第22話 重い枷
今日は
敷地に入る――テントだらけ。
テントで寝泊まりしてるのはこの基地の人じゃなく、ルナリア王国に奪われた
民間人用とは別の、軍人用の避難所。
同じ
「あ。あの子、アーカディアン義勇兵ね」
「あんな子供を戦わせるとは、
「ええ……」
まともな、いい人達だ。
「待たんか!」
「
後ろから誰かに肩を掴まれた⁉
振り向く――怖い顔の――ッ‼
ブンッ‼
軍服のオッサンが殴りかかってきた⁉
「この、
「
「なんだ、だと⁉
敬礼を欠かすことか。軍隊では階級が下の者は、上の者と会う度に敬礼しないといけないって。でも
そもそも――
「待ってください、僕は――」
「歯を食いしばれ! 修正してやる‼」
駄目だ! 殴られ――
ガシッ‼
「そこまでです、
誰かがオッサンの手首を掴んで――あ!
少年漫画の熱血主人公みたいな。
ツンツンはねた黒髪のお兄さん。
「
「
師匠だ‼
◆◇◆◇◆
「その者は欠礼した! よって修正を――」
「バーカ。その子にアンタに敬礼する義務はねぇよ」
「貴様⁉ 上官に対する口の利き方を忘れたようだな‼」
ブンッ!
パッ――
「あだだだだだッ⁉」
ざわざわ
――気がつけば、周りに人垣が。
みんな
「こんなことをしてタダで済むと――」
「そりゃこっちの
「な、何⁉」
「オレはもう二等兵じゃねぇ、アーカディアン義勇兵だ。そっちの子もな。オレ達は正規兵の階級制度から切り離された特別な兵士で、どの階級の正規兵とも対等。敬礼も敬語も義務じゃねぇ。欠かしたからって殴っていい存在じゃないんだよ‼」
そう。
アーカディアン義勇兵は、月の
師匠は元は正規兵だったけど。
大半は僕同様、民間人出身で。
僕達に本来の厳しい軍規を教えてる暇はない。敵は待ってくれないから。即実戦投入される僕達に軍規を課し、違反者を量産してたら戦えない。そこで正規兵ほどには軍規に縛られない特別扱いになった。
「そんなバカな話ある訳なかろう‼」
「いえ!
周りの人垣から、誰かが助け船を。
その声に他の人達も次々同意する。
「何……?」
「夏服の階級章は
「え――あ⁉」
「目下の過失を見つけちゃあ修正だっつって殴ることばっか考えてっから、そんな
「貴様ァァァ‼」
「
軍人さんが走ってきて師匠の側に。
階級章――
「話は
「わかりました。ありがとうございます」
「ちゅ、中尉――」
中尉が
バキッ‼
「馬鹿者ッ‼ 英雄たる
「あがっ‼ すみま――」
バキッ‼
バキィ‼
……いい気味♪
「お待ちください中尉、子供の目に毒です」
あ。見たいのに!
でも、それでこそヒーローだ。
やっぱ師匠は、かっこいいな。
「では見えない所で。失礼いたします!」
「お疲れ様です!」
「悪夢、だ……」
中尉が
「いいぞーっ‼」
「
途端に周りから
正規兵も義勇兵もみんな師匠を褒め称えてる。すごい熱気!
「素敵‼」
「抱いて‼」
「どーもどーも――君、大丈夫かい?」
「うん! ありがとう、師匠‼」
「師? ……え、アキラ⁉」
「うん!」
「アキラ⁉
「英雄と王者が揃ったぞ‼」
「なんだお前、アバターそっくりだな!」
「師匠こそ」
「はは、まぁな」
頭をわしゃわしゃされる。
えへへ。こそばゆい。
「心強いぜアキラ。お前がいりゃぁ、勝ったも同然だ!」
「そんなことないって」
「
……
今のままじゃゲームで互角だったカグヤや
Gに耐えられるようにならないと。
そのために今日、ここへ来たんだ。
◆◇◆◇◆
「みんな! 今日は集まってくれてありがとうな! 司会を任された
オオーッ‼
駐屯地の建物の、学校の教室くらいの部屋。師匠の声に歓声を上げる義勇兵達。男女は半々くらい。歳は10代くらいが多いけど、大人も結構いて。国連軍だけじゃなく、太平洋連邦軍の義勇兵もいる。
「いよっ、大将‼」
「あの戦いでの活躍、凄かったな‼」
「さっきもかっこよかったですわ‼」
「サンキュー!」
この集まりの目的は、これから共に戦う義勇兵達が一緒に耐G能力向上の教習を受けGに耐える体作りをしつつ、義勇兵同士の仲を深めること。
実機の操縦には欠かせない、耐G能力。
でも誰もそんなの鍛えた経験ないから。
師匠もパイロットじゃなかったから受けてなかった。軍で体を鍛えてたからこの前の戦いではなんとかなったけど、実はキツかったって。なので今日はみんなと一緒に教習を受ける。
今はその前の
「みんな知ってっだろうけど、オレのアーカディアンでのプレイヤー名は〝ゼラト〟だ。でもみんなはプレイヤー名、身バレが嫌なら黙ってていいし、言わない人には聞かないこと。ま、当然だな」
各人の自己紹介。
「俺は……です! ランクは、中の下‼」
「あんた中位だったん⁉ タメ口利いて、すんませんしたぁ‼」
「ま、今後は気をつけてくれたまえよ、下位ランカーくん‼」
言えって言われたわけでもないのに、みんなアーカディアンでの
はぁ……ほんと、嫌。
「
「男⁉」
「うぇーい‼」
「チャンピオーン‼」
自分が上位ランカーで、世界王者でも。
僕も聖人君子じゃないから、上手い方が偉い、って思っちゃうとこある。それを自覚する度に自己嫌悪になる。人間の価値はそんなことで決まらないし、こんな意識は争いの種にしかならない。
てか、なった。
アーカディアンが始まった頃はみんな、ロボットを操縦できることに感激してただ無邪気に遊んでたのに。勝敗にこだわる内にケンカが多くなって。
僕も、嫌な想い。
したし、させた。
カグヤと仲良くなって、好きになったのも。アイツはさっぱりしてて、全力で張り合っても険悪にならなくて、それがすごく嬉しかったから。
ロボット好き同士、遊んで。
楽しめれば、充分なのにな。
◆◇◆◇◆
「Gとは重力のことです」
教習開始。教官はここの正規兵。
まずは座学。Gの基礎を学ぶ。
「私達がこうして地面に立てるのは、下に向かってGが働いているから。この力の正体は、コロニーでは回転が生む遠心力であり、地球ではその巨大な質量分の万有引力です。Gと呼ばれる力の実態は様々で、つまり〝重力っぽく感じる力〟はみんなGです」
砕けた説明する人だな。
わかりやすくて助かる。
「Gの強さは地球上の重力を基準に、その何倍かで表します。地球やスペースコロニーは1G、月は1/6G、宇宙は0Gです」
戦争の、原因。
「これら環境から受けるGの他に、VD搭乗時は機体を動かすことでもGが働きます。加速中は進行方向の反対側へ加速Gが。機体を回転させた時にはその弧の外側へ向かって遠心力のGが」
進行方向の逆側に。
円運動時に外側に。
うん、確かにそうだった。
「Gは私達の体のどの方向へ働くかで区別します。足下へのG、地面に立つ時に感じるGを〝
そして。
Gによる体の変調は血の偏りが原因と、教官は教えてくれた。
+Gなら下半身に血が溜まって頭の血が足りなくなり。
-Gだと逆に頭に血が上るのが良くないと。
【-G】
-1G:地球上で逆立ちした感じ。
-2G:目眩や頭痛。
-3G:レッドアウト。視界が赤くなる。
レッドアウトは血が眼球に集まって起こり、最悪、失明する。
また-Gがかかるほど、脳内出血の危険が増す。
「-Gに耐える
【+G】
3G:グレイアウト。視界が狭く白黒に。
4G:ブラックアウト。視界が真っ黒に。
5G:
+Gで脳の血が減ると視界が段々暗くなり、最後は気絶する。そういや僕が前に気絶した時もそうだった。
「
ッ‼
「なお、体に水平にかかるGはあまり体に影響しませんが、それでも強すぎると+Gと同じ諸症状を起こすことがあります」
◆◇◆◇◆
そして遂に、+Gの耐え方を教わる。
その方法は、主に3つ。
1に、筋肉。
2に、耐G呼吸法。
3に、耐Gスーツ。
「1に筋肉‼ +Gが強くなるということは体が重くなるということ。それを支える筋肉を鍛えることが全ての基本です。特に重要なのが首の筋肉。人体の中で頭は特に重く、それを支える首は細く、重量増加の負荷を一番に受けます。これを支えられなければ首を
日頃の鍛錬はやっぱ大事ってことだな。
「2に耐G呼吸法‼ 足とお腹にグッと力を入れて、3秒間に1回、瞬間的に呼吸します。3秒より短くても長くてもダメ。こうすると下半身の血を上半身、頭へと送り出し、グレイアウト
呼吸法。気功みたいでカッコいい!
「3に耐Gスーツ‼ ――を着用すること。スーツの機能は耐G呼吸法と同じ、脚部を圧迫することで血液が下半身に偏るのを防ぎます。これによって着用者の耐G能力は1.5G分ほど高まります」
耐Gスーツ、2戦目からは着用してたな。
そこそこ戦えたの、スーツのおかげかも。
「この3つで耐G能力をフルに高めても、6Gからグレイアウトが起こりやすくなり、9Gは短時間しか耐えられません。これが人間の限界です」
僕は最強を目指すんだ。
そこまで鍛えないとな。
「無論、今の皆さんの限界はもっと下です。実機に乗る時はGが耐えられる範囲に収まるよう、出力段階を抑えてください。無理して高いGをかけると体の不調でミスを招き、かえって危険です」
◆◇◆◇◆
筋力トレーニングの方法を習って。
耐G呼吸法の方法を習って。
最後は、遠心力発生装置で耐Gの実践。
でっかい時計の針みたく回転するバーの先に取りつけられた箱。
箱の中の座席に着き、シートベルトを締めると箱が90度倒れる。
頭を針の根本に向けて。
針が回り出すと遠心力が針の先にかかり、それは中の僕にとっては足下へ向かう+Gになる。それを、耐G呼吸法で耐え――
「ぐぇぇぇぇ⁉」
首が痛い‼
体が潰れる‼
今回は軽く慣らしで!
最大3Gって話が‼
それでもこれ⁉
……。
……。
ピーッ
回転が止まる……や、やっと終わった。
扉が開いて、箱から出る――ダメだ。
ばたっ
もう立てない! 床にへたりこむ。
キツかった~! これじゃみんなも――
「チャンピオン?」
「どうしたの?」
見下ろしてくる、いくつもの目。
僕以外みんな、ぴんと立ってる。
なんとも、いたたまれない空気が漂った。
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