第28話 水着回

 愛鷹アシタカの動作確認を終え、千葉ちばコロニーの舞浜まいはまのホテルに帰った翌日。


 西暦2037年8月23日。

 日曜日、休日。



【明日、つばめちゃんの17歳の誕生日でね。夜ホテルでサプライズパーティするから、準備の間つばめちゃんを遊園地に連れ出したくて。アキラがいれば確実に釣れるから、一緒に来て!】



 ――って。


 艦長さんに誘われ、今日は遊園地。

 参加者はアーカディアン仲間6人。

 

 朝、ロビーで集合。



博士はかせ、インドア派なのにありがとうございます」

「艦長、このメンで遊べるならボクだって外出るさ」


「おはよっす、ヨモギ!」

「? ……あ、ゼラト!」



 艦長さんは白い水兵セイラー服。半ズボンもボーイッシュで似合ってる。

 しまさんはアロハシャツ。今日は無精ヒゲを剃ってさっぱりしてる。

 師匠は半袖に長ズボン。有名人なので変装にサングラスかけてる。

 ヨモギは白いYシャツ。青いジーンズの長ズボンは転倒対策だって。

 僕は半袖の上にベスト。下は半ズボン。



「おはよう、つば姉」

「おはよう、アキラ」



 そして、つば姉は――白のワンピース。

 長く真っ直ぐな黒髪によく似合ってる。


 この前、一緒に買い物した時にも見たけど。この格好だと、雰囲気が柔らかくなって。普段とはまた違った魅力に、落ち着かない気分になる。



「出発よ‼」



 艦長さんはヨモギが転ばないよう彼女と手を繋いで歩いて。

 僕はつば姉の隣を歩く。ちゃんと楽しめてるか見てないと。


 つば姉の横顔を見上げる。

 笑顔がまぶしくて、可愛い。


 ドキドキする。



「わたしの顔、何かついてるか?」

「いや! ……つば姉、かわいいなって」

「な⁉ ……この前は、無反応だったのに」

「この前も、内心そう思ってたよ」

「そう、か……嬉しい」



 つば姉、顔真っ赤。


 凄く嬉しそうで……胸が痛む。

 僕にはカグヤがいるのに……。


 でも、ごめん、カグヤ。


 今日だけ、つば姉のこと褒めるの許して。

 今日1日、つば姉に笑っててほしいから。



 ◆◇◆◇◆



 遊園地は、ホテルを出てすぐ。


 地球上の、今は滅びた日本国の、千葉ちば県の地理を再現した千葉ちばコロニーだけど、地球の舞浜まいはまにあった業界最大手企業のテーマパークは千葉コロニーでは誘致できず。こっちには別の会社の遊園地が作られた。


 園内は親子連れやカップルで賑わってる。

 みんな笑顔で、楽しそうで、幸せそうだ。



「平和だな」


「つば姉? うん、戦争なのが嘘みたい」

「今はまだ、な。敵が来れば、ここも――」

「うん……この笑顔、くもらせたくないね」


「だからオレたちが守るんだろ?」

「師匠――うん、そうだよね」

「そうだな、ゼラト」

「ミンナで守りまショウ!」

「ボクも新型開発、がんばるよ」


「はーい、みんな! 士気高いのもいいけど! 今日はそーゆーのナシ! さっ、遊ぶわよ‼」


「(×5)はーい!」



 コーヒーカップ。



「ゼラト、回しすぎ! 目が回る‼」

「すんません、博士はかせ!」

「グラール、だらしナイ!」

「ボクはパイロットじゃないの‼」



 ジェットコースター。



「ははっ!」

「うわぁ!」

「怖いかアキラ? VDの機動ほどではないだろう」

「つば姉! 自分で動かせるのとは違うよ‼」



 あちこち巡って――午前の予定の最後。

 園の中央にそびえ立つ、西洋風のお城。



 MRゲーム〝魔王城〟



 剣と魔法の世界に生きる冒険者となって、魔物と戦いながら城内を進み、最上階で魔王を倒して世界を救う――そんな王道ファンタジーRPGの、MR版。


 MRはMixedミックスド Realityリアリティ

 複合現実。


 全員、レンタルの透明なゴーグルを装着。これはディスプレイになってて、投影される映像が現実の光景に重なって見える。こうして現実と仮想現実を複合するのがMR。



[初期設定を行います]



 目の前に浮かぶ映像パネルを叩いて操作。

 自分が演じる冒険者の姿と装備を決める。



「完了♪」



 設定を終えた艦長さんの姿が変わる。

 ドクマークの帽子に黒いコート。

 腰に曲刀カットラス

 大航海時代の女海賊の船長。

 元からの銀髪によく似合ってる。



 他のみんなも――



 師匠は、中華風の胴着を着た格闘家。武器は徒手空拳。


 ヨモギは、古代ギリシャの筒型衣チュニックを着た女狩人。武器は長弓。


 しまさんは、ゆったりしたローブを着た魔法使い。武器は杖。


 つば姉は、日本の戦国時代の鎧を着た女侍。武器は日本刀。


 画像処理でみんなのかけてるゴーグルは見えづらくなってるから、ファンタジーな服装に近代的なゴーグル、って違和感もない。


 僕は、筒型衣チュニックの上に胸当て。

 武器は右手に長剣、左手に盾。

 古代地中海の戦士のイメージ。



「初めてやるけど、MRってすごいのね!」

「艦長殿もですか。オレも初めてです」

「僕も」

「ワタシも」

「わたしも」


「じゃあ、経験者はボクだけか」

博士はかせが? なんか意外っすね」


「仕事でだよ、ゼラト。ライバルの研究さ。MRは完全に仮想世界に没入するVRとは親戚。VRゲームのアーカディアンとはしょうばいがたきだからね。今日も敵情視察させてもらうんだ」



 しまさん、アーカディアンの開発者としての姿勢を忘れてないんだ。

 戦争に利用されても、ゲームとしてのアーカディアンも続いてく。

 僕は開戦以来、遊べてないけど、それは嬉しい。



「みんな、魔王退治へ出陣よ‼」

「(×5)おー‼」



 城門を潜り中庭へ。立体映像の魔物の群れが現れる。剣や槍を構えたオーク――豚面の亜人の兵士達。そこに――



「行くわよ‼」

「参る‼」

「やぁってやるぜ‼」



 艦長さん・つば姉・師匠。

 前衛の3人が突っ込んだ。


 艦長さんの曲刀カットラスうなる。

 つば姉の日本刀がひらめく。

 師匠の拳が風を切る。


 3人とも凄い動き‼


 格闘術のキャリアは――艦長さん・つば姉・師匠――の順に長く、実力もその順に高いって聞いたけど、僕にはみんな凄すぎて判別つかない。

 3人ともオークたちの攻撃を余裕であしらい、機関銃マシンガンみたいな猛烈な勢いでバッタバッタと敵を薙ぎ倒していく。生命力バーを削り切られたオーク達の体が、無数のポリゴンに砕けて消た。



「グラール、ワタシ達は上の敵! アキラは、ワタシ達を守ッテ!」

「「了解!」」



 周りの城壁の上から、弓で僕たちを狙うオーク兵達。

 ヨモギが弓に矢をつがえ、嶋さんが魔法の印シンボルを描き出す。


 けど先に敵が撃ってくる――僕の出番!


 ヨモギに来た矢を盾で受け!

 しまさんに来た矢を剣で弾く!



 ガキッ!

 バキッ!



 あ、コレ楽しい‼



「サンクス、アキラ!」



 ヨモギの弓が矢を放つ!

 オークを――射抜いぬいた‼



「〝投石魔法カタパルト〟‼」



 しまさんが杖の出す光で空中に描いた正方形(□)から岩が飛ぶ!

 スローに飛んだ岩つぶてに、もう一体のオークが押し潰される!



「ヤッタ!」

「うっし!」



 2体のオークが消滅。


 壁の上の弓兵はあと1体――あ!

 あいつ、狙いは僕達じゃない!


 前衛のつば姉!



「〝防壁プロテクション〟‼」



 僕は光る指先で素早く五芒星(⛦)を描いて魔法を発動!

 ⛦から放った光がつば姉を包み、敵のった矢を弾いた!


 直後、ヨモギの矢がその敵を射抜いぬく!



「アキラか⁉ 助かった‼」

「どういたしまして‼」



 魔法はプレイヤー全員が使えるんだ。ただシンボルを大きく描く方が威力が高くなるので、魔法使いらしい長い杖が一番大きく描けて有利ってだけで。



「よし! 城内に突入よ‼」

「(×5)了解‼」



 そして――


 オーク兵。

 骸骨兵。

 動く甲冑。


 様々な魔物と激闘を繰り広げ、城の内部を突き進み――

 最上階の王の間で待っていた魔王は、巨大なドラゴンだった。


 蜥蜴トカゲのような体。

 蝙蝠コウモリのような翼。


 ワニのような顔――その口から炎の吐息が‼

 1ヶ所に固まってる僕等をまとめて襲う‼



「〝防壁プロテクション〟‼」



 しまさんが張った巨大な魔法バリアがその炎を防いでかき消す!



「行くわよ‼」

「「了解‼」」



 前衛3人が突撃!



「〝水月斬すいげつざん〟‼」

「〝烈風斬れっぷうざん〟‼」



 ☽のシンボルで生んだ水をまとった艦長さんの曲刀カットラス

 〇のシンボルで生んだ風をまとったつば姉の日本刀。


 2筋の斬撃が、竜の両翼を切り落とす!



「〝爆熱拳ばくねつけん〟‼」

「〝水月閃すいげつせん〟‼」



 △から生んだ炎をまとった師匠の拳が、竜の腹を殴って揺らす!

 ☽から生んだ水をまとったヨモギの矢が、竜の右眼に突き刺さる!



『ギャオオオ‼』



 苦しそうな叫びを上げる竜が、右前脚の鉤爪を振り上げる!

 僕はその一撃に盾を砕かれながらも――竜の懐に飛び込む!



「〝爆熱剣ばくねつけん〟‼」



 燃える剣を真っ直ぐ天へ突き上げる!

 竜の喉を貫いた剣から火柱が上がる!



『グフッ――』



 生命力バーが0になり。

 竜の巨体が砕け散った。



 ◆◇◆◇◆



「エイラ、楽しかったデスネ!」

「ええ! リズちゃん、疲れてない?」

「ハイ! 弓兵アーチャーあまり動かないノデ!」


「本当に魔法を使える感覚がいいっすね!」

「ああ、敵ながら見事だよ……」


「アキラ、途中守ってくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

「最後、かっこよかったぞ」

「つば姉はずっとかっこよかったよ」

「そ、そうか」



 園内レストランでワイワイしながら昼食。

 食後、少しまったりしてから午後の予定。


 まずはプール。


 ウォータースライダー。

 流れるプール。波のプール。

 色々ある、巨大プール施設だ。


 男女別れて着替え。

 中で女性陣と合流。


 そこに――3柱の女神がいた。


 全員ワンピースの水着姿の。

 つば姉・艦長さん・ヨモギ。


 3人とも超美人で。

 体引き締まってて。

 おっぱい大きくて。



 青の水着。

 波打つ短い金髪に碧眼のヨモギ。

 3人で背丈は真ん中、胸は一番小さい。

 それでもお椀を形作る、確かな膨らみ。

 均整が取れた自然体なプロポーションだ。


 赤の水着。

 短い銀髪に赤眼の艦長さん。

 体は一番小さいけど、胸は一番大きい。

 肌もキレイで、40前後アラフォーとは思えない。


 黒の水着。

 真っ直ぐで長い黒髪に黒眼のつば姉。

 髪は今は頭の後ろでまとめてる。

 背は一番高く。

 胸は艦長さんよりやや小さい。

 でも高い位置にある分、存在感は断トツ。



 3人とも刺激的すぎる!


 だ、ダメだ! 僕にはカグヤがいるのに、他の女性にえっちな気分になっちゃ! ……恋人にならなってもいい? それもなんか体目当てみたい――違うんだカグヤ、えっちできなくても僕は君が大好きだ!



(へー。アタシの体には欲情しないんだ)



 げっ、幻聴が⁉ 違うんだカグヤ、君に性的魅力を感じないって話じゃないんだ。君の胸が服の上から膨らみを確認できないほどでも、それはそれで!



「おらー、男子! 感想を言わんか‼」「イワンカ!」

「エロいっす!」「しょ、所詮しょせんは3次元の女だね!」

つかさクン、セクハラよ。博士はかせ、水に叩き落すぞ?」



 騒いだあと――



「さて。じゃあ、自由行動にしましょう」

「じゃあオレ、ひと泳ぎしてきます!」

「元気だねぇ。ボクは散歩してるよ」



 艦長さん?

 師匠?

 しまさん?



「エイラ、ワタシ、ヒトリで泳いできマス」

「大丈夫?」

「水中なら転びマセン。おかより楽デス」

「わかったわ。行ってらっしゃい」

「ハイ♪」



 ヨモギも。


 なんか、あっと言う間に解散しちゃった。

 最初くらい、みんなで遊びたかったのに。


 てか、なんか変――



「私は優雅に寝ながらドリンク飲んでるから♪ 燕ちゃんとアキラは2人で遊んでなさい♪」


「はぁ。では、行こうかアキラ」

「う、うん」



 艦長さん? これ「2人きりでつば姉をもてなせ」って指令⁉ それで他の3人も遠ざけて。僕とカグヤのことわかってるでしょうに……でも、今日はいいか。



「つば姉、どこ行きたい?」

「いや、お前の行きたい所へ――」

「僕はいいから、つば姉の行きたい所に」



 つば姉の誕生日だもん。



「では、25mプールで遊泳するか」

「うん!」



 つば姉と並んで歩く。


 水着姿のつば姉が真横に。水着、この前一緒に買ったやつだ。試着したのを見せられた時も参ったけど、この状況もヤバい。


 少し横見るだけで線の浮き出た大きな胸が目に飛び込んでくる!

 ただでさえ今日はいつも以上につば姉のこと意識しちゃうのに!



「アキラ、先に行っててくれ」

「えっ?」

「わたしは、その、花をみに」



 花摘み……?

 あ、トイレ!



「じゃ、じゃあ、行ってるね」

「ああ、すぐ追いつくから!」



 つば姉が離れてく。


 ……。

 ……。


 つば姉、今頃――

 って、コラ自分!


 心を無にしろ!

 何も考えるな!


 ……25mプールに到着。

 先に入って待って――



 ずぼっ



 ⁉ ちょうど頭まで水に浸かった‼

 立ち泳ぎして、顔を水から出して。


 水深1.5m?


 僕の身長と同じかい。立ち泳ぎ疲れるな。

 力尽きたら溺れる。縁に掴まって――⁉



「(がぼっ‼)」



 両脚の脛に激痛が! 姿勢崩して水中に沈んだ!

 うっかり息吐いちゃって、肺の中にもう酸素が!


 脚、痛くて動かせない!

 手だけじゃ上がれない!


 苦しい‼

 ヤバい‼


 嘘、まさか、死? こんなところで⁉

 僕はまだ、何も‼ カグ……ヤ――



 ◆◇◆◇◆



「アキラ、アキラ‼」

「つば、姉……?」

「アキラ、よかった……!」



 気がつくと、目の前につば姉の泣き顔が。

 目覚める前にふれた熱が、唇に残ってた。

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