第4話 ロボット王者決定戦

 オーラムを駆り、竜月機エメロードヨモギ機サフィール氷威機グラディウスと共に、コロニー円周の反対側にいる敵機の許へ。



 グリッ!



 左右の操縦桿を前に押し出すことでオーラムを前進させながら、その両操縦桿のグリップを手前にひねる。



 ボゥッ――



 オーラムの両肩のサブ推進器スラスターがノズルを前方に向けて噴射。機体がグリップの回転に同期してり進行方向を上へ曲げていく。敵部隊の相対位置が正面に来たらグリップを戻し直進!


 敵機を示す赤い枠状マーカー。

 そこに記された機体名は――



カグヤ機〝シルバーン〟

 銀の軽量級・汎用型可変VD


ゼラト機〝ルベウス〟

 赤い軽量級・強襲型VD


グラール機〝ハーツブラッド〟

 赤い重量級・砲戦型VD



 ――やっぱり3機か。



エイラ機〝アルマース〟

 白い中量級・狙撃型VD



 ――が、いない。どこかに隠れて僕等を狙ってるんだ。マトにならないようジグザグに飛びながら、右操縦桿のパッドを親指で押す。


 自動照準。


 AIが敵3機の中で一番狙いやすい位置にいると判断した機体を捕捉ロックオン、標的――ゼラト機ルベウスか――へ、オーラムが腕を動かして極光銃ビームライフルを向ける。銃口から伸びる緑のエフェクト〝弾道予告線〟がゼラト機ルベウスに――ふれた!



 ドキューン‼



 予告線が敵機ルベウスにふれて赤く明滅したのと同時に右操縦桿の引鉄トリガーを引く。予告線に沿って、芯が青色で周りが緑色のビームがほとばしる。


 青は荷電粒子。

 緑はレーザー。


 2種合成ビームは直撃すればVDを半壊させる――けど、ゼラト機ルベウスは持ち前の身軽さでひらりとけた。流石さすが師匠だ!



 ビィィィッ‼

 ガガガガッ‼



 後方のりょうも同時に撃った。


 竜月機エメロード激光短銃ビームハンドガンのレーザー照射。

 ヨモギ機サフィール奇環砲ガトリングガンの実体弾の連射。


 でも、けられた!


 竜月機エメロードはレーザーを撃ちながら腕を動かし、逃げるカグヤ機シルバーンを攻撃し続けてる。

 一方、反動の強い武器を撃った僕の機体オーラムヨモギ機サフィールは次の攻撃まで間が開く。


 その隙を狙った反撃が――僕に‼


 敵機の弾道予告線はモニターに赤い〝弾道警告線〟として表示される。迫る2本の弾道警告線はグラール機ハーツブラッドが両肩に担ぐ2連装電磁軌条砲レールガンの物。

 電磁軌条砲レールガンから放たれる超強力な実体弾は盾じゃ防ぎ切れないし、避けたら後ろのりょうに流れ弾が行く。


 だからッ!


 左操縦桿のパッドをスライドさせて照準、オーラムの胸元から伸びるもう1本の弾道予告線を動かして2本の弾道警告線と交差させ、左操縦桿の引鉄トリガーを――引く!



 ガォォォッ‼

 ジュジュッ‼



 オーラムの胸の獅子がえ、口から放たれた激光対空砲ビームファランクスのレーザーが、放たれた電磁軌条砲レールガンの弾2発を蒸発させた。



『ウソォ⁉』



 甘いよグラール! マッハ7の弾丸でも、あらかじめ弾道をレーザーで塞いでおけば撃ち落とせる!


 今度はそっちに隙ができる番‼


 電磁軌条砲レールガンの巨大な反動で動きの鈍ったグラール機ハーツブラッドに、りょうの弾道を示す青い弾道警告線が迫る。ヨモギ機サフィール奇環砲ガトリングガンだ!



 ガガガガガガッ――ドカァン‼



『やっぱ瞬殺ぅ⁉』

『『グラール‼』』



 全弾命中、蜂の巣になったグラール機ハーツブラッドが爆散した!



「ナイス、ヨモギ!」

『すごいや!』

流石さすがだ』

『イェーイ‼』



 カグヤ機シルバーンゼラト機ルベウスの2機は撃ってきてない。てことは、もっと射程の短い武器をセットしてるんだ。すぐに距離を詰めてくる――来た!



『行くぞアキラ!』

「うんッ、氷威コーリィ!」



 隊列最後尾から前に出てきた氷威機グラディウス僕の機体オーラムの隣につく。


 僕と氷威コーリィが前衛。

 竜月タツキとヨモギが後衛。


 これが僕等の近~中距離戦の陣形!



『アキラ、勝負よ!』

「カグヤ!」


『いいやカグヤ。お前の相手はわたしだ』

氷威コーリィ! こんのお邪魔虫‼』


『なら、アキラの相手はオレだな!』

「師匠……!」



 氷威コーリィ vs カグヤ

 僕 vs 師匠


 個人の部の準決勝と同じ対戦カードだ。


 僕とカグヤは器用貧乏な万能選手オールラウンダー

 氷威コーリィと師匠は格闘戦特化型。


 僕とカグヤは、氷威コーリィと師匠に格闘戦では敵わない。

 だから2人とも準決勝では格闘戦をけ、射撃戦で勝った。


 でも、今回は!


 左右の操縦桿のダイヤルを親指で回す。全天周モニター上の装備一欄を矢印カーソルが移動。ダイヤルを押して決定、使用武器変更!


 右ボタン類パッドたトリガーで、振動剣ヴァイブロブレード

 左ボタン類パッドとトリガーで、振動盾ヴァイブロシールド


 オーラムの右手が極光銃ビームライフルを後ろ腰の武装取付部ハードポイントに戻し、背中の左側に懸架マウントされた機体全高の半分ほどの実体剣を抜く! 左手に持った、縦長で両端が二股に分かれた大きな凧型盾カイトシールドを前に掲げ――



「行くよ‼」



 突撃してくるゼラト機ルベウスに真っ向から立ち向かう!



『今日は逃げずに向かってきたな! それでいい‼』



 ゼラト機ルベウスが左右の拳を構える――あれで殴られると前腕に内蔵された振動杭打機ヴァイブロパイルドライバーが飛び出して機体に風穴を開けられる。


 一瞬で互いに肉薄し――激突‼


 オーラムの振るった剣はゼラト機ルベウスの顔の横で、その左手の振動杭打機ヴァイブロパイルドライバーによって受け止められた。


 ゼラト機ルベウスの突き出した右手の振動杭打機ヴァイブロパイルドライバーは、オーラムの左手の振動盾ヴァイブロシールドで弾いた。


 振動武器同士の接触は、その破壊力を高めている高周波振動を相殺する。互いの攻撃をしのいだ僕達は一瞬の交錯を終えてすれ違う――よし、このまま振り返らず前進!



『オイ⁉ どこ行くんだアキラ‼』



 敵機ルベウスを直接見ず、モニター上のレーダー円で位置を確認……よし、追ってきてる……!



『コラ! 敵に背を向けるな‼』

「その言葉、そのまま返すよ‼」

『ん? どういう――』



 ドシュッ



『何ィ⁉』



 ゼラト機ルベウスの胸から生える光の束。背後から忍び寄った竜月機エメロードが突き出した極光剣ビームサーベルだ。



 ドカァン‼



 僕じゃ格闘戦で師匠には敵わない。

 でも今は仲間が、竜月タツキがいるんだ!


 普通、敵機に背後から忍び寄っても自分の射撃武器の照準が相手のモニターに弾道警告線として見えてしまうのでバレる。でも格闘武器しか装備していなければ警告線を出さないので気づかれにくい。


 それに――



『だぁぁ、油断した! 竜月タツキがオレに格闘で来るとは……竜月タツキ、やるな! お前を甘く見た、オレの負けだ‼』


『ゼラト……ぼくが、ゼラトを?』

「そうだよ竜月タツキ! 大金星だ‼」

『や……った、やったやった‼』



『タツキん、止まんな‼』



 ブワァッ‼

 ドカァン‼



『え――?』



 光のほんりゅうに呑まれて爆散した! 竜月機エメロード――を突き飛ばした、ヨモギ機サフィールが‼

 狙撃! エイラ機アルマース極光狙撃銃ビームスナイパーライフルだ‼



『ヨモギィッ‼』

『アタイよかエイラを‼』

「わかった!」



 迷彩ステルスマントで隠れた敵機は姿も弾道警告線も見えなくなるけど、1発撃ってくればセンサーがその位置を特定して効果がいったん切れる。約3km先、コロニーのおか付近、ビルの残骸の陰。再び隠れられる前に仕留める!


 使用武器変更‼


 オーラムのバックパック右側に2つ折りで懸架マウントされてた電磁軌条砲レールガンが、長大な砲身を展開しながらオーラムの脇に抱えられる。自動照準、弾道予告線がエイラ機アルマースに……ふれた!



 ズガァン‼

 バガァン‼



「くそ!」

『クッ!』



 3kmを一瞬で駆け抜けた弾丸はエイラ機アルマースの、機体の全高ほどもある極光狙撃銃ビームスナイパーライフルの砲身を破壊。


 でも本体は無傷だ!

 今度こそ――あっ⁉


 おかに開いた穴から外に逃げられた‼



『わたしが行く!』

氷威コーリィ!」



 ガシャッ――ボゥッ‼



 氷威機グラディウスの機体が折りたたまれ、その形状シルエットが人型から一振りの短剣のような姿に。高速移動用の銀翼形態に変形した氷威機グラディウスが後方に集中した各推進器スラスターを一斉に噴かせ、エイラ機アルマースの消えた穴へ矢のように飛んでいく。



『待ちなさいよ!』

「行かせないよ!」



 僕は氷威機グラディウスを追おうとしたカグヤ機シルバーンの前に回り込む!



『もーッ! ごめんエイラ、待ってて!』

『了解した……来い、氷威コーリィ

『参る‼』


『ぼくのせいで、ヨモギが……!』

竜月タツキ、反省はあと! 蔵人クロードを!」

『え?』

「外に出て、敵の母艦を沈めるんだ!」

『――うん!』



 使用武器変更、極光銃ビームライフル振動盾ヴァイブロシールド



「やろうか、カグヤ!」

『いいわよ、アキラ!』



 オーラムと同じ汎用型のカグヤ機シルバーンが今装備している着脱式バックパックは〝ルベウスパック〟——ルベウスの性能を模倣するための物で、大出力の推進器スラスターを備え、武装は短機関銃サブマシンガン2丁と小型マイクロミサイルポッド。



 ドキュン! ドキュン!

 ガガガッ! ガガガッ!



 僕の機体オーラム極光銃ビームライフル

 カグヤ機シルバーン短機関銃サブマシンガン


 交錯する閃光と実体弾。互いに相手の背後を取るよう高速で飛び回り、相手の攻撃を避け、隙を見ては攻撃を加える高機動射撃戦ドッグファイト


 速さが命のこの戦いで――


 僕の機体オーラムは 重量級 + 重いネイクリアスパック

 カグヤ機シルバーンは 軽量級 + 高機動のルベウスパック


 しかもこっちは極光銃ビームライフル1丁なのに対し、向こうは両手にサブマシンガン1丁ずつの計2丁。圧倒的にこちらが不利、だけど――


 カグヤ機シルバーンの銃撃が止む。



『あ、あらっ⁉』

「弾切れだね!」



 さっきの氷威コーリィとの撃ち合いで、もうほとんど撃ち尽くしてたんだ!



『やばっ!』



 カグヤ機シルバーンが銀翼形態に変形した。一時撤退して補給する気だ――逃がすか! 飛び去るその背に極光銃ビームライフルを――撃つ!



 ドカァン!



 やったか⁉ ……いや!

 カグヤ機シルバーンが離脱してく!


 爆発したのは直前に分離パージされたバックパックだ。敵機が複数に分離すると自動照準は改めてその内の撃ちやすい方をロックするから。標的がバックパックに変更されたのに気づかすそっちを撃ってる間に本体には逃げられた。


 空蝉うつせみの術。

 カグヤの得意技。


 くそう、毎回これにやられる!

 本体はさっき見た穴から外に!


 とにかく追いかける!


 こういう時、速度の遅い重量級はもどかしい……! 大分引き離されたけど、やっと僕も穴を潜って――カグヤ機シルバーンと敵母艦、全長520mの宇宙戦艦〝ホリゾンタル〟を発見!


 ‼


 敵母艦から発進したバックパック輸送用の無人航宙機〝メルキュール〟から、新しいバックパックが分離した。人型に戻ったカグヤ機シルバーンの背中に装着されようと――



 ドカァン!



 バックパックが爆散した⁉

 撃ったのは――竜月機エメロードだ‼



『タ~ツ~キ~ッ‼』

『う、うわぁぁ‼』

竜月タツキ‼」



 ズバァッ!



 カグヤ機シルバーン極光剣ビームサーベル竜月機エメロードを両断した! くそっ、間に合わなかった――でも、カグヤ!



「隙だらけだ‼」

『あ、ちょ――』



 ドカァン‼



 オーラムの極光銃ビームライフルが、今度こそカグヤ機シルバーンを貫いた!



『キーッ! エイラ! 蔵人クロード! あとお願い‼』

『すまない、自分はもうやられた』

『残り俺だけ⁉ くっそぉ‼』



 蔵人の操る戦艦ホリゾンタルが艦首を僕の方に向けてくる。艦首にある砲口は、艦中軸を走る長大な砲身の極光攻城砲ビームサージガンの物。20mのVDなんて一撃で蒸発させる――でも!



「食らうか!」



 巨大な艦体は回頭に時間がかかる。VDの中では遅い方のオーラムでも余裕で側面に回り込める!



 ビィィィィッ!



 幾条ものレーザーが敵艦ホリゾンタルから飛んでくる。舷側に並ぶ丸窓みたいな激光対空砲ビームファランクスだ。



 ズガァン!

 ズガァン!



 それを避けたり盾で受け止めたりしつつ、極光銃ビームライフルで次々その砲門を潰してく。そして迎撃能力の落ちた舷側へ――



氷威コーリィ!」

『任せろ!』

『と、特攻とっこう⁉』



 ズドンッ‼



 エイラ機アルマースを倒して駆けつけた氷威機グラディウスが銀翼形態のまま敵艦ホリゾンタルに激突し、艦体を貫いて反対側から飛び出した。


 自爆攻撃とっこうじゃない。

 氷威機グラディウスは無傷。


 銀翼形態のグラディウスは全身が一振りの振動剣ヴァイブロブレードになって、ふれた物を全て斬り裂く‼



『まだだ!』

『何ッ⁉』



 ビィィッ!

 ドカァン!



『す、すまんアキラ! みんな!』



 氷威機グラディウスがやられた⁉ 敵艦ホリゾンタルの向こうの舷側の激光対空砲ビームファランクスの集中放火に――敵艦ホリゾンタル、まだ生きてた!



「よくも氷威コーリィを‼」



 ズガァン!

 ズガァン!



 オーラムの武器を電磁軌条砲レールガンに替え、動力炉があるはずの艦尾にとにかくありったけを叩き込む‼



『まだまだ‼』

「うげっ⁉」



 敵艦ホリゾンタルから大量の小型マイクロミサイル! しまった、先にミサイル発射管を潰すべきだった!



 ガォォォッ‼

 ズガガガッ‼



 オーラムの胸の獅子がひとりでに吐いたレーザーが、照射角を変えながら虚空を薙ぎ払いミサイルを次々に迎撃していく。


 きょう激光対空砲ビームファランクス


 VD全機種の固定装備。使用武器に選択してない時は自動で自機に迫る飛翔物を迎撃してくれる。

 でも、こうも近くでこうも大量のミサイルを撃たれると、対処速度が追いつかない……!


 迎撃しながら全速力で後退!

 するけど――ああ、ダメだ‼



「うわァッ‼」



 ドカァン‼ ――ボシュッ! 



 くっそぉぉ!

 撃墜された!


 じんになったオーラムの胴体から脱出装置で射出された頭部コクピット内。僕はもうここで見守ることしかできない。



『やりい! あとは――』

『君だけです。蔵人クロード

『え』



 ギュオォォォォッ‼



 極光狙撃銃ビームスナイパーライフルを遥かに超える光のだくりゅう敵艦ホリゾンタルを呑み込んだ。

 これは極光攻城砲ビームサージガン——ウチの母艦〝ヴァーチカル〟のだ! 悠仁ユージンが戦況を読んで、射線が通る位置まで来てたんだ!



『ちくしょォ‼』



 ドカァァァァァン‼



『試合終了ーッ! チーム・ヴァーチカルの勝利でーす‼』



「『(×5)やったァーッ‼』」

『(×5)あぁ~っ……』


『501敗……負け越したぁ~っ‼』


『アキラ! やったね!』

「うん、竜月タツキ! これで僕等が世界一だ‼」

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