第32話 人を殺すマシン
師匠。
ヨモギ。
みんな。
死んだ。
僕のせいで。
こんなことになるなら。
僕が死ねばよかったのに。
……嘘だ。
本当にそう思ってるなら、ヨモギに素直に撃たれてた。
僕はあの時、ただ自分が死にたくなくてヨモギを撃った。
あの瞬間。
僕はカグヤを迎えに行かなきゃいけないから――とか。
僕を大事にしてくれる人達を悲しませないために――とか。
そんなこと考えてなかった。
あの時点で既にどうしようもなく罪深かった僕なのに、その償いのために死ぬのなんて
正しさなんてどうでもいい。自分さえよければ。誰かを大切にするのも、その人との関係が心地いいから。結局は自分本位。
だから。
僕が生きるためなら。
友達だろうと殺す。
僕はそういう人間ってだけ。
……だけど。それでも……
悲しいよ‼
生きていてほしかった。
一緒に笑っていたかった!
それだって嘘じゃないんだ‼
なんで、こんな。
ほんの少し前まで、みんなで遊園地行って、楽しくて、幸せで。今は敵対してるカグヤと
こんなはずじゃなかった。
上手くやれると思ってた。
最初の内はゲームと実機の違いに対応できずにいたけど、軍に入って準備した今はもう。僕は、ロボットに乗りさえすれば何でもできる。そんな根拠のない自信を。
僕は何ができるつもりになってたんだ?
ヨモギの悲しみを癒せず、ヨモギの憎しみを乗り越えられず、師匠まで巻き込んで、ただ2人を死なせただけじゃないか。
復讐の連鎖を断ち切って、手を取り合って――なんて。ヌルくてご都合主義な結末に持っていけるとなぜ思った。
できるわけないじゃないか。
だって、ロボット関係ない。
僕にできるのはロボットを、
VDで、兵器でできるのは、破壊と殺戮――それが僕にできる全て。
僕はただの、
◆◇◆◇◆
「‼」
目を覚ます――寝てた?
僕はベッドの中で、宇宙服で寝て――掛布団の両サイドがファスナーでベッドに固定されてる。無重力の時、寝てる人がベッドから放り出されないようにするための機能――確かに今、無重力みたいだ。
ここ……
「アキラ君?」
部屋にいた女性が振り返った。
「お、おはようございます、フローラ先生」
「おはよう。気分はどう?」
「えっと、多分、大丈夫……あの、僕は」
「オーラムの中で気絶して、6時間眠っていたわ」
……そうか。
記憶にある、最後に見た光景。
変わり果てた、ヨモギの姿。
そのショックで失神したのか。
「それで……あのあと、どうなったんでしょうか」
「それはね――」
……。
オーラムの攻撃でサフィールが頭部を破壊され停止したあと、オーラムも動きを止めた。つば姉がグラディウスで迎えに来てくれて、オーラムを回収。
側にあった、ヨモギの頭も。
ヨモギの遺体で回収できたのは、それだけだった。今は
……よかった。
ヨモギが運動場で師匠を殺したあと
だから、犠牲者はヨモギと師匠の2人。
それ以上、死ななくて、よかったけど。
よく、ない……!
「2人の死は、今は他の艦には伏せるよう、上から指示が下ったわ。士気高揚のための
また、そういう……。
「大人の判断、ですね。必要なのはわかりますけど。でも、いつまでも隠していられるものじゃないでしょう?」
「ええ。だから、この戦闘の間だけ。
……ん?
「
「あの……この戦闘って?」
「あなたが寝ている間にルナリアの艦隊が攻めてきて。それで今、戦闘中なの。
「そ、そっちを先に言ってください‼」
のんびり話してる場合か!
「出撃します‼」
「待って! その前にこれ。ずっと何も食べてないんだから」
「ありがとうございます!」
「検査して体に異常はなかったから! がんばってね!」
「はい‼」
フローラ先生からもらったゼリー飲料をすすりながら艦内を移動。今は短くなってる連結部を通って後部船体から前部船体へ。更衣室で宇宙服の上に耐Gスーツを着て、パイロット控え室からダクトを通って、格納庫に立つオーラムの頭部コクピットへ。
アーカディアンの会員証カードで機体を起動。
全天周モニターが点く。機体周囲の光学映像と共に、各種計器類のアイコンも表示される。機体状態図――各部正常、損壊なし。ヨモギに破壊された左腕も元通り。整備班が予備パーツで修理しておいてくれたんだ。
「
『えっ、
『アキラ?』
ウィンドウに表示された艦長さんの、心配そうな優しい顔、声。師匠が死んで、ヨモギが死んで。
「……ご迷惑をおかけして、すみません」
『いいのよ、アキラ。それより大丈夫?』
「大丈夫です、戦えます」
『本当に?』
「……本当は全然、大丈夫じゃないです。師匠も、ヨモギも――僕にとってはついさっきのことで。でも、それで〝戦いたくない〟とはなりません。どんなに辛くても、僕の戦う理由がなくなったわけじゃない――」
僕はカグヤを。
取り戻すんだ。
「だから、戦います‼」
『わかったわ。でも、無理はしないでね』
「はい! ありがとうございます‼」
『では、戦況と指示を。艦隊同士はまだ離れていて、ちまちま砲撃で小競り合い中よ。でもその間では双方から発進したVD同士が広範囲でぶつかってる。VDの数・パイロットの練度、共にこちらがやや不利ね』
こっちのVD隊は急ごしらえだからな。
やっぱりそこは差が着いたままか。
『
「大丈夫、聞きました!」
『――
女王――カグヤがいるかはまだ不明か。
【わかっている。〝またクロスロードのみんなで遊べる日を取り戻す〟という、お前の望みのためには
まずい‼
つば姉はこの前、実機の戦闘で
「つば姉を助けに行かないと‼」
『待って。
「ッ、了解です‼」
『では、どのパックで出るかは自分で選んで。パック装着次第発艦。以降、こちらの指示がない限りは自己判断で暴れてちょうだい。私からは以上よ――気をつけてね!』
「はい! 艦長さん、艦の皆さんもお気をつけて‼」
返事しながらタッチパネルを叩いてバックパックを選択。アームがサフィールパックを運んできて、オーラムの背中にドッキング。
サフィールパック。
ヨモギの愛機、サフィールの性能を模倣するための。
【カグヤのこと、頼んだぜ】
最期、ヨモギはそう言ってくれた。
うん、任せてヨモギ――約束する。
カグヤは僕が、必ず!
「オペ子さん! 発進準備完了です!」
『進路クリア。オーラム発進どうぞ!』
「
拳を突き出すように、両操縦桿を前へ押し出し!
全身の力を込めて、両ペダルを奥まで踏み込む!
ピピピ、ピーン!
ズシャァァァッ!
水平Gに体をシートに押しつけられながら、オーラムが足下の台座ごと
真っ暗な宇宙に、無数の星。
星より強く光っては消えているのは――爆発だ。あの1つ1つが、戦闘の火。会戦……多数の部隊同士の大規模戦闘。そう言えば、実戦では初めてだ。
それがどうした!
ゲームでは、アーカディアンでは何度も経験してる! ゲームと
視界に散らばる、敵味方を示すマーカー。
赤は敵。
青は味方。
赤だけが固まってる、味方と交戦してない敵の集団。VDが4機――こちらのVD隊を突破して地球軍艦を攻撃しようと迫る、敵の1個小隊。
その1機に、
自動照準、
予告線が触れる寸前、敵機は急転進して予告線を
直前に。
操縦桿のパッドを弾いて手動照準!
予測した敵機の回避方向に先回り!
予告線に敵機が突っ込んだとこで、発砲‼
ガガガッ‼
ドガァン‼
昔ヨモギに習った、ヨモギの得意技。
ヨモギほど上手くはない――けど!
ガガガッ‼
ドガァン‼
ガガガッ‼
ドガァン‼
「あと1機‼」
弾道予告線が最後の1機に――
あ、これは――
ガガガッ‼
ドガァン‼
「あ、ああ……」
頭部に。
コクピットに、当ててしまった。
パイロットを、殺してしまった。
気にするな……!
仕方ないんだ。コクピットに当てそうな時は撃たない――なんて、悠長なことしてる余裕、今はないんだ! コンマ1秒でも早く敵を減らさなきゃ、自軍の敗北に繋がりかねない‼
「うぐっ⁉」
さっき飲んだゼリー飲料が
ビーッ!
警告音、回避‼
敵弾が側を
新たな敵の小隊が迫ってくる。僕を標的と定めてる。腕は並っぽいけど、連携の精度は高い感じだ。それが4機がかり。今の心と体の
「――て、たまるか」
何かが。
弾けた。
意識がクリアになっていく。
世界がスローになっていく。
まただ。この感覚――〝ゾーン〟だ。
敵機から次々と伸びる弾道警告線。それを最小の動きで避けながら自動照準、1機に砲口を向け、発砲――撃墜を確認せずに――次の1機に照準を変え、発砲――当たるとわかってるから。
瞬く間に4つ。
爆発の炎が咲く。
次。
戦場を駆け回り。
獲物を見つけ。
狩っていく。
『うわぁぁぁ‼』
『いやぁぁぁ‼』
無事に脱出する者もいれば。
機体と運命を共にする者も。
それは彼等の運次第。
『助けて、ママ‼』
流れ込んでくる悲痛な感情。
僕は殺戮機械。
戦う力しかない。戦うことでしか願いを叶えられない。それなら僕はこの力で、力尽くで――僕の欲しいものを、大好きな女の子との日々を、大切な家族と仲間達の平穏を――奪い取る。
そのためなら――
『嫌! 死にたくない‼』
ドガァァァン‼
「――何人だって、殺してやる」
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