第39話 一騎当千

「見えた‼」



 アブソレイルパックを着けて大推力を得たオーラムを自動操縦オートパイロットでカッ飛ばし、地球へ接近するスペースコロニータカマガハラの近くまで来た時。


 高天原タカマガハラは既に地球のぢかに迫り。

 そこはもう、戦場になっていた。


 球殻状コクピットの内壁一面の全天周モニターには、機外の宇宙空間の景色に重なって拡張現実ARの補助情報が表示される。戦闘宙域に展開する艦隊とヴェサロイドVD隊、それらの艦影・機影を囲む赤か青の枠マーカーと、そこから伸びる同色の弾道警告線。


 赤は敵軍――ルナリア王国軍

 青は自軍――地球軍


 数はほぼ互角。


 どちらも1週間前の比じゃない大軍勢。

 両軍とも使える戦力をかき集めたのか。


 正に、決戦。


 地球軍の作戦は高天原タカマガハラの、円筒形のコロニー部に隣接する要塞部、直径10kmの小惑星を大気圏突入前にミサイルで砕くこと。そうすれば破片が地球に落ちても大気圏突入時の空力加熱でほとんど燃え尽き、大きな被害にはならない。そのためのミサイルがオーラムにも他のVDにも積んである。


 ただし。


 ミサイルは遠くから撃ったら激光対空砲ビームファランクスで撃ち落とされるのが常識だ。タカマガハラには元々、コロニーを破壊しかねないデブリへの対策に激光対空砲ビームファランクスがあちこちに設置されてる。だから激光対空砲ビームファランクスでも迎撃が間に合わない距離まで接近して撃つ必要がある。タカマガハラを護る敵軍を、突破して。


 1機でもそれに成功すればいい。


 僕もこれからそれを目指す。ただ遅れて到着した僕は味方のどの部隊とも離れてる。このまま真っすぐタカマガハラに向かうと分厚い敵陣のただなかに単機で突っ込むことになる――つまり。


 味方誤射フレンドリーファイアの心配がない!

 自動操縦オートパイロットを切って――


 左右の操縦桿をグイッと押し込み!

 左右のペダルをズダッと踏み込む!



 ドゥッ‼



 全速前進、進行方向の逆に猛烈な加速Gがかかって体がシートに押しつけられる。水平方向に働くGは上下方向のほど危険じゃないとはいえ、かなりキツい。通常のVDの3倍もの加速をしてんだから当然だ。


 でも――耐えられる!


 悠仁ユージンと戦った時にGでズタズタになった僕の全身の筋繊維は、〝超回復〟って人体の機能で前より太くなって治った。それでGに耐えるための基礎的な筋力が上昇し、さらにあの時ゾーンの中で編み出した効率的な耐G呼吸法はゾーンに入ってない今でも使える。


 僕の耐G能力は前回より向上してる!

 これならこの暴れ馬を乗りこなせる!


 アブソレイルパックの7つの推進器スラスター。1つはバックパック本体、あと6つは本体から伸びる6本のアームの先のパーツにある。どれも機体全高と同じ20mほどの――


 両肩に担いだ大砲

 両腕に持った凧型盾カイトシールド

 両足に履いたスキー板

 

 盾とスキー板にも大砲が内包されてて、それら6本全ての砲身の後部に推進器スラスターが繋がってる。ちょうど砲の発射方向と推進器スラスターの噴射方向が真逆になるように。

 

 極光無反動砲ビームデーヴィスガン


 撃つ者の体勢を崩す発射時の反動を後方にも何か噴射して逆向きの反動で相殺する〝無反動砲〟の仕組みを持つ、主に戦艦の主砲に使われてる大出力・長射程な荷電粒子砲。



〝メガバスターキャノン〟



 って名づけられたアブソレイルパックの極光無反動砲ビームデーヴィスガンは、その逆噴射機能を推進器スラスターとしても使う独創的な発想の産物。


 こいつで、進路上の敵を一掃する!



目標ターゲット捕捉ロックオン



 左右の操縦桿のパッドを押し込み自動照準。機体オーラムが6つの砲を動かし、それぞれ捕捉ロックオンした敵VD計6機に狙いをつける。砲門から伸びる緑の弾道予告線の1つが敵機にふれ、緑と赤の2色に明滅――発射を促す効果音――2本目も明滅、3、4――6‼



全門一斉射フルバーストッ‼」



 ブァァァッ‼ ――操縦桿の引鉄トリガーを引くと同時に6条の強烈な閃光がほとばしる。その光が消えた時6つの赤枠も消えた――撃墜!


 複数同時照準マルチエイミング


 1セットのパッドと引鉄トリガーで複数の射撃武器の照準・発射を同時に行う特殊な射撃モード。今は6つの砲の右3つを右操縦桿の、左3つを左操縦桿のボタン類パッドとトリガーに割り振ってる。


 対人戦でやるのは久し振りだ。


 動く複数の敵に同時に当てるのは至難の技。それを成功させることは相手に力の差を見せつけることになる。昔アーカディアンでやって反感買って以来、対CP戦でしかやらなくなったけど――今は実戦。


 遠慮なんてしてられない!

 むしろかくになっていい!



 目に映る敵を、かたぱしから撃ち落とす‼



『うわぁぁぁッ⁉』

『何だ、あれは‼』



 ズガガガガガガァンッ‼



『新型……いや』

『オーラムだ!』



 ズガガガガガガァンッ‼



『奴だ……!』

『奴が来た!』



 ズガガガガガガァンッ‼



『『アキラッ‼』』



 メガバスターキャノンの射程は大抵のVDの武器より長い。こっちの有効射程内で、かつ相手の有効射程外な間は一方的に撃ち込める――けど、お互い高速で接近してるんだ、すぐに間合いを詰められる。



『これ以上やらせん!』

『お前は、ここでッ!』

『死ね! 仲間のかたき‼』



 ドキューン‼ ドキューン‼ ドキューン‼


 ――バシュゥッ‼



 接近してきた敵3機が次々に極光銃ビームライフルを撃ってきて、その内1発が左腕の砲を覆う盾に当たった。ビームの熱で盾の表層、VDの装甲と同じ超硬度ナノチューブSP-SWCNT合成樹脂プラスチックがんしんさせた耐熱材アブレーターが蒸発、その蒸気がビームを吸収して防ぐ。


 問題ない。


 砲はどれも装甲に護られてる。装甲の耐久値が残ってる間は、この程度のビームは受けた方がいい。今は小回りの利かない巨体でけづらい。下手にけると進路がれてタカマガハラへの到着が遅れる。弾道警告線がオーラム本体にふれそうな時だけ――



 ドキューン‼



 ――急加速で振り切って回避!


 で、この距離だと取り回しの悪い砲は当てづらい。こっちも極光銃ビームライフルで応戦したいとこだけど、今は両手が盾で塞がってて使えない――ので、こうだ!



 ガチャッ!



 両操縦桿のグリップを、傾けひねって姿勢制御。わずかに進路を変えて敵機に突っ込み――肉薄し、すれ違う! 1機、2機、3機‼



『は⁉』

『なっ‼』

『うわぁ‼』



 ズガガガァァン‼



 レーダーに映る背後の3機の光点が次々と消えていく。すれ違いざま接触した、メガバスターキャノンの砲身を包む装甲が斬り裂いたんだ。


 それは――


 両肩の砲を包んで剣のように見える放熱板。事実それは剣で、〝ヒートキャリバー〟って名づけられた大型の振動剣ヴァイブロブレード


 両腕の砲を包む大型振動盾ヴァイブロシールドも、その鋭い尖端を叩きつけて衝角ラム攻撃アタックが可能。


 両足の砲を包み込むスキー板は、その爪先から超大型極光剣ビームサーベルを発振する。


 ――の3種類。


 どれも敵との近接時に自動で発動する便利な武器。ボタン類パッドとトリガーでの使用武器をメガバスターキャノンにしたまま使える。使用武器変更時の隙ができないのはありがたい。


 遠くのVDは、撃って撃って撃って!

 近くのVDは、斬って裂いて貫いて!



 ドガァァッ‼

 ドガァァッ‼



 敵陣に穴を開けて掘り進む‼

 そして――奥の――艦隊に‼



 ドガァァァァン‼



 敵艦からの対空放火をくぐり抜け、そのデカイ図体にメガバスターキャノン6門をまとめて叩き込み、近接してから爪先の超大型極光剣ビームサーベルでざっくりかっさばいてトドメを刺す!



『ふ、フネが!』



 ドカァン――駆逐艦!

 ドカァン――巡洋艦!

 ドカァン――VD母艦!


 撃沈‼



『俺達のいえが……!』

『やめろ、やめてくれ!』


「こっちの台詞だ! もうやめろ、こんなこと! 隕石落としなんて――自分達が何しようとしてるか、本当にわかってんのか‼」


『そんなこと、言われなくても‼』

『俺達にはこうするし――ガッ‼』



 ドカァン!

 ドカァン!



 よし、敵陣を1つ突破。次は――



 ‼



 高天原タカマガハラ近辺。無数の敵味方の中に、それを見つけた。激しくもつれあう赤と青の枠マーカー、その側に表示された機種名は。


 赤枠てきが、シルバーン。

 青枠みかたが、グラディウス。


 カグヤのシルバーンと、つば姉のグラディウスが、戦ってる! 2人の方へ向かったらタカマガハラへの直線コースかられるけど、どうする⁉


 今は高天原タカマガハラさいを優先するか?


 大気圏突入まで1分1秒を争う。わずかな遅れが失敗に繋がる。タカマガハラが地球に衝突すれば、それが引き起こす爆発や地震や津波で多くの人が死ぬし。舞い上がった粉塵に太陽が遮られて地球は寒冷化、作物が育たなくなり、即死を免れた人も生きてはいけなくなる……けど。


 カグヤ。

 つば姉。


 2人の戦いを放置したらどちらか、あるいは両方が死んじゃうかも知れない。地球の人達を救えてもそれじゃ意味がない。悪いけど、見ず知らずの他人の命が70億と積み重なろうと、僕には愛する女の子2人の方が大事なのは変わらない。


 僕は、ただ。


 そんな恐ろしい、取り返しのつかない罪をカグヤに負わせたくないから。被害者からの消えない憎悪、復讐の連鎖にとらわれさせたくないから。カグヤの人生を守りたいから、それを止めたいんだ――でもそれも、2人の命には替えられない!



 ガチャッ‼



 進路変更、2人の許へ!

 頼む、間に合ってくれ‼



 ◆◇◆◇◆



氷威コーリィィィッ‼』

『カグヤ……!』



 白銀の闘士――カグヤのシルバーンと。

 漆黒の剣士――つば姉のグラディウスが。



 ジジジッ!

 バジィッ‼



 シルバーンは極光剣ビームサーベルを二刀流にして、グラディウスは振動長刀ヴァイブロウォーブランドを両手で持って、激しく斬り結んでる。


 でも――



『アンタ、やる気あんの⁉』

『クッ……!』



 つば姉が押されてる、剣戟で⁉ つば姉はVD格闘戦最強だ。カグヤの格闘戦は僕と同じくらい、この短期間でつば姉を超えるほど腕を上げた?


 ――いや。


 つば姉の剣にいつもの鋭さがない!

 つば姉、やっぱり心が弱って――



『さっきから、コクピットけて! そんなヌルい剣でアタシを倒せると思ったら大間違いよ‼』


『おまえが死んだらアキラが悲しむ! アキラの幸せのために、おまえに死なれる訳にはいかん‼』



 な……!


 つば姉、僕のために……悠仁ユージンの時に心配してたことが。カグヤは手加減して勝てる相手じゃない!


 ダメだ、つば姉!



『うるさいッ‼ 自分ばっかアキラを大切にしてるみたいに――そっちがその気でも、こっちは遠慮しないわよ‼』


『カグヤ! くっ――』



 ズバッ‼



 シルバーンの極光剣ビームサーベルにグラディウスの両手首が斬り飛ばされた! あれじゃもう、どの携行武器も使えない‼


 シルバーンが追い打ちをかける。

 グラディウスは体勢を崩してる。


 あれじゃ避けられない!

 急いで、オーラム――!



『これで、トドメ‼』

『い――嫌ぁぁッ‼』



「やめろォォォォォッ‼」



 ズバッ‼ ――シルバーンの極光剣ビームサーベルがオーラムの右肩の砲を斬り飛ばした。間一髪、シルバーンとグラディウスの間に割り込めた。グラディウスをオーラムの背中にかばう!



『『アキラ⁉』』



「逃げてつば姉! 母艦に帰投を‼」

『なっ、おまえを置いて行けるか‼』



 つば姉……!


 大好きだ、愛してるって伝えたい。でも、艦長さんに言われた。2人とも愛してるなんて言ったらまたつば姉を苦しめるかも知れない。僕が愛想尽かされるのは仕方なくても、この状況でさらにつば姉の心を乱したら、つば姉の命に関わる。


 今は、言えない……!



「つば姉をかばいながらじゃ戦えない! このままじゃ2人ともやられる!」

『~~ッ! ……わかった。足を引っ張る訳にはいかない。ただ、アキラ!』


『(つば姉?)』


「わかってる、死なないよ! つば姉も絶対、死んじゃダメだからね⁉」

『おまえが、そう言うなら! すぐ修理して戻る、持ちこたえてくれ‼』


「うん‼」



 グラディウスが銀翼形態に変形して高速で飛び去っていく。シルバーンがそれを追う様子はない――こちらとにらみ合うように、じっとしてる。



『アキラ……』

「カグヤ……」


『もう、いい? じゃあ――ろっか』



 カグヤの声、平坦で。

 感情がうかがえない。



「待ってよ、氷威コーリィがいたら戦えないとは言ったけど、別にカグヤと戦いたい訳じゃないんだ!」


氷威コーリィ? 今〝つば姉〟って言ってなかった?』


「それは現実リアルでのあだ名で! ともかく、戦いに来たんじゃない、説得に来たんだ! カグヤ、もうやめて! ルナリア軍に戦闘をやめさせて、タカマガハラの落下を一緒にめて‼」


『無理よ』


「一体誰に、こんなことやらされて! そいつを一緒に倒そう? 力になるから、ね⁉」


『なら、アタシを殺すのね』

「いや、そうじゃなくて!」


『隕石落としは、こういう事態に備えて大佐が用意しておいてくれた計画プラン――でも、それをすると決めたのはアタシ。誰にもいられてない、むしろ反対を押し切った』


「……え?」


『アンタ、アタシをただの傀儡かいらいだと思ってたの? バカにしないでよ。戦争再開の演説の原稿だって自分で書いたんだから。あれは、アタシの言葉』



【地球に住まう70億人のアースリングの大半が死滅するでしょう。いかに戦争とはいえやりすぎと思われますか? わたくしはそうは思いません】



『これは……アタシの意志よ‼』

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