第3節 現実の真実
第9話 悪夢
『ウワァァァァ‼』
ガォォッ‼
オーラムの胸の獅子が
VDの装甲はレーザーに対して高い防御力を持つけど、インロンの口内のビーム砲は装甲に覆われてない。少し
『――りず、――』
ドカァン‼
インロンの口許が爆炎を上げた。よし、ビーム砲を破壊した! これでもう奴のビームがこのコロニーとその住人を焼くことはない!
インロンが地面に突っ伏して、動かなくなった。その周りを囲ってた、敵機を示す赤い枠マーカーが消えてる。
機能停止した?
なんで、ビーム砲を1つ潰しただけで。胴体の動力部、核融合炉は無事なはずなのに。何が起こってるんだ? 何か……嫌な予感がする。
爆炎が晴れた。
インロンの
人の。腹から下だけが。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」
……僕は、多分。
初めから、わかってた。
ただ、考えまいとしてたんだ。
インロンの、パイロットを――
人を。殺したんだと。
こんな、つもりじゃ。だって僕は、あいつにカグヤの居場所を聞きたかったんだ。打ち負かして「死にたくなければ教えろ」って脅す気はあっても、本当に殺す気なんて。
だって僕に。
そんな覚悟。
あるわけない、ただの中学生に。たとえそれがコロニーを焼いた、死んで当然の極悪人でも、人の命なんて背負えない。
殺さずに済むはずだったんだ。だってアーカディアンでは! ゲームと現実が違うことくらいわかる! でもこれは同じ条件だった‼
VDはコクピットの被弾率が低い。
=パイロットの生存率が高い。
コンピューターによる自動照準は標的の中心を狙う。そこが一番狙いやすいから。だから被弾率は中心が高く、末端が低い。
それでVDのコクピットは一番安全な末端の頭部にある。実際アーカディアンを遊んだこの4年間、頭部が破壊されるとこは滅多に見なかった。
VDのパイロットが死ぬことは
その先入観から殺すことはないと
取り返しのつかないことをしてしまった。
これで僕は一生〝人殺し〟と後ろ指を差され続ける。大好きな父さんと母さんを人殺しの親にしてしまった。顔向けできない。僕の人生は終わった。
実物のオーラム見て、テンション上がって。調子に乗って戦った結果がこれか……でも。それも事実だけど。
カグヤを助けるためだったんだ。
その目的は絶対、間違ってない。
もう僕のことはいい。カグヤを助けることだけ考えるんだ。早く探さないと。他の敵パイロットに
ドドドッ‼
なっ⁉ そのインロンがこっちへ急降下してきてる! しかも背中から無数の
両操縦桿を手前にひねってオーラムを仰向けに、胸の砲口を上に向け
ドガァァァッ‼
爆炎と土煙で視界が覆われて――
⁉
ガクッと落ちる感覚!
地面が抜けた⁉
コロニーに穴が開いた‼
「わああ‼」
ガラガラガラッ!
砕けた
周りに人は……
いない……か?
ズボォッ‼
穴からインロンが飛び出てきた⁉
こっち目がけて突っ込んでくる‼
動きが速い!
キレも鋭い!
さっきのヤツ同様、Gに耐えてギア4で動かしてる! しかもさっきのヤツと違ってこいつは腕がいい――多分僕と同じくらい、上位ランカー並! やばい、Gに耐えられなくてギア1にしてる今の僕じゃ敵わない‼
ガシャァァァン‼
「うわぁっ‼」
コクピットが揺れる! インロンの体当たりはなんとか避けたけど、インロンが衝突してはね飛ばしたコロニーの破片がぶつかった! あいつ、破片を
さっきのインロンのパイロットを。
仲間を、殺されて。
怒り狂ってるのか。
それで。
討とうと。
ゾッ――
全身の細胞が凍りつく。
自分へ向けられた殺意。
初めて実感した。
自分の死も。
このままじゃ殺される。今すぐ落とさないと‼ 右操縦桿のパッドを押し込み自動照準、オーラムの胸から伸びる弾道予告線が――って!
弾道予告線がインロンの頭部に! 頭から突っ込んでくるから、機影の中心に頭部が来てる! これで撃ったら、また‼
「来るなぁぁぁ‼」
――あ。
景色が、スローモーションになっていく。
これが、死ぬ間際に見るっていうアレか。
インロンが右側から襲ってくる。オーラムの左手の
嫌だ。死にたくない。
死んでる場合でもない。
僕が死んだら誰がカグヤを――
ガシャァァァッ‼
インロンが
横合いから来た何かに突き飛ばされて‼
グサッ‼
⁉ インロンの、胴体が、背中側から一振りの長大な
ボシュッ!
インロンの竜の頭部が首の先端から射出され、遠ざかっていく。機体が
「はっ、はっ……」
助かった……このグラディウス、コロニーで今のインロンと戦ってた機体か。今のインロン、交戦中の相手を放って、後ろから撃たれるリスクも無視して僕の方へ来たのか。
ぶるっ
改めて憎しみの深さを感じて寒気がした。
この機体に助けられなきゃ僕は死んでた。
「あの、ありがとうござ――」
『アキラ、無事か⁉』
『アキラ、大丈夫⁉』
「え⁉」
初めに聞こえた声は
次の声は……カグヤのものだった。
◆◇◆◇◆
「
『ああ――え、カグヤ⁉』
『なっ、
カグヤの声は多分――ああ、やっぱり。
初めにインロンを突き飛ばしたのは、銀色の
グラディウスには
シルバーンにはカグヤが。
2人とも――いや、僕入れて3人とも、アーカディアンでの愛機の実物に乗ってる? こんな偶然――い、いや、それより。
「カグヤ、無事⁉ ひどいことされて――」
『されてない! 絶賛処女よ‼』
……よかった。
カグヤが辛い想いしてなくて。
あ、安心したら……涙が……。
「本当によかった……心配したよ……」
『ごめん……』
「カグヤが謝ることじゃないって。でも凄いね、自力で逃げてくるなんて。テロリストからヴェサロイドまで奪って」
シルバーンの枠マーカーが敵機を示す赤色ってことは、そういうことなんだろう。
『はは。まぁね』
「僕、あのあと見つけたこのオーラムでカグヤを助けようと思って。でも逆に助けられちゃったね。ありがとう。ごめん、役立たずで」
『何言ってんのよ! ……嬉しいって。アリガト……助けようとしてくれて』
「うん……あの、
『……ああ』
ヒッ‼
なんか不機嫌そうな低い声!
目の前でいちゃついたから?
「そ、そういや2人ともよくわかったね。このオーラムに、僕が乗ってるって」
『そりゃアンタ、ずっと
「あ……会話、垂れ流しだったんだ」
『アキラ、カグヤ。話はあとだ。まだ危険は去っていない』
「あ、はい!
『わたしの母艦で、国連軍で保護する。2人とも、ついてこい』
「はい!」
『え……ええ』
動き出すグラディウスの後ろについていく。
でも襲ってきたのは当然別の組織だよな。なんでどっちもVDの実機を持ってるんだ。さっきも気になって後回しにした疑問、
カグヤ?
後ろを飛んでたカグヤのシルバーンがすーっと僕を追い越していく。その両手に
バジィィィィィッ‼
「カグヤ⁉」
シルバーンがグラディウスに背後から斬りかかった⁉ でもグラディウスもそれがわかってたみたいに振り向いて、自分の刀でシルバーンの刀を受け止めた! シルバーンとグラディウスが鍔迫り合いに‼
『くっ、なんでわかったのよ
『機体は前に進めながら、中のわたしはずっと全天周モニターの後方を、おまえの動きを見ていたからだ!』
え、え?
『武装勢力に誘拐された少女が自力で脱出などできるか普通! 最初から怪しいと思って警戒していた‼』
『アンタってば、最悪‼』
ギャリン!
ジジジッ!
2機が激しく刀を交える――
って、見てる場合じゃない!
「2人とも、やめて‼」
『『アキラ⁉』』
バヂィィィッ‼
巻き添えを食わないよう
シルバーンとグラディウスが離れる。
取りあえずは戦いを止めてくれたか。
「カグヤ、何やってんのさ⁉」
『アキラ、そ、それは……』
『自分で言わないのならわたしが言ってやる――カグヤ、おまえは武装勢力の手から自力で
してない……?
『おまえは奴等に拘束されていなかったし、その機体は元々おまえの物だろう。だから楽に乗れた――つまりおまえは』
『ッ……‼』
『奴等の、仲間だ』
は……?
「
『アキラ、ゴメン。
……嘘。
『ごめんねアキラ。ずっと嘘ついて』
「カグヤ……?」
『アタシはさらわれたんじゃないの。アタシがアンタをさらいに来たの』
「君が、僕を……?」
『アタシ達の最初の攻撃目標が
数日前の、あの会話。
『アタシ、アンタだけは助けたくて。アンタと会う約束して。取り決めたポイントにアンタを連れて行ったら、迎えの者が2人とも回収する
「カグヤ……?」
『アタシが
「ねぇ、カグヤ」
『なっ……何?』
「カグヤは……あの時インロンに、さらわれたんじゃないんだね?」
『うん……仲間の所に、連れ戻されただけ』
「ならカグヤには、何の危険もなかった?」
『……うん』
「僕は君を助けたくて、これに乗って。君の仲間と戦って……殺してしまった」
『う……ん』
『ッ、……』
「それで恨まれて、殺されかけて」
『……』
「それが全部、無駄……? 僕が戦う必要、全くなかった?」
『…………う、ん』
あ、あ――
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
『『アキラ⁉』』
アクセル全開でオーラムを上方へ飛ばす。逃げるんだ、この現実から! いや、こんなヒドイことが現実な訳ない!
ハハッ、そうさ。みんな夢だったんだ!
VDなんて現実にある訳ないじゃないか‼
『『アキラ‼』』
ッ! 悪夢が追ってくる……!
速い、いやこっちが遅いんだ!
ギア1じゃ遅い!
ギア4に――
「ぐはっ⁉」
Gで体が、押し潰される!
構うもんか、どうせ夢だ‼
『いっ、いかん! やめろアキラ‼』
『アキラやめて! 死んじゃう‼』
うるさい‼
帰るんだ! 現実に!
僕の本当の居場所に‼
僕はただ、ゲームの中でVDを操縦して遊んでるだけで。残念だけど世の中には、搭乗式巨大ロボットなんて実在しない。
それが、僕、の――
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