第6節 英雄と王者
第21話 救国の英雄
「アーカディアン義勇兵、
青い国連軍の制服姿で、背筋を伸ばして。
右手を指を伸ばして額の前に挙げ、敬礼。
ビシッ
ビシッ
ホテルの食堂にズラッと並んだ、僕と同じ青い軍服の人達。国連軍の宇宙戦艦
「
銀髪赤眼の中年女性将校。
「はい! よろしくお願いします‼」
僕と同じ身長150㎝の小柄な体が進み出――って、抱きしめられた⁉ お、
「結局、入隊しちゃったわね」
あ、真面目な話⁉
「すみません、艦長さんは僕が戦わずに済むように心を砕いてくださったのに」
「いいのよ。あなたももう私の部下。無駄死になんて絶対させないから」
「艦長さん……!」
「艦長‼」
つば姉⁉
長い黒髪を逆立てた――
ような雰囲気で
「くっつき過ぎです‼」
「
「わたしの時はすぐ離れました‼」
「はぁい、離れるわよぅ。ちぇ、合法的に美少年を抱ける
「艦長ォ‼」
食堂中がドッと沸いた。
にしても、軍隊って厳しい縦社会なのに部下が上官に突っかかれるの、凄いな。厳格な副長さん、栗毛の中年女性、
それは、
絆を深めるための、艦長さんの方針。
いいな、こういうの。
◆◇◆◇◆
着任式が終わり、朝食が始まる。
僕は4人がけのテーブルに着席。
僕の隣につば姉。
向かいに艦長さんと
アーカディアン仲間で固まる。
父さん母さんは離れて食べる。僕は一緒に食べようって言ったのに、母さんが「親の前だと
そうやってつば姉をキープさせようと。
僕はカグヤ一筋だって言ってんのに。
「いただきます」
ロールパンを一口――!
うん、今日も
一見普通のパンがすんごく美味しい。
高級ホテルだからなんだろうな――
『ママぁ、おなかすいたぁー!』
壁の
パンの味がしなくなった。
朝のニュース。
この
僕も
それが特別扱いで、快適なホテルで
こうして辛い避難生活を見せられると、後ろめたい。
可哀想だけど……食事時に見たくないな。
ドガァン‼
CMになった途端、TVから響く爆音。
宇宙で無数の軍艦が、自身よりずっと小さい機械人形達と砲火を交え、一方的にやられて次々に沈んでいく。
「(×4)またか」
その機械人形達は、小さいと言っても全高20m。中に人間が乗って操縦してる、ロボット兵器
でもこれはゲームの映像じゃない。
先日、実際にあった戦闘の記録だ。
地球と、月との。
VDは月、ルナリア王国軍のVD部隊。
軍艦は地球、地球軍の連合宇宙艦隊。
地球各国――四大国の軍隊と、国際連合(国連)の国際連合統合軍(国連軍)。これら地球陣営の軍勢は〝地球軍〟って総称されてる。
戦いは地球軍の、
画面内で地球軍艦隊が撤退を始め、月のVDがそれを追撃。
その時、艦隊の最後尾にいた艦から1機の
軽量級強襲型VD
OVD-02〝ルベウス〟
弾丸の嵐を猛スピードでかいくぐり、両手に1丁ずつ構えた
そして。
ルベウスが拳を突き出し、前腕から伸びた
ツンツンした黒髪で。
やんちゃそうな笑顔の。
少年漫画の主人公みたいな人が。
ニカッと白い歯を光らせる――
『絶体絶命の地球軍の前に
聞き飽きたナレーション。
この次が本人の台詞――
『オレはこのルベウスで、月の悪党どもをブッ飛ばす! だが1人じや勝てねぇ、巨悪を倒すにゃ、みんなで力を合わせねぇと。だからみんなもアーカディアン義勇兵になって、VDに乗って戦ってくれ! オレと一緒に、世界を救うヒーローになろうぜ‼』
敵を絶対悪にして大義名分を
地球軍の、兵隊募集の
「(×4)はぁ~」
4人一斉にタメ息。だってゼラトはアーカディアンで僕達のギルド・クロスロードの仲間で。僕にとってはつば姉、
身内がTVで、この茶番。
恥ずかしいよ、師匠……
◆◇◆◇◆
食後。
客室に戻って窓際の
西暦2037年
8月15日
土曜日
ルナリア軍の奇襲攻撃によって、地球陣営は2つのスペースコロニーを奪われた。そのどちらも地図上では月のすぐ側で、月から一番攻めやすい所が狙われたのがわかる。
月の表側・L1の〝
月の裏側・L2の〝ヘスペリデス〟
L1もL2の宇宙での座標。そこに置いた物体は地球と月との位置関係を一定に保つ
L1とL2はどちらも、その南北に1つずつ〝ハロー軌道〟って環状の安定軌道を持ってる。このハロー軌道上を周回する物体も、大きな目で見れば地球と月との位置関係を一定に保ってる。
そうした宙域にスペースコロニーは作られた。
L1とその南北のハロー軌道には太平洋連邦のコロニーが。
L2とその南北のハロー軌道には欧州連邦のコロニーが。
線のハロー軌道にはたくさん。
点のL点には中心的な物が1つ。
そして主都コロニーにはその円筒形の端に大きな
その主都コロニーを奪われた。
その際、多くの人が殺された。
太平洋連邦と欧州連邦2国の被害は確かに大きい。軍事面では宇宙要塞とそこにあった多数の軍艦が丸ごとルナリア軍の戦力に加わったことになる。
でも。
敵は致命的なミスを犯した――
と、地球側の首脳部は判断した。
〇 北ハロー軌道
・ L点
〇 南ハロー軌道
ルナリア軍はこの真ん中だけを奪って駐留してる。つまり南北を敵である
そして南北ハロー軌道の各コロニーには、コロニー守備隊としてその国の軍隊および国連軍の軍艦が駐留している。
ならそれらを結集して要塞を南北から挟み撃ちにすれば、ルナリア軍は袋の鼠だ。
だから、
8月18日
火曜日
地球軍は、そうした。
L1・L2両方で。
勝てると思ったから。
戦力は圧倒的有利のはずだった。
南北ハロー軌道のコロニー群の保有する軍艦の総数は、主都コロニーの要塞のそれを上回る。そしてルナリア軍の軍艦はその、元々要塞にあった分だけと見られた。
占拠後、月から幾つも宇宙船が打ち上げられて要塞に入ったのが観測されたけど、どれも民間輸送船だったから戦力とは考えられていなかった。
でも、違った。
要塞から出撃し、地球軍艦隊を迎え撃った月艦隊の中には、奪われた軍艦の他にその輸送船の姿もあった。それは輸送船を改造した、VD用の母艦だった。
母艦から発進した大量のVD。
それを見ても地球軍艦隊の指揮官達は勝利を疑わなかった。
ロボット兵器なんていう
その自信にも、根拠はあった。
◆◇◆◇◆
それはレーザー砲の優位性。
第3次世界大戦で普及したレーザー砲は攻撃以上に、敵の放った飛翔体の迎撃に猛威を振るった。主に対空防御に使われるそのレーザー砲は〝
レーザーは光なので直進し、当てやすい。
反動がほぼなく撃っても砲身がブレない。
そのため高速で飛翔する物体も、レーザーは砲身を動かしながら照射し続けることで焼き尽くす。ミサイル、航空機、それまで主流だったそれらの兵器はレーザーによって
戦争の常識は一変した。
海戦において軍艦はみんな
もちろんそれでは自身のレーザーも敵に届かず。代わりに弾丸が重力に引かれて落ちるため水平線の向こうにも撃ち込め、弾が速すぎてレーザーにも撃ち落とされにくい、
そしてその
軍艦は大きく、その装甲は分厚くなった。
デカい艦でゴツい砲を撃ちまくる。
その能力に優れた方が勝利する。
〝大艦巨砲主義〟の時代が訪れた。
それは戦場が宇宙になっても基本的には変わらない。ただ宇宙には水平線も遮蔽物もないので、宇宙用軍艦はレーザーにも耐えられるよう装甲はさらに強化された。
でもその防御力は軍艦の質量あればこそ。
航宙機とは航空機(飛行機)の宇宙版。飛び方は飛行機と一緒。そして飛行機にはレーザーに耐える防御力もレーザーを回避する機敏さもないのは大戦時からの常識。だから戦闘用航宙機が何機いようが艦隊が脅かされることはない。
航宙機なら。
地球軍首脳部はVDとはマニアの手で無意味に人型や獣型にさせられただけの航宙機で、その性能は普通の航宙機と変わらない――と考えていた。
その地球の各国がVDを開発したんだけど、実のところ内部で推進派と反対派が対立していて、反対派はVDの実用性を全く理解していなかった。
首脳部の多くが、反対派だった。
普通の飛行機は前にしか進めない。前に進みながらカーブすることでしか進路を変えられず、すぐには進行方向を変えられず、それではレーザーを振り切れない。
でもVDは違う。
広範囲に動く両足の裏の
それも簡単ではないけど。
でもレーザーを回避するのはアーカディアンのプレイヤーならみんな慣れてる。だって
総司令なのにVDにも乗る
女王なのに以下略のカグヤ。
女王親衛隊の
少数のエースパイロットも大暴れしたけど、大多数の並のパイロット達も軍艦に遅れは取らなかった。
結果、L1でもL2でも地球軍艦隊は
英雄の出現。
でも。
そして、先日。
師匠もそこに乗り込んた。
その後の活躍は、あの映像の通り。
軍で体を鍛えてたから実機もばっちり最大出力で乗りこなして。
ルナリア軍に追撃を断念させて味方を逃がし、自身も生還した。
正に劇的。
それで地球軍首脳部は師匠を英雄ともてはやし、士気高揚に利用。VDの必要性を認めてアーカディアン義勇兵の制度を実施して、師匠をその第1号とした。
「やっぱ凄いな、師匠は」
大人の事情はともかく、師匠の勇気と実績は、英雄の名に
本当にロボットアニメの主人公みたいだ。
僕もそのつもりで……でも、偽物だった。
カグヤと、平和を取り戻せれば、僕はもう、そういうのはいいけど。
本物のヒーローになった師匠が、やっぱりちょっと、うらやましい。
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