素敵な夜に【SS】
【最初に】
前回とは違ってイリス視点です。
さほど長くはありませんが読みにくかったら申し訳ありません
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聖なる夜に行われる姫百合達の舞踏会。会場のすぐ側にあるヤドリギの木の下で告白やエンゲージをすると永遠に結ばれるとか、そう言われているらしい。
……だから、私は告白するときにはその日にしようと思っていた。
もちろん、告白する事は彼女には教えていないし、噂についても一切話をしていない。この場所で待ち合わせ、ということにしている。
「……派手、かなあ……これ」
自分自身のドレスをみて呟いた。たまたまクローゼットの中にあったドレスをそのまま着てきたのはいいものの、どこか自分にとっては派手な気がする。
「……なんであったんだろう……?」
別に自分で用意していたわけでもなく、気がついたらあった程度だ。
もしかして、お母様が入れてくれたのかな。
――それにしても
「すごいなあ……」
優雅に、華麗に、そして時には大胆に。流れる音楽と共に他の姫百合達が踊っている姿をみて言葉を漏らした。
そんな踊ってる人たちの影には踊らずに食と向き合っている人も居た。タッパーに詰め込んでいる人もいる。まあ、それはそれで個性があっていいなとは思うよ?うん……。
と、いけないいけない。キョロキョロしたらそれじゃあただの不審者にしか見えないよね……。
ここにきてさほどの時間は経っていないけど、別に苦ってほどでもない。だって、必ず来るって「信じきれる」から。
少し前にちょっとした事があって、その後に彼女が私の過去を知りたいと言われ、私の部屋に誘ったあと、「過去を全て打ち明けた」
過去なんてあまり話さない体質というか、知られたくない私にとってこのことは、本気で信頼しているという証でもある。そういえば、過去を話した後は―
「ッ~!」
ふと頭の中でよぎる記憶。その瞬間、顔が真っ赤になった。私はあの日、はじめてキスをしたんだった。唇じゃなくて、頬にだけど……。
恥ずかしいと思う反面、幸福感でそれはすぐに書き換えられる。あの時間は、一生忘れないと思う。
「――間に合ったかしら?」
一人で思い出に更けていると、聞き覚えのある声が私の前で聞こえた。
それは紛れもない、あの人で、待ちに待っていた、彼女がそこに立っていた。
「ノワール……!」
見るや否や私はすぐさま駆けつけて、抱きついた。
「あら、よほど嬉しかったのね。ごめんなさい、アナタを待たせてしまって」
彼女―ノワールの声にハッとした私は慌てて手を離して、謝った。
「す、すみません!って、謝らなくていいですよ!私もほんとについさっき来たばかりなので……」
実際時間は十分程度といったところか、でも遅れた、という訳でもないので別に木にする必要性はない時間だった。
「そう?それならいいのだけれど……」
「気にしないでください!……それより、タキシードなんですね!カッコイイです!」
「それを言うのなら、アナタのドレスだって似合っているわ」
「えへへ、ありがとうございます……」
と、少しの談笑をした後、私は一呼吸起き、よし、と小さく呟いた。
その動作を見たノワールは「どうかしたの?」と問いかける。
「う、ううん!……そういえば、ノワールはこのヤドリギの伝承って……知ってる?」
慌ててなにもないことを示し、思い出したかのようにヤドリギの木を見つめて問いかけてみた。
「ええ。知っているわ。ここで縁を結ぶと永遠に結ばれる、でしょう?……もしかしてアナタ……。ううん、それはアナタの口から聞いたほうが良さそうね」
私が言いたい事に気づいたのか、あえて言うのをやめてくれた。
「う、うん。わかってると思うけど……。わ、私と、エンゲージ、してください……!」
顔を真っ赤にして告白し、礼をする。うわあ……顔が熱いよ……。どれだけ真っ赤なんだろう私……。
幸いなことに、周りにさほど人はおらず、そこまで視線を浴びることはなかった。
ノワール自身はちょっとだけ驚いたような表情をみせた後、すぐに冷静になり、考え始める
「わ、私は今の状態でもいいなって思ってることもあるけど……でも、うわさが本当なら、私は―」
「言わなくてもいいわよ。アナタの考えていることはなんとなく、わかるから」
言葉があやふやな私を微笑んで静止してくれた。
「それで、エンゲージ、よね?……私でいいのかしら?」
言わなくてもわかっているのならば、別に確認をする必要はないとは思うけど、これは一種の儀式をするための確認のようなものだと私は考える
「むしろ、私はあなたしか居ないって思っているの。だから、私は”全て”をあなたに教えた。もう私を裏切らないって、誓ってくれたから」
顔を上げ、ノワールの右手を両手で握って言う。もう、この手を離したくない。あなたを失いたくないの。誰も見ないで、私だけを見てほしいの。だから。
「ふふ、そうね。聞くまでもなかったわね……。それじゃあ私の答えも言わなくていいかしら?アナタなら、わかるでしょう?」
と、右手を包み込むように左手で添える。
ノワールは、最初から分かっていたのかもしれない。私がこの日に告白するということを
「……はい!」
安心感が私を包み込んでくれるような気がして、また泣きそうになる。でも見つからないように私は堪えた。
と―。
0時を告げる鐘が鳴った、その瞬間だった。
窓ガラスが割れた音。そして現れる黒き百合
「これって……?!」
驚いた私に対して、ノワールは冷静に答えてくれた
「どうやら、パーティーの雰囲気に誘われてきたようね、ほら」
よく見てみると、いつもと違う装いをしているようにも見えた。
「指輪をしてすぐにエンゲージしたいところだけど……あんまりそういう時間はなさそうね」
「それなら……」
私はすぐさま顔を近づけ、彼女の唇に私の唇を重ねる。
とても柔らかくて、ずっとこのままでいたい。でもそんな時間はないから、数秒した後、離した。
キスをすれば、姫百合は強くなる。
「ありがとう……ちょっと恥ずかしかったけど……。イリス、エンゲージの前に一つ、遊びましょうか?」
少し頬を朱に染めながらも、微笑み、私に向かって言う
「……はい!」
私も笑顔で答え、黒百合達の前を向いた
嗚呼、今日は素敵な夜だ。
【ゆりきす】 @lren_elsword
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