第27話 協力する?
会社には相変わらずの報道陣が詰めかけていて、会社のビルを出るだけでも精神的苦痛を感じた。
アパートに帰るとテレビをつける。やっぱりキス税のことがニュースになっていて、スタジオではいつか見た反対派の佐藤議員が声を荒げて訴えていた。
「企業との癒着がある政治家の言う事を信用していいんでしょうか?大沢議員はまだまだ隠蔽しています!私の政治生命にかけてでも正しい情報を発信していきます!」
佐藤議員に代わってアナウンサーが話し出す。
「世間ではキス税反対派に対してハニートラップが行われていたのではないかと噂されています。そこで当番組はこのような映像を入手しました。」
画面が変わると、つい立の向こう側に座る女性が映し出された。声も加工されている。
「私は〜キスするだけで〜すごくいいお金になるからって友達に誘われて〜。え〜簡単でしたよ〜。だってモテない男を誘惑するだけですよ〜。ちょっと我慢してキスするだけで〜。」
うわっ本当なのかな…。そう思って見ていると今度は騙された男の人がモザイクで映し出された。さすがに先ほどの女の人の相手というわけでは無さそうだが、何人かの人が映った。
「周りのみんなは騙されてるって言ってくれたのに、俺は違うって信じてたんだ。でも…やっぱり騙されてたんだ!」
華は前に見かけたカップルと別の男が言い争っていた場面を思い出す。きっとあんな人がそこら中にいたんだろう。
テレビではまたアナウンサーが話していた。最後の締めくくりのようだ。
「キス税は金と嘘でまみれた政策なのでしょうか。真実が解明されるまで私たちは…。」
ブチッと音を立てて画面が消えた。華は苛立ちを覚えた。
今までは散々いい政策だ、反対するなんて…という報道の仕方だった。それなのに今は手のひらを返したような報道。それに振り回されるこっちの身にもなって欲しかった。
ハニートラップ。本当に政府が企てたのだろうか。そしたら南田さんも?さすがにそこは違うのかな…。
そう思ってみても南田は一向に席に顔を見せないし、飯野ともあれ以来会えていない。もしハニートラップや癒着に南田が関わっていたのなら、どうなってしまうんだろう。嫌な思いがグルグルと回った。
次の朝のニュースでは、癒着があった社員の名前とハニートラップを仕掛けていた議員など数名が逮捕されたとの報道があった。
誰が関わっていたか確定した段階での家宅捜査だったようだ。腐っても大企業。家宅捜査してから何もありませんでした。では、色々と問題なのだろう。
華たちの会社へキス税の認証機械の開発、製造を委託する見返りに大沢議員に資金提供をしていたようだ。それは一部の社員が個人的にやったものとの報道だったが、実際はこれから明かされていくであろう。
大沢議員は資金提供についても、ハニートラップについても「私は知らなかった」との一点張りだ。そうやってトカゲの尻尾切りのように下っ端の議員だけが罪に問われるだけになるのか…。なんともスッキリしない結末になりそうだった。
一通りの報道が終わると、華の会社の社長が謝罪会見を開いた模様が映し出された。
「今回は我が社の社員が不祥事を起こし世間を欺いていたこと、誠に申し訳ありませんでした。大変遺憾であります。対策本部を設置するともに再発防止に努める次第にございます。わたくし池嶋は全ての問題を解決したのちに、今回の責任を持ちまして辞任いたします。」
華は今後どうなってしまうのか不安だった。会社は大丈夫なのだろうか…。不安に思ってみても会社に行くより仕方がなかった。
職場に着くと昨日に引き続いてざわざわしている中で「寺田さんも関わってたんだって?」との声を耳にした。
何に関わっていたんだろう。癒着の方なのだろうか…。
「寺田さんも部長と同じ大学出身らしいじゃない?寺田さんの方が熱心に部長を誘っていたらしいよ。で、部長が内部告発したとか、なんとか…。」
どこまで本当か分からない噂が口々に話されていた。
席に行くと南田が座っていた。安堵して息をつく。今朝のニュースにも南田の名は上がっていなかった。関わってはいなかったのだろう。
「おはようございます。」
「あぁ。おはよう。大変だったな。」
いや…私は心配ではあったけど、大変なことは何も…。
そう思ってもそれを口には出せずに、華は黙って席に座った。そんな華に南田から資料が渡された。
「一昨日が全て潰れてしまった。僕らの仕事は認証機械とは無関係だ。よって納期は端的に言っても困難極まりない。満身創痍になろうとも完遂する必要がある。」
「あの…午前中は…。」
「寝ぼけているのか。飯野のじいさんにはもう伝えてある。君も力が及ぶ限りは全力を尽くせ。」
1日ぶりの難解な言葉に頭がついていけないけど、たぶん協力して仕事を終わらせよう。そのために飯野さんの教育は今日はお休み連絡済みってことかな?
「理解したのか?理解したのなら四の五の言わずに仕事を進めろ。」
う…私は何も言ってない!
そう心の中で憎まれ口を叩いても、難解な言葉をかけられても、華は嬉しい気持ちでいっぱいだった。また南田さんと仕事ができて良かった。そんな気持ちだった。
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