第38話 希望を託す
宇宙要塞〝
壁のガイドレールを流れるリフトグリップに掴まって、
4年前――
この宇宙要塞を内包する軌道エレベーター〝
次に。
静止軌道ステーションから宇宙客船に乗ってL1スペースコロニー〝
今度は引っ越し目的じゃないし。
4年間、慣れ親しんだそのコロニーが地球に落ちるのを止めるために。敵が、ルナリア王国軍が隕石落とし作戦に僕の住んでたコロニーを使うのは、偶然だろうけど。
何か、因縁を感じた。
◆◇◆◇◆
「じゃあ
パタパタと、
「ないない。あったらマズいって。そういうのは文民の政治家の仕事で、俺は軍人。軍人は政治に関与しちゃいけないんだ。民衆に選ばれた訳じゃない軍人が政治を行う、武力を持つ軍人の施政を無力な民衆は止められない、それは民主主義を根本から破壊する」
ああ、社会科で習った。
「……でも、国連軍内の鼻つまみ者を月基地に押し込めたせいで彼等の造反を招いて、月に戦う力を与えちゃったのは、政治家じゃなくて国連軍だよね? 師匠や
「それも、俺は関知してない。それはそれで問題だけどね」
「第3次世界大戦中、俺はどの国にも属さず戦争根絶のために戦う傭兵団――
「アルカディアって――」
「うん。アーカディアンでプレイヤーが属する設定の武装組織の元ネタ。俺達は世界各地で戦い、大戦終結に貢献した」
凄い……アニメみたい。
「ただ終戦時、俺達はちょっと大きくなりすぎてたんだ。組織も影響力も。各国にしたら、そんな集団が自分達のコントロール下にないのは怖いだろ?」
「え……まさか。魔王を倒した勇者は魔王より危険、的な話?」
「そ。で、平和を
艦長さんと副長さんも⁉
「で、そんな国連軍の中でアルカディアの元リーダーの俺が幅を利かせてたら、国連軍は実質アルカディアになっちまう。各国から
「ひどい……」
「や、それはいいんだ。悠々自適だし。ただ、働かなすぎた。お飾りでも俺は国連軍の最高責任者、知らなかったなんて言い訳にならない。身内の不始末は全て俺の責任だ。許せないなら、俺を殴って勘弁してくれ」
ちょ、ちょ。
「そんなつもりで聞いたんじゃないから。ごめん、
友達とケンカするくらい普通だけど。
今はもう、些細な争いもしたくない。
もう。うんざりだから。
「そっか……」
「うん……」
「……みんなのこと、聞いたよ。辛い、な。アキラが1番、辛かったよな」
「ありがとう……でも、みんな辛いよね。誰が1番とかないよ」
「そうだな……アキラはしっかりしてるな、まだ若いのに」
「オッサン臭いよ? その言い方」
「見ての通りオッサンだって」
「そういやそうだね。驚いたよ」
「だろーな。エイラと
「あれ? 前から知り合いだったんじゃないの?」
「俺は2人が
「
「ダイゴは国連機関所属の科学者だろ? 国連軍も同じ国連内組織だから、知り合う機会があったのさ――何を隠そうVDを、搭乗式巨大人型ロボットを作ろうってプロジェクトは俺とダイゴの2人で始めたんだぜ?」
「えええええ⁉」
「俺は科学者じゃないから、根回し担当。
「
「……いや」
「……え?」
「有用性を示さないとスポンサーがつかないから後付けでこじつけたけど。初めは役に立つかなんてわかんなかった。より良い兵器を作りたいから始めたんじゃない」
「じゃあ――」
「単にロボットが好きで、自分が乗りたいから作った――小さい頃から大好きだったロボットアニメで見てきたような、ロボットの本物を‼」
「おお……!」
なんだ、僕と一緒――いや。誰かが作ってくれることを願ってただけで、自分で作ろうなんて考えもしなかった僕よりずっと凄い。
巨大ロボットを実現させた。
つまり人類史上最高の偉人。
そんな人が2人も友達なんて……!
「そうだよね。役に立つから、なんて不純だ。ロボットが好きだから、それが全てだ。
「いーのいーの。しかしまぁ、ロボ好きだからこそ辛いよ。せっかくVDができたのに俺は乗って戦えないんだから。出撃したい、っつったら部下達に超怒られて止められた」
「いや、そりゃそうでしょ」
軍のトップが機動兵器で前線に出るって。
敵はやってるけど、真似しちゃダメだよ。
「はは。ま、中位ランカーの俺がノコノコ出てっても地味な戦いにしかならないもんな。指揮官が個人戦闘力に長けてる必要なんてないけど、戦うとこ見せるなら強くないとカッコつかないし」
「は、はは……」
か、返しづらい……
中位ランカー、か……
「
「そりゃ、悪かったさ」
そんな、あっけらかんと……
でも、やっぱり、そうなんだ。
「僕、
僕の――
上位ランカーとしての
悔やんでも、悔やみ切れない。
「……あのさアキラ。立場の違う人間を理解するって、凄く難しいんだ。それは上も下も同じ。アキラはトッププレイヤーじゃん? それをやっかむ下位者の気持ちなんてわかんなくて当然さ。
「それは、まぁ」
「な、お互い様さ。確かにもっと上手くやれてりゃ違う結果になったのかも知れないけど――上手くできないもんなんだよ、人生なんて、誰も。だからもう気にすんなよ。悲しむのはいい、でも自分を責めるな。アキラはちょっと、自分に厳しすぎだ。何もかも上手くできなきゃダメだなんて、それはそれで
「うっ……エイラにも、似たようなこと言われた。でも僕、
「そんなことないって」
「本当?」
「アキラも他の上位陣も、俺達中位陣に気を
「
「だからさ。クロスロードの10人で過ごした日々は。どこも、何も、偽物なんかじゃないよ」
「――!」
それが。それこそが。ずっと自信持てなくなって、辛かったことだった。でもやっと、救われた気がした。
鼻が、ツーンとなって。
僕は、目許をぬぐった。
「うん……ありがとう、
◆◇◆◇◆
長い廊下が終わり。
更衣室に入って僕だけ宇宙服とパイロットスーツに着替え、さらに奥の部屋へ。
「クロード! アキラ!」
「や、ダイゴ」
「あれ、
眼鏡に白衣で
グラールこと
「
「うん。
「この奥、格納庫?」
「ああ。今明かりを」
部屋は宇宙戦艦
「え⁉」
照らし出されたその巨体。ガラスの向こうで横を向くその姿は。
胸に獅子の頭の
「オーラム!」
「君が乗ってたオーラムだよ」
「え⁉
「アキラが艦を降りて、もう
「そうだったんだ……!」
父さんが僕のために組み立ててくれた。
ずっと一緒に戦ってきた僕のオーラム。
よかった!
……ただ、なんか。
見慣れない装備が。
背中に見たことない形のバックパック。
両肩の上に担いだ長砲身の大砲。
両腕に装着した
両足に履いた、スキー板……?
バックパックから伸びるアームが他6つの部品に繋がってる。全部セットなのか……超ゴツい。機体が一回り大きく見える。
「これ、新型の武装パック?」
「量産しないから新型とは言わないかな。次世代機開発の実験用に作った特注品、その名も〝アブソレイルパック〟‼」
「アブソレイル……」
「肩・腕・足の追加装備は
おお!
VDでここから戦場まで行くの、速度や航続距離が心配だったけど、それなら大丈夫だ。
「凄いや!
「あ、いや。ボクの作品じゃないんだ」
「え?」
「設計者はアリュー=ノブレス女史。ボクとゲームの
「ゲームの方の開発者が?」
「女史から君に伝言だよ。〝あなたにこれを、希望を託す〟――って」
「その人、僕がこれに乗るって……?」
「この事態を予見してた訳じゃないと思うけど。こいつは元々彼女が、1人のエースパイロットに最強の機体を与え、その一騎当千の働きで戦争を終わらせるために考案したんだ。そして絶対無敵の攻撃力と加速力の代償に操作性が最悪になった機体を乗りこなせる人材として、君を想定してたって」
……戦争が。
1人の働きでどうにかなるなんて幻想だ。
でも、そんなことを願ったその人は――
「優しい人ですね」
「……そうだね」
「僕はそんな大層な
実機の全力稼働のGで全身筋肉痛になって1週間寝込む程度の奴に、あんまし期待されても困るけど。この装備を他でもない僕に向けて作ってくれたのは光栄だ。
だから。
「――でも。〝ありがとうございます、ご期待に添えられるようがんばります〟って、伝えてください」
「わかった」
「アキラ、ダイゴ、急がないと」
「あ! そうだね
「アキラ、タンマ!」
「
「
「了解です! じゃあ
「「ああ!」」
2人に見送られ、オーラムの頭部コクピットに乗り込み、操縦席に着く。
両手で左右の操縦桿を握り。
両足を左右のペダルに置き。
――カグヤ。
――つば姉。
今、助けるから!
「アブソレイル=オーラム、行きます‼」
※ アリュー=ノブレス女史はながやん先生が二次創作で考えてくださったキャラクターです。彼女の生み出したアブソレイルパックともども、逆輸入させていただきました。ながやん先生、素敵なキャラクターとメカニックをどうもありがとうございました!
出展
『みじカク⇔すぐヨム 機巧操兵アーカディアン/選択画面でL+R+AB…隠しVDが!』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881335570/episodes/1177354054883268294
『みじカク⇔すぐヨム 機巧操兵アーカディアン/あの子に裏技的なパワーを』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881335570/episodes/1177354054884290794
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