかも知れない。僕が愛想尽かされるのは仕方なくても、この状況でさらにつば姉の心を乱したら、つば姉の命に関わる。
今は、言えない……!
「つば姉をかばいながらじゃ戦えない! このままじゃ2人ともやられる!」
『~~ッ! ……わかった。足を引っ張る訳にはいかない。ただ、アキラ!』
『(つば姉?)』
「わかってる、死なないよ! つば姉も絶対、死んじゃダメだからね⁉」
『おまえが、そう言うなら! すぐ修理して戻る、持ちこたえてくれ‼』
「うん‼」
グラディウスが銀翼形態に変形して高速で飛び去っていく。シルバーンがそれを追う様子はない――こちらと
『アキラ……』
「カグヤ……」
『もう、いい? じゃあ――
カグヤの声、平坦で。
感情がうかがえない。
「待ってよ、
『
「それは
『無理よ』
「一体誰に、こんなことやらされて! そいつを一緒に倒そう? 力になるから、ね⁉」
『なら、アタシを殺すのね』
「いや、そうじゃなくて!」
『隕石落としは、こういう事態に備えて大佐が用意しておいてくれた
「……え?」
『アンタ、アタシをただの
【地球に住まう70億人のアースリングの大半が死滅するでしょう。いかに戦争とはいえやりすぎと思われますか?
『これは……アタシの意志よ‼』
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