第1章
第2節 ゲームからリアル
第5話 初めの一歩
「「
「ありがとう! 父さん、母さん‼」
第1回
骨つきフライドチキンを1本キレイに食べ切って、今度はお赤飯を――
「ところで。ねぇ、
「ん、何? 母さん」
「銀メダルの
「むぐっ⁉」
……忘れてた! 個人の部の表彰式!
中継動画を2人にも見られてたんだ!
銀メダルの
銅メダルの
「ああ、あの
父さん……やっぱ、そう見えますよね。
2人の普段の素振りからは、僕に気があるように思える。どちらからも告白はされてないから、本当にそうなのかはわからないけど。
「でしょでしょ! それで
「それ、は」
「それは⁉」
2人とも大好きだけど……
それが恋愛感情なのは……
「……銀、の方」
「え、ほ、ホントに⁉ キャー! そうなんだ‼
「ママ……それくらいにしてあげて」
~っ!
勢いに押されて要らんこと言ったぁ!
恥ずかしくてこの場にいられない。
早く食べ終えて部屋に戻――
「うぐっ⁉」
赤飯が、喉につかえた。
◆◇◆◇◆
ぼふっ
食後、自室に戻ってベッドにダイブ。
母さんてば……あー、まだ顔が熱い。
カグヤ……
個人・集団と決勝戦で負けて、今頃泣いたりしてないかな。
胸が痛い。
負かしたのは自分だろって話だけど、泣かせないためにわざと負けるのはアーカディアンプレイヤーとしてありえない。それは神聖な試合を、
それに僕とカグヤの〝勝負〟は2人を結びつける絆だから、それに嘘をつく方が傷つける……最悪、絶交されかねない。
1001戦501勝500敗
よくもこれだけ勝負したし、よくもそれを数えたもんだ。
アーカディアンを始めた頃、初めてアイツと対戦して、僕が勝った。
次の対戦時、カグヤが僕のこと覚えてて、その時はカグヤが勝った。
【これで1勝1敗ね!】
カグヤのその些細な一言が始まりだった。
なんとなく、その後もアイツとの勝敗数は数える習慣になって。
実力が
だから「また
それが僕達を特別な関係にしてる……ような、気がする。
少なくとも気は合ってると思うんだよね。
合ってなかったらとっくに
楽なんだ、アイツと話すの。
アイツ口は悪いけど、さっぱりしてるから。遠慮なく言い返して口ゲンガになっても全然険悪にならない。
それが……僕には救いなんだ。
一度、失言で他の大勢のプレイヤーとトラブルになってから僕は、少しでも他人を傷つけかねない発言はなるべくしないようにしてる。それでトラブルは減ったけど、言いたいことが言えないのもそれはそれでストレスで……
そんな中、本当に気兼ねなく話せるのはカグヤだけ。
今の関係はとても心地良くて、失いたくない宝物だ。
だから告白できない……
告白して振られたら、気まずくなって。
今まで通りじゃいられないだろうから。
典型的な、臆病な考えだよなぁ。
告白、しなきゃ。
カグヤと恋人になりたいから。
それはもう決定として……
急に「好き」って言っていいのかな。
まだお互い、
あ~っ、もう!
段取りなんてわっかんないよ!
恋なんてこれが初めてなんだ!
ピーッ
あれ。
[カグヤ:話あるの。ホーム来て]
!
心臓、止まるかと思った。
てか、本文これだけかよ。
人を呼び出すならもっとこう――まぁ、行くけどさ。
カグヤに会えるなら……って、惚れた弱みだよなぁ。
[アキラ:今行くよ]
[カグヤ:アリガト]
……改まって話ってなんだろうな。
やっぱ負けて泣いてるとか?
それとも……それとも……
◆◇◆◇◆
ベッドから机に移動、VRゴーグルをかぶって
~♪
ん、
「カグヤ」
『アキラ』
これはアバターが使う電話みたいなもん。リアルの電話番号はお互い知らないけど、アーカディアン内でならこうして話せる。でもまぁ、改まった話なら顔合わせてするだろうから。
「どこに行けばいい?」
『どこも行かなくていい。このまま
「いいけど。なんで?」
『それは……部屋から出たら誰かに見られかねないから。アンタと話してること自体、誰にも知られたくないの』
そこまで大事な話って。
む、胸がバクバクする。
「わかった。それで、どんな話?」
『う、うん。そっ、その、ね……』
……。
なんか深呼吸してる音が聞こえる。
待ってる間、窓を開けて外を見る。
個人通話は他の人には聞こえないし口も動かないから、誰かに見られても僕が誰かと話してるとは思われない。
2階の部屋の窓からここ、月の
あ。
中庭の向こうの棟の2階で、カグヤの部屋の窓が開いた。中からカグヤが顔を出す。アバターだからわかりづらいけど目が合った――ような、気がした。
『……あの』
「……うん」
『アンタ……住所、どこ?』
ッ!
踏み込んで、きた?
カグヤの方、から?
ネット上だけでの付き合いの人間に
いや!
そうと決めつけるのはまだ早い!
思い込みはストーカーの始まり!
『あ。嫌なら別に――』
「あ。いや、いいよ!」
いけね、ぼーっとしてた!
「
『えっ……?』
「知らないかな? L1のスペースコロニーで――」
『知ってるわよ! 日本共和国の首都でしょ!』
「それで、カグヤは?」
『へ?』
「……まさか、僕にだけ言わせる気?」
『あ、ううん⁉ アタシは……地球よ』
「
『え、ええ。そうなのよ』
〝
太平洋上・赤道直下の小さな島国、ナウル共和国の領海に作られた
「懐かしいな。僕も引っ越す前はあそこ住んでたよ。どっかですれ違ったこと――てか、会ったことあったかも知れないね」
『あ~、そう、かもね』
◇◇◇◇◇
西暦2027年――10年前、僕が4歳の時。
地球の北半球、ユーラシア大陸の東方にある〝日本列島〟にあった僕の祖国〝日本国〟は、隣国の亜細亜連邦に滅ぼされた。
第3次世界大戦末期の出来事だ。
滅びる直前に、
ナウルと提携して日本国が作った
軌道エレベーター。
地球の赤道上、高度3万6000kmに浮かぶ静止軌道ステーションから海抜0mまでケーブルを垂らした
人や物をロケットで打ち上げたり、宇宙船を大気圏に再突入させるより、遥かに安全かつ低コストに地球~宇宙間の運搬が行える。
引っ越した当時はまだ
日本国滅亡後その建設事業を引き継いだのは、四大国の1つでナウル共和国が所属する太平洋連邦だった。
四大国。
第3次世界大戦を通して誕生した主権国家同士の連合による4つの超大国。
その各国が1基ずつ軌道エレベーターを作って、それらは4基とも西暦2029年に完成——そして、宇宙時代が到来した。
軌道エレベーターで多くの人員が宇宙に上がって、月への移住とスペースコロニーの建造が始まった。
四大国は地球周辺宙域でスペースコロニーを設置可能な5つの重力均衡点
そして西暦2033年。
僕が
太平洋連邦のスペースコロニー群は月近傍、月と地球を結ぶ線上の地球側にあるL点、L1に作られた。正確にはL1と、その南北に1つずつある環状の重力均衡宙域〝ハロー軌道〟の中に。
その内L1に作られた
僕等
ただ
……遠いな。
同じ国の中とはいえ、簡単には会えないか。
◇◇◇◇◇
「僕は亜細亜連邦軍の上陸前に列島を出たから怖い想いはしなかったけど、カグヤは大丈夫だった?」
『じょ、上陸されたあとじゃ
「ああ、そっか」
……。
「えっと……他には何かある?」
『あ、ある! 本題これから!』
「うん……それは?」
『――あ、アタシね!
……!
『リアルで、会わない?』
◆◇◆◇◆
西暦2037年。8月13日。木曜日。
第1回機巧操兵アーカディアン世界大会・集団の部の表彰式。
1位の僕達――――チーム・ヴァーチカルの5人が金メダルを授与されて。
2位のカグヤ達――チーム・ホリゾンタルの5人が銀メダルを授与される。
3位決定戦に勝利して銅メダルを授与されたのはヴァーチカルが準決勝で戦った、機動戦が得意なチーム・スクランブル。
表彰式の後は閉会式が行われ、第1回世界大会は幕を閉じた。
僕達の、熱い夏が……終わった。
式のあと、またクロスロードの10人でつむじ荘の中庭に集まってパーティ。獲得したメダルを首にかけて一列に並んで記念撮影。
デジタルの中だけだとデータ消失が怖いから、あとで現物の写真にプリントアウトしとこう。
撮影後、自然と数グループに分かれてとりとめない雑談が始まった。
「よっ、
「そんな……コソコソ奇襲しただけだよ」
「待て
「そうよ、それじゃバックパックやられたアタシと、ブッ刺されて撃墜されたゼラトの立場がないわ‼」
ゼラト師匠とカグヤが加わる。
「――だってさ。2人の名誉のためにも胸張れよ」
「……うん! ありがとう、みんな‼」
僕も――
「よかったね、
「ありがとう、アキラ」
「こちらこそ、ありがとう。竜月のサポートなかったら勝ててなかった――ね、僕の言った通りだったでしょ」
「うん……ちょっとは、自信ついたかな。でもやっぱ、個人技でも強くなりたい」
「大丈夫、すぐ上達するよ」
「うん。そのためにも別の機種、試してみるね」
「試合前言ってたヤツだね。がんばって!」
「うん! がんばるよ‼」
――あ。
カグヤ、今度は
避けられてる? だとしたら、カグヤも照れてるのかな……僕の方でも何話せばいいかわかんないし。
昨日のお誘いは当然、OKした。
明後日にはリアルで生身のカグヤと会う。
今から緊張で、頭が、どうにかなりそう。
「どうした? ソワソワして」
「
「そうか? ならいいのだが」
……気まずい。
って!
本当に
失礼なこと考えて、ごめんなさい……
◆◇◆◇◆
そして――8月15日。土曜日。
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