第3話 ロボットに乗り発進
世界大会・集団の部、決勝戦の待ち時間。
僕・
決勝戦の
あと1人のチームメンバーの
……この時間、好きだ。
何せパイロット控え室はVD
僕の機体〝オーラム〟
金の重量級・汎用型VD
緑の中量級・標準型VD
ヨモギ機〝サフィール〟
青い重量級・
黒い軽量級・強襲型可変VD
僕のオーラムは胸部装甲が、
「僕のオーラム、いつ見ても最ッ高だね!」
「アタイのサフィールは火力が最高だぜ⁉」
「最速は、わたしのグラディウスだ」
「……」
「
「何? アキラ」
「エメロード、
「うん。
「ちょっ――」
VDはみんな量産機って設定で、試作機とかワンオフ機ってないんだけど。
「ほ、ほら。扱いやすさとか」
「うん。だから選んだんだ」
20あるVDの機種の間に性能差はない。建前上は。
それは〝扱いやすさ〟も性能だと見なしてるから。
頑丈だと、動きが遅い。
素早いと、制御が難しい。
どんなメリットも扱いやすさと
エメロードは正にソレ。
可もなく不可もない、当たり障りのない設計。主武装の
「エメロード、嫌いなの? 今から別のに変える?」
「嫌いじゃないよ。一番動かしやすいし。それに僕の腕じゃ、少し動きがぎこちなくなるだけでもカグヤ達が相手じゃ瞬殺されちゃうから、変えないよ」
……否定はできない。クロスロードは10人中7人が世界屈指の〝上位ランカー〟だ。
格闘特化の、
射撃特化の、ヨモギ・
残り3人、
空気が気まずい……
「――そうだ! 変えるなら、ぼくが母艦担当になればいいよ!
母艦は、後方に控えてほとんど戦わない。
艦長は、操縦技術を活かす機会が少ない。
弱い自分が引っ込んで、強い
『私は代わりませんよ』
『艦長だって楽な仕事ではありません。
「それは。でも……」
『それに、君の仕事も楽ではないんです』
「え?」
『君はこの大会中、3人と連携を取って戦ってきました。その役を私が急にやっても君ほど
「
『向こうも連携してくるのですから、
「そうかな……」
「ねぇ、
「アキラ?」
「
「う、うん……1対1じゃ勝てない」
向こうは
「向こうの4人で上位ランカーじゃないのは、グラール。上位ランカー同士は互角としてさ。個人技の総和で勝敗が決まるなら――僕等の負けってことになるね」
「そうだよ。だから――」
「でも僕等、全員が上位ランカーのチームにも勝ったよね」
「え⁉ そう、だったっけ……?」
「うん。それは
「アキラ……」
「僕はその、
「ぼくが、メダリスト……?」
「たりめーだろ、タツキん? 集団の部では入賞チームの選手全員にメダルが贈られんだから。負けても銀だから、もーすでにタツキんがメダリストなのは確定してんだぞ」
「そのメダルはおまえがチームを支える力という実力で勝ち取った物だ。わたし達、上位ランカーのおこぼれなどではない」
「ヨモギ、
『そして、ここまで来たんですから金を獲りましょう。君の力が、チームの力が、正しく発揮される戦い方で』
「
……よかった。
やっぱいいな、このチーム。
あったかくて、大好きだ。
◆◇◆◇◆
『選手の方々は出撃準備をしてください』
『時間です。ヴェサロイド隊、搭乗!』
「(×4)了解‼」
僕達パイロット4人は格納庫の方の壁に向かい、窓の下に4つ並んでるダストシュートみたいな四角い穴にそれぞれ飛び込む。中は狭いトンネル。格納庫の各自のVDの後頭部ハッチに繋がるダクトだ。
格納庫はもう外で真空なので、そこに出るにはまずエアロック室に入って室内の空気を艦内に吸い出して真空にしてから格納庫側の扉を開けないと、艦内の空気が抜けちゃう。でも艦内から機内に直通するこのダクトを通れば、その手間を省ける。
この〝VDが実在したら〟って前提に立ったリアリティがいい。
現実ほとんどそのままで、ただし巨大ロボットはあって。
アーカディアン世界って、僕の理想そのものなんだよな。
――突き当り。
左手に、口を開けたVDの後頭部の装甲ハッチ。その奥にVD機内のエアロック。エアロックの奥にコクピットのハッチが見える。
エアロックに入る――とアバターが停止。
目の前にメッセージウィンドウが浮かぶ。
[
VRゴーグルを外す。
ドアを開け中に入ると、目の前に操縦席の背面。
前に回って座席に座り、シートベルトを締める。左の
[Welcom home! My master Akira!!]
「ただいま、オーラム」
全天周モニターに周りの景色が映し出される。
格納庫、足下にはオーラムの胸や肩の金色のパーツの上面。頭部を外した機体の首の上に操縦席を置いて座ってる感じ。機体頭部の各方位にあるカメラの映像を3D合成したもの。
視界は広いし、何より〝ロボットの中にいる〟って実感できるのが最高!
『アキラ』
「
『さっきは、ありがとうね』
「え、あぁ、いや。そんな」
『アキラはすごいよね。上位ランカーでも、世界王者になっても、全然偉ぶらなくて』
「だって別に偉くないし。ゲームが上手くてもさ」
『アキラのそういうとこにね、いつも救われてるんだ』
「そ、そう? 特に何もしてないけど、ならよかった」
内心冷や汗。
あれは
『あのね、ぼく、エメロード以外だと中々勝てなくて。それでエメロードばかり乗ってるけど、本当は他に乗ってみたい機種があるんだ』
「乗りたい機種に乗るのが一番だと思うよ。慣れない内は勝率下がるのは仕方ないさ。僕もオーラムに乗り始めた頃そうだった」
当時はまだ低ランクで腕も大したことなかったし。
オーラムの〝重量級〟と〝汎用型〟って、相性悪くて。
「ボロ負けしてた」
『嘘、アキラが⁉』
「でもオーラムが好きだから負けても乗り続けて、乗りこなせるようになる内に勝率上がってった」
『じゃあ、乗りたい機種でがんばれば、ぼくもアキラみたくなれるかな……』
「なれるよ、きっと」
『なら次回から乗ってみる!』
「その意気! がんばって!」
『これより――』
「
『うん。三人をしっかりサポートする。みんなと、ぼくの全力で、勝とう!』
「ああ!」
『第1回、機巧操兵アーカディアン世界大会・集団の部、優勝決定戦を開始したします‼』
ガコンッ
オーラムに接続されてたダクトや固定具が外れる。
オーラムが足を乗せた台座が床のレール上を前進。
ウィーン
アームがバックパックを運んできてオーラムの背中に接続する。汎用型VDが装着できる武装と一体の着脱式バックパック。今回選んだのは僕が一番好きな、多彩な武装が特徴の〝ネイクリアスパック〟だ。
パック基部の左右に可動
その関節部の
右に
左に
そしてネイクリアスパックの残りの武装が直接オーラムの手元に運ばれる。
右手に
左手に
ゴゴ……
正面の扉が左右に割れ、外に向かって開いてく。
機体射出口からのぞく、星が煌めく漆黒の宇宙。
足下からは上部
格納庫の床からそのまま甲板上に続いてるレール。このレール上を電磁加速で台座が走り、その上に乗るVDを射出する。
ドクン――
左右の操縦桿を両手で握って。
左右のペダルに両足をかけて。
ドクン――
左操縦桿についた出力調整ダイヤルを親指で回し、出力段階をギア4、最大に。
『各機の発進準備の完了を確認しました。それでは、レディ~』
――いくぞ‼
『ゴー‼』
『チーム・ヴァーチカル、出撃です‼』
「オーラム! アキラ、行きまーす‼」
上体を乗り出しながら、両手に握った操縦桿をグッと前へ!
全身の力を託して、両足でペダルを踏み込む!
ピピピ、ピーン!
ズシャァァァッ!
バッ‼
『エメロード!
『サフィール! ヨモギ、出るよ‼』
『グラディウス!
4機、発進順に並んで進む。
「進入路発見!」
前方の巨大な円筒形の構造物。朽ち果てたスペースコロニー。その端に開いた大穴から内部へ進入する。空気は抜け、回転が止って重力が失くなったコロニー内に、車や建物の
グッ、ググッ――
何か楽器でも演奏してるみたいに小刻みに、左右の操縦桿を前後させると、オーラムは左右に蛇行しながら
操縦桿は――
大きく押し引きするほど速度が上がり、左右の操縦桿の目盛りが一致していれば真っ直ぐ進み、ズレていれば左右片方が前に出ることで
タンッ
タンッ
旋回で進行方向を変えることなく
機体の上下移動は、操縦桿の前後で。
機体の左右移動は、片ペダルで行う。
両ペダルを踏み込むと、左右のペダルの入力が打ち消し合って別に入力になる。操縦桿で移動を入力してない時はブレーキに、してる時はアクセルに。
そろそろチーム・ホリゾンタルと遭遇する頃――いた、上だ‼
『アキラ!』
「カグヤ!」
『今日は負けないわよ!』
「今日も負けないから!」
『チーム・ホリゾンタル、戦闘開始‼』
「チーム・ヴァーチカル、戦闘開始‼」
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