第9節 戦争の行方
第33話 獅子奮迅
全天周モニターに映る戦場。
視界いっぱいの、暗い宇宙。
無数の四角い枠状マーカーが、星より目立って光ってる。離れてると見えづらい
その色は、赤と青。
赤は敵軍――ルナリア王国軍。
青は友軍――地球軍。
ほとんどは
違うのはそれが、実体だってこと。
その中に乗ってるのもゲームの時と同じ、アーカディアンのプレイヤー。僕含め、ほとんどはアーカディアンでVDの操縦を覚えただけの、兵士としては素人。正規軍人もいるけど、その人達もアーカディアンを遊んでたのは一緒。
プレイヤー同士の、殺し合い。
ゲーム内で友達だった者同士が敵味方に分かれて戦う、数時間前の僕とヨモギのようなことも、この戦場のあちこちで起こってるのかも知れない。
そうして撃ち合って。
撃たれて、やられて。
撃墜された機体のマーカーは、消える。
赤も青も、ぽつりぽつり、消えていく。
VDのコクピットは頭部――機体の末端にあるから、被弾する確率は低い。それでも、当たる時は当たる。撃墜されたパイロットの何割かは、コクピットへの直撃を受けて、死んでいる。
せめて味方の死は防ぎたい。
死なないよう守りたい――
なんて、思い上がりだ。
僕1人で戦ってるんじゃない。みんなで戦ってるんだ。僕1人で味方を全てを守る、僕1人で敵を全て倒すなんて――いや。傲慢だって構わない。それで守れるなら。でも手が行き届かない。守り切れない。
僕は僕で、死なないように戦って。
助けられる味方を助け。
味方の勝利に貢献するしかない――けど。
中にはそう割り切れない、どうしても死んでほしくない人もいる。
つば姉。
よかった。
まだ無事だ。
僕と同じ上位ランカーで、僕と違って体もしっかり鍛えてて、体に負荷のかかる実機でも問題なく戦えるつば姉なら、滅多なことはないだろうけど。敵VDの中には同じく実機を乗りこなす上位ランカーがいる。
ルナリア王国軍総司令。
ジーン=アームストロングが。
つば姉と
実力を出し切れずに。
もし、つば姉がピンチになったら。
他の何を置いても、助けにいこう。
それまでは、とにかく1機でも多く敵を
それがつば姉の負担を減らす、援護にもなるんだから。
◆◇◆◇◆
サフィールパックを装備したオーラムを駆って戦場を巡り――獲物を見つけ次第、右操縦桿のパッドを親指で押し続けて自動照準。オーラムが脇に抱え持つ
ガガガッ――ズガァン‼
連射した弾丸は全て命中。
標的を粉砕、爆散させる。
照準、発砲、爆発。
照準、発砲、爆発。
照準、発砲、爆発。
ズガァン‼
ズガァン‼
ズガァン‼
繰り返す度、敵機が減っていく。
実際はその間にも、複数の敵機からの攻撃を避けたり、標的の嫌がる位置へ動いたり、色々してるけど。周囲がスローモーションになったように感じるほど感覚が研ぎ澄まされる超集中状態〝ゾーン〟に入った今の僕には、簡単な流れ作業だ。
敵の弾は当たらないし。
僕の弾は――外れない。
『うわぁぁぁ‼』
『いやだぁっ‼』
ガガガッ――ズガァン‼
ガガガッ――ズガァン‼
敵VD隊の内、まずはこちらのVD隊の壁を突破して後ろの友軍艦隊を襲おうとする連中を優先的に狩っていく。
『もう、一度……会いた――』
『呪って、やる、アキラ――』
それを見かけなくなったら、敵VD隊と交戦してる友軍VD隊の内、形勢不利なとこを探して援護に向かう。
ズガァン‼
『助かった! ……アキラか?』
「その声、
この前、耐G教習会で会った。
耐G訓練でヘロヘロになった僕に「実戦で役に立たない奴は戦うな」って言ってきた、アーカディアンの中位ランカー。僕が実戦でも役に立つと証明するために挑んだシミュレーター勝負でギア1の僕に負けて、その場から逃げ出した――アーカディアン義勇兵、辞めちゃうかもって師匠が心配してた人だ。
『
よかった。
辞めてなかったんだ。
『悪い、母艦に補給に戻っていいか? 俺、もう弾切れで!』
「行ってください。僕が、敵をそっちには行かせませんから」
『すまねぇ、じゃあ! ――ああ、その』
「はい?」
『……死ぬなよ‼』
「……ありがとう。はい、お互いに」
あの時は、仲良くなろうとして失敗した相手で。向こうは、本当はまだ思うことがあるのかも知れないけど、今は気遣う言葉を掛け合えた。なんだか胸が、温かい。穏やかな気持ちで――
敵を撃つ。
ガガガッ――ズガァン‼
ガガガッ――ズガァン‼
『ぎゃああああッ‼』
『死ぬのは嫌ァッ‼』
ガッ――ズガァン‼
連射が途切れた。
僕も弾切れだ。
「
『ルベウスパック射出します‼』
サフィールパックの装備の内、
「ドッキングセンサー、軸線同調」
――装着。
母艦に戻らなくても着脱式バックパックの方から来てもらうことで補給ができるのも、汎用型VDの他にはない強みだ。
両操縦桿を前に押し込むと、これまでよりグンと早く前進する。高機動型のルベウスパックは砲戦型のサフィールパックとは
敵VD、4機編成の小隊が3隊、計12機がこっちに。12機から一斉に向かってくる弾道警告線――
操縦桿を持つ左右の腕が激しく前後する。
それを握る手が上下し、手首がスナップ。
ペダルにかけた左右の足が小刻みに上下。
弾道警告線の網の目を縫うようにかい潜り、敵の1機へ一瞬で――
『うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉』
ズバァッ‼
――肉薄。すれ違いざま、オーラムが両手で持つ直刀、換装後も取っておいたサフィールパックの
ルベウスパックの機動力。
サフィールパックの刀。
2つのパックの合わせ技だ。
『よくも――ガッ‼』
すぐにその小隊の別のVDに肉薄、両グリップを奥にひねり、機体が前傾する動きに合わせて真っすぐ刀を振り下ろす。
敵機を脳天から股下まで
中のパイロットも同じになったろう。即死だ。今回はこの角度で斬るのが最適な立ち位置だったから――運がなかったね。
『畜生! この悪魔め‼』
『あ! バカ、撃つな‼』
ビィィッ‼
ズガァン‼
『あ、あああッ⁉』
『なんてことを‼』
考えなしに敵の懐に飛び込んだんじゃない。敵に肉薄すれば、他の敵は味方に当てずに僕だけを撃つのは困難になる。それでも撃って味方誤射してくれればよし、撃たないなら撃たないで敵は数の利を活かせなくなる。
連携封じ。
『来るなッ、来るなァッ‼』
『落ち着け! 落ち――』
『だっ、ダメだ、逃げ――』
恐慌状態――敵が
逃がさず――
『うおっ⁉ なんだ、あっという間に敵がゴソッと消えたぞ‼』
『あ、オーラム! アキラだ! さっすがチャンピオン‼』
『ゼラトとアキラがいてくれりゃ、怖いモンなしだぜ‼』
味方の歓声――
『いいぞ、みんな!』
師匠⁉
……の声だけど、違う。師匠は死んだんだ……! これはボイスチェンジャーで変えたつば姉の声。師匠の
つば姉……
告白されて、応えられなくて、泣かせて――その直後に、師匠とヨモギが立て続けに死んで。つば姉、今どんな気持ちで。落ち着いて話したい。でも今は無理だ――これが終わったら。
だから必ず、2人で生きて帰る。
『押し返すぞ‼』
オオーッ‼
つば姉の号令に
よし、僕も――気を引き締めていくぞ!
◆◇◆◇◆
当初劣勢だったVD同士の戦い。こちらが大分押し返して、前線が敵艦隊側に寄ってきた。僕はこれまで通り、つば姉同様、不利な味方を援護して回る遊撃隊を務める――
け、ど。
敵機が減って、こちらより少なくなったか。友軍のVD部隊はどこも敵部隊より多数で、有利に戦えてる。今すぐ援護が必要そうなとこはパッと見――ない。
なら!
僕は、もうすぐそこにいる敵艦を。狙うは商船を改造したVD母艦の群の前に出て、盾になってる戦艦や巡洋艦。それらの艦種は攻撃力・防御力ともに優れ、装甲の貧弱なVD母艦を身を挺して護りながら、強力な艦砲でこっちの艦隊を狙ってる。
いつ、それが当たって友軍艦が沈むか。
その中には僕の母艦、
その脅威を排除する!
オーラムの手に
ドドドッ‼
敵の
圧倒的なミサイル迎撃能力を誇る
近距離で大量のミサイルを放ち、その対処能力を飽和させる。
アーカディアン世界大会・集団の部の決勝戦、僕はこれでやられた。
けど、今は。
オーラムのバックパックはあの時のネイクリアスパックよりずっと速いルベウスパック。自動追尾してくるミサイル群から少しの間なら逃げられる。逃げながら、敵巡洋艦の1隻に突っ込み――
ドガガガガッ‼
――直前で回避。僕を追っていたミサイル達は急に曲がれずに巡洋艦に激突し、爆発し、撃沈させた。
次!
周囲の敵艦が放ってくる
少々のレーザーでは戦艦や巡洋艦の装甲は抜けないけど、同士討ちを嫌ったんだろう、砲撃の手が
この隙に!
一際大きく目立つ戦艦に接近。
マーカーに表示される艦名は。
〝
ごめんよ――
その体に
ズバッ‼
ズバッ‼
この連結部の関節で後部船体を振る慣性で、宇宙艦は姿勢制御してる。それができなくなれば回避性能がガタ落ちする。あとは――
カッ‼
巨大な光の奔流が
友軍艦からの砲撃。このビームの規模は艦首特装砲の
撃ったのは――
僕が
ガガガッ‼
悪寒がして、反射的に左ペダルを踏んで機体を右へ横っ飛びに。直後、すぐ側を連射された実弾が通りすぎた。
『そこまでです。全く参りますね、君には』
視線の先に、白黒に塗り分けられた道化師を象ったVD。
CVD-05〝ジェスター〟が2丁の銃を両手に構えてる。
「
『やあ、アキラ』
いつかのように、相変わらず。
彼は優しく平然と、そう答えた。
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