廃星より弾を込めて 4

 一人で帰ることになって、俺は駅へと向かった。

 歩いているとふと見知った顔を見つけたので、声をかける。

「ああ。これはどうもウィンドウズさん」

 第一五エリア統治機構長官の付き人、ギルバート・ゾラックだった。第一五エリアは第一四エリアの隣に位置していて、俺とゾラックは同じエリア統治機構長官の付き人ということもあって、何度か一緒に食事をしたこともある仲だ。

「お帰りですか? 第一四エリアも第一五エリアも方向は同じだ。ご一緒させていただいても?」

 ゾラックは快く了承してくれた。二人並んで駅まで歩く。

「今日はゾラックさんが第一五エリアの代表として出席されていましたが、何かあったのですか?」

 先ほどの会議に、第一五エリアの統治機構長官であったニコラス・サンティアゴの姿は見えなかった。なにぶん、どこの統治機構長官もオルタネイティブ第二計画の実行に手が回らない状態だ。代理として付き人がエリアの代表として発言することはよくある。実際俺も第一四エリアの代表として、アツシの代わりに何度かニビル対策会議に出ている。だが、サンティアゴはどんなに多忙であっても、決してこういった会議には代理を寄越さずに、皆勤を貫いていた。

「ええ……実は、自殺を」

 自然と足が止まる。俺はゆっくりとゾラックを振り向いて、目で詳細を話すことを促す。

「ニコラスは、火炎病を患っていたのです」

 一言一言を噛み締めるようにしながら、ゾラックはゆっくりと語り始めた。

「発病したのは数週間前のことです。まだ皮膚の二〇パーセントが爛れていた程度で、ニビル対策会議には包帯を巻いて出席していました。でも精神的にかなりやられたようで、次第に言動が自棄になっていきました。……そして二日前、彼の手に埋め込まれていたICチップから、彼の死を告げられました。あれですよ、近頃出回っている、救急が間に合わないほど速く効くってクスリです。名前は……」

「〝GB〟ですね。『グッド・バイ』……さようなら」

 空気が重い。俺たちは再び歩き出した。

「ニコラスがそのクスリをどこで手に入れたのかは分かっていません。もちろん遺書もありませんでしたから」

 それ以降、駅に着くまでゾラックと俺は一言も話さなかった。俺たちは卵形の車両に乗り、途中でアナウンスに従って『鉛服』を着用する。

「……いつまでこんな生活が続くんでしょうか」

 俺は答えられなかった。

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