第19話 聞いちゃう?
可奈の席で見せてもらった南田の出退勤の時間。朝はほぼ毎日のように6時には出社していて、華を半日で帰らせた日は12時近くまで残っていたようだった。それも全てが華とペアになってからだった。
「ね。華ちゃんに残業させないように南田さんが頑張ってるでしょ?」
可奈は自分のことのように得意顔だ。
「でも…派遣の加藤さんだっけ?あの人とペアだった時は残業してないみたいでしょ?やっぱり私がお荷物ってことなんじゃ…。」
自分で言って心がしおれてしまいそうになる華に可奈は思いもよらない言葉をかけた。
「そんなの華ちゃんに期待してるからに決まってるよ!だいたい派遣の子は社員のお手伝いだけど、華ちゃんは社員だからそもそもが違うの!」
そうか…。そうかもしれない。それでも南田にしたらお荷物はお荷物だろう。
そして華は一番不思議に思っていることを口にした。
「だいたいどうして南田さんは朝早くに来てるのかな。なんだか私に残業してるのをバレないようにしてるみたい…。」
「そりゃそうでしょ!もう!華ちゃん分かってないんだから!だから私が南田さんの味方をしたくなるんだよ〜。」
何を分かってないって言うのよ…。可奈の南田びいきに少しうんざりして続きを待つ。
「残業してるの華ちゃんに知られたら、華ちゃんが悪いなって思うでしょ?そう思わせないために決まってる!」
そんなわけ…そこまで私のこと考えて…?だとしたらもっと仕事を優しく教えてくれたらいいのに…。いやいや違う違う。これは可奈ちんの想像上の南田さん!
「はいはい。可奈ちんの南田愛は伝わったから。」
「もう!やっぱり華ちゃんは分かってないんだから!!」
またプリプリする可奈の席から自分の席に戻る。やはりまだ昼休みなのにパソコンに向かう南田が席にいた。無表情な視線がチラッとこちらに向けられた。
「不毛な雑談をする暇があったら飯野のじいさんから修学したことを復習するんだな。」
不毛かどうかは南田さんに関係ない!ちゃんと聞こえないように話してるから内容知らないはず。…というか南田さんの話だし!
華は可奈が言うような心遣いを南田にされているなんて到底信じられなかった。
ここ2、3日、ヘルプデスク…というか飯野に基礎を教わっただけで、ずいぶんと南田が伝えようとしていることや、仕事内容も理解することができた。
そこから仕事ができるかはまだまだだけれど、理解できるようになったのは大きな進歩だった。そのお陰で手厳しい南田の指摘を受けずには済んでいたが、かと言って南田が優しいわけでは無かった。
休憩室に向かう途中に派遣の子たちが集まって話している前を通りかかった。すると呼び止められ、立ち止まると呼び止めたのは南田の元ペアだった加藤だった。
「奥村さんお疲れ様です。最近は南田さん、前ほど怖くなさそうで私もホッとしています。」
気にしてくれてたんだ。やっぱりいい子。いい子って、たぶん年上だろうって人に失礼かな。
「仕事に厳しい人みたいだから…。私はまだまだだから仕方ないかな。」
南田を庇うような言葉が口を出て、華は自分でも驚いた。
「奥村さんは心が広いです。私なんて南田さんと雑談しただけで泣けちゃいそうになったこともあるんですよ。」
南田さん何を言ったんだか…。
加藤は続けて話す。
「南田さんと海外の好きなアーティストが同じだって知って、同じアーティストが好きな人なんて初めてお会いしたので嬉しくて…。相性がいいって本当なんですねって言ったんです。」
聞いたアーティストの名は華が聞いたことのない名前だった。やっぱり相性か良かったのは加藤さんとなんじゃないだろうか…そんな思いが頭を巡る。
「それはすごい偶然ですね。」
力なく華が発した言葉に加藤は首を振った。
「でも南田さんは、趣味嗜好が同じで何が嬉しい。同じではそこから発展はない。何も生まれない。って冷たく言われちゃったんです。」
思い出したのか、加藤の目はウルウルしている。華も驚いて口を開く。
「でも意見が合わないよりは合った方が…。」
「そう思いますよね!でも南田さんは相違があってこそ面白い。だそうです。もう私、何も言えなくて…。」
南田さんって空気読まな過ぎ…。はぁ。その尻拭いで私が南田さんのペアか…。
そんなことを思っていると一緒にいた他の派遣の子が話し出す。
「でも良かったじゃない。そのおかげで内川さんとペアになれて、晴れてお付き合いすることになったんだから。」
「もう〜!恥ずかしいから言わないでよ〜!」
加藤は顔を赤らめて照れたように頬を手で覆った。その姿は可愛くて、とても華はそんな風になれないと思ってしまった。
休憩室に行くと今度は男性社員の声が聞こえた。前に嫌なことを聞いてしまったことを思い出して、休憩室に入るのを躊躇してしまう。すると驚くことが話されていた。
「南田とペアの奥村さんって、南田が部長に直談判したから代わったんだろ?」
直談判…。可奈ちんが言ってたことと同じ…。
華はその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
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