第4節 戦う訳
第13話 子供を戦わせる大人
放送が、終わった。
気づいたら、泣いてた。
心臓が、バクバクする。
悲しい……カグヤの身に起こったことが。
怖い……今起こってることの、大きさが。
カグヤ。戦争で日本列島を焼け出されて。逃げた先で邪魔者扱いされて、月に追いやられて。月の重力が弱いせいで、お父さんを亡くして。
どんなに辛いか、想像もつかない。
カグヤが
そしてルナリア王国として独立して。
自分達以外の全人類に宣戦布告して。
戦争が始まる……?
そんな大事の中心に、カグヤはいる。
カグヤと関わるなら、当然それとも。
関わるのが、怖い。
情けない。カグヤは危険を
僕だってカグヤを支えたい。
泣いてるカグヤを慰めたい。
……でも。
ルナリア王国軍が僕のコロニー
それを――
「気にしてない」と言えば、嘘になる。その気持ちを隠して
でも、正直に非難する気持ちまで伝えるのも……あんなに悲しんでるカグヤに追い打ちをかけるなんてことも、できない。
一体、どうすれば……!
「はっ、はっ――」
色んな考えで頭の中、グチャグチャで。
色んな気持ちで胸が、張り裂けそうで。
「っ! はっ、は――」
苦しい……!
「アキラ⁉」
「大丈夫⁉」
「つ、ば姉? はっ……
つば姉がそっと僕の背中に手を当てて、撫でてくれる。
「よしよし。ゆっくり、息を吐け」
「? はーっ……」
「息を止めて……吸って……倍の長さで吐いて…………」
つば姉の言う通りに、深呼吸を繰り返す。
……あ、息苦しいの、少し収まった?
「落ち着いたか?」
「う、うん。でも……これ、何?」
「
過呼吸⁉
確か息のしすぎで、重くなると体が痺れたり、パニックになったりするやつ。精神的な不安からなることもあるとは知ってたけど、まさか自分がなるなんて。
「ありがとう、つば姉。助かったよ」
「どういたしまして……カグヤのこと、辛かったか」
「あ、うん……それに、なんか一度に考えすぎちゃって」
「そうか……難しいかも知れないが、考えてもどうしようもないことは、なるべく考えないようにしろ」
「そうだね……」
戦争なんて、僕にはどうにもできない。でも僕は、カグヤのことが大好きで。カグヤをあきらめるなんて考えられない。
「……確かに難しい、ね。どうしても頭に浮かんできちゃう」
「なら、一番気になることだけ考えて、他のことは脇に置け」
「一番気になるのは……カグヤ。まさか敵の親玉だったなんて」
「いや、それは違うと思うよ」
◆◇◆◇◆
「
「あんな若い
「利用……」
「月の人達の結束や戦意を高めるための、見栄えのいい、名目上のトップとして。そんな風にたまたま目立つポジションにいるだけで、別に他の一構成員と変わらない」
「はぁ……」
「だから、女王だったってことで余計にショックを受けることはないんだよ」
「あ、ああ……! そっか。ありがとうございます。少し気が楽になりました」
「はは、どういたしまして」
敵の一味、って時点でパンクしてたんだ。
これ以上、打ちひしがれてる余裕はない。
「しかしまぁ、月の革命家達も。大人が子供にそんな真似をさせて情けないよ」
「しかもその半分がわたしの身内、国連軍・月方面軍だったとは……」
つば姉が苦虫を噛み潰したような顔した。
「すまない、アキラ。この不始末、国連軍の一員として謝罪する」
「そんな! つば姉が謝るようなことじゃないよ。気にしないで」
「ありがとう……確かにわたしは
「仕立て上げ……?」
「ああ。先ほど戦った時、カグヤはGをものともせず最大出力のシルバーンを乗りこなしていた」
……!
「かなり前から耐G訓練を受けていたのだろう。それができるのは月では国連軍だけだ。しかしカグヤは軍に入れる歳には見えない。月方面軍がカグヤに接触して、非公式に鍛えていたとしか考えられん」
「……カグヤは、実機を、
「ああ。ゲームの時と変わらぬ強さだった」
……そっか。
カグヤは、実機でもあの強さなのか。それに
カグヤとも、
何考えてんだ僕は。
ゲームでの力を根拠に、自分なら上手くやれるだなんて思い上がって、実機に乗ったのが間違いだったんだ。それで取り返しのつかない過ちを犯して。
もう、実機に乗ることはないだろう。
なら、別にそれで負けてたって――
ビーッ! ビーッ!
⁉
壁のスピーカーから警告音。
僕たちの視線がそこに集まる。
『第1種戦闘配置!』
バッ! アナウンスを聞いたつば姉が、すぐにこの部屋――パイロット控え室に隣接した、女性用パイロット更衣室に飛び込んだ。
『――総員、速やかに持ち場につけ』
「アキラ、こっち!」
「え、ええっ⁉」
「ちょっとじっとしててね」
「はいっ。いや、えぇっ?」
それを着させられてるってことは。
……第1種戦闘配置。
軍隊用語。ロボット作品でもよく使われる……意味は、確か。
臨戦態勢。即座に戦える状態にして待機せよっていう命令で。
それが発令されたってことは、つまり。
『後方よりVD6機接近中! これより本艦は迎撃に当たる!』
戦闘に、なる。
◆◇◆◇◆
『回転式居住区、接続アーム収納完了』
この宇宙戦艦
戦いが迫ってる実感に、体がすくむ。
自分もパイロットスーツに着替えた
「艦長、用意できたよ!」
宇宙服の女性の顔が大きく映し出される。
『
綺麗な銀髪に、真っ赤な瞳。
真っ白な肌の、絶世の美女。
この人がこの艦の艦長さん? すごい美人。それにこんな髪と眼の人、
『その子がアキラ⁉ うっわ、かーわいいっ! 食べちゃいたい‼』
「は、初めまして!
『初めてじゃないわ。私、エイラよ』
⁉
「え、エイラ⁉ 本当に……?」
『ほんとほんと‼』
「実はそうだったんだよ。エイラもこの艦にいるの、黙っててごめんね。口止めされてたんだ、後で自分で自己紹介したいからって」
『本名は
エイラ。
アーカディアンでの、僕の所属ギルド・クロスロードの仲間。狙撃手タイプのプレイヤーで、上位ランカーの1人。
アバターは長い銀髪に、鋭い眼差しの中の瞳は赤。平時には黒いコートを着て、雪国の美女って感じで。
「……」
モニターに映る女性はエイラのアバターより髪は短いし表情も
ただ――
カグヤ・
『ん? アキラ、どうかしたん?』
おばちゃん臭い……
「その。ゲームと大分違って、驚いて……」
『ですよねー! その、
ああ……「フッ」って笑ったりしてる。
確かに
『もう話してる時間なくて。ごめんね! アキラ、今すぐオーラムに乗って――』
やっぱり――!
もう乗ることはないと思った矢先に。でも、敵が襲ってくるなら仕方ない。みんなで無事に逃げ延びるためだ。実機はギア1でしか動かせないけど、僕もできる限り戦わないと――
『逃げるのよ!』
……。
……。
「えっ⁉」
『避難民を乗せた脱出艇の近くで戦うと巻き込んじゃうから、本艦はこれから反転して来た方向に戻りつつ敵を迎え撃つわ。あなたは今すぐオーラムに乗って発艦して、目的地の
避難……?
『詳しくはグラールに聞いてね。じゃ!』
「ま、待ってください‼」
『ほえ?』
「な、なんで。僕だけ逃げろって。ここは〝戦え〟って言うところじゃ⁉」
『なーに言ってんの! アキラは民間人でしょ。戦いは私達軍人の仕事よ♪』
「それは、そうですけど。この艦にVDは3機しかなくて。オーラムなしじゃ2機しかなくて。敵は6機――まずいですよ! 戦力は少しでも多い方がいいんじゃ」
『そうね。正直、あなたの手を借りられたら心強いわ。貸してと言いたい気持ちはある――でも私は、そんな誘惑には屈しない!』
ゆ、誘惑?
『どんなに厳しい状況でも、あなたに戦う力があるとしても。軍人である私は民間人であるあなたを。大人である私は子供であるあなたを。戦わせてはいけない。そこは越えちゃいけない一線なの』
目を細め、優しく
その瞳から、強い意志を感じる。
『あーだこーだ理由つけて、子供をロボットに乗せて戦わせるクソみたいな大人って、ロボットアニメによくいるわよね? あいつら見て〝こうはなりたくない〟って思ってきた。今こそそれを実践する時よ‼』
「そういうこと」
「ロボット作品から学んだ大切なこと。その教訓を活かせないようじゃロボ好きが
「
「だからほら、行って」
『じゃーね、アキラ!』
「あ――」
格納庫のオーラムのコクピットに繋がるダクトの中に吸い込まれた。
◆◇◆◇◆
また、実機のオーラムに乗って。
『脚を長時間じっとさせてるとエコノミークラス症候群になるから、時々伸ばしてね! 大小はそのままして。宇宙服の股関に接続されたチューブから操縦席のタンクに吸い込まれるから!』
VDで長時間航行する上での諸注意を
宇宙空間へ。
無重力のコクピットの中で、体をシートに押しつける軽いG。オーラムが
『ではな、アキラ』
「つば姉も、気をつけて……」
振り向くと、全天周モニターに映る
あっという間に遠く小さくなって、見えなくなった。
……。
……。
全天周モニターに映る外の景色は、どっちを見ても暗い宇宙ばかりで。その中を体1つで漂ってるようで、落ち着かない。でも嫌な気分なのは、きっとそれより。
この状況を、受け入れられてないから。
僕は……これで。
よかったのかな。
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