第80話 神聖確立幻想世界
レミィとの約束を交わした俺は、次にやるべき事をすべく二階へ上がった。
Littleuと札が下げられたドアの前に立ち、ノックを三回。
「リトラ、話があるんだが」
返事、無し。
「リトラ」
返事、全然無し。
いるのは分かってるんだがな。
「リートーラー」
勢い良く開いたドアに吹っ飛ばされた。
何なんだ、一体。
「うるっさい今良いとこなんですから!!!」
「何だ愚弟、リトラに用か」
信もいやがったのか。
「うるっせぇ駄姉。あの世界の事で話があんだよ」
悪魔と天使でイチャイチャチュッチュでもしてたんですかぁあ~?
俺も混ぜてくれやコンチクショウ。
と思ったら、部屋を覗いてみると床一面をグルグル回ってる魔法陣が一つ。
何やら儀式をしていた様子。
「何してんこれ? 邪神招来?」
「何処でその発想に至った。お前の言うあの世界の調整だよ」
「貴方のせいで色々と介入されてしまいましたので、いっそ再興を早めようと」
「単に《
「そうですよ。折角サプライズにしようと思ってたのに……」
スキャンすりゃ分かるわ、そんくらい。
魔法陣の回り具体から見て、向こうとの時差は今のところ約三ヶ月程度ってところか。
ぶっちゃけ。遅いだろ。これじゃ。
「何で分かるんですか……」
「視りゃ分かる。俺もあの世界の有用性を考えてな。そこで、あることを思い付いた」
「「?」」
「Hey,Come-on」
合図のスナップを響かせて、例の二人を呼び寄せる。
「トウッ!!」
「どもです」
「「あっ、バカ姉妹」」
そう、最早俺の妹的立ち位置に落ち着いてきたこの二人がね。
「「バカ姉妹の足立シスターズ、またまた推参!」ですっ」
「って一言余計じゃぁあ!!!」
「否めないのが悔しいね、お姉ちゃん」
うぅんこの、頭が残念ではないんだけどバカとしか言い様の無いこれ。本当好き。
子犬よろしく唸る日和を前に、悪魔二人が疑問を投げ掛ける。
「それで、コイツらに何が出来るってんだよ」
「ただの霊能力者ですよね、足立姉妹」
「その霊能力が役立つかも知れないんだな。確証は無いけど」
「……大体察した」
「何となくは」
足立姉妹も活躍出来そうってワクワクしてるため、早速件の世界へGo。
* * *
さっきはイザヤと一緒に降り立った、あの崖上に
少しずつ緑が殖えてきているようだが、まだこの世界には岩や砂の方が多い。
リトラに与えられたリソースを上手く使って、主に人族が生活圏を徐々に広げているようだ。魔物の類も協力して住んでるらしい。スゲェな、この短期間で生存本能が低ランクの魔物や獣の知性を向上させたのか。
「うわぁーこれは酷いね」
「死霊すらもまるで視えない……ご主人。死んだ者の魂、本当に全て奪っていったのですね。これでは輪廻転生の輪が崩れるのは当たり前です。元より転生先の命が根こそぎ刈り取られてるから良いものの」
「まぁ、そりゃな」
「まーまっ、やってみなきゃ分かんないでしょっ」
「成功したら、この世界の神にでもして下さい」
「デカく出るね。信仰得られるかはお前ら次第だかんな」
まぁ、情報操作でも使えば神であるって
「初手は頼んだよ」
「後釜失敗したら一ヶ月トイレ掃除はお姉ちゃん」
「お"ぉ"良いよ彩月失敗したら冬の雪掻き一人でやってもらうから!」
「「 は よ や れ 」」
「「はーい」」
「この息の合い様……姉弟姉妹ですねぇ」
ったく、こんなときにゲーマー根性見せなくて良いっての。
さて、始まったな。
「この世に眠る全ての"精霊"よ。我が声に応え……っあぁもうめんどくさい。起きろぉおー!!!! いつまで寝てんのぉおー!!!!」
彩月が珍しく叫びやがった。
っつうか、良いのかそれで。
「…………」
ほらぁちゃんとやらないからぁ。
全くの無反応じゃん。
「…………雪掻き……一人でやるのやだぁああ……!!」
「ここで紙メンタル発動しないでって」
さっき彩月も言った通り、俺のやろうとした事は精霊の復活だ。
イザヤと一緒に来た時、魂の所在を確認してみると不思議なぐらい数が多かったんで気掛かりだったんだ。生き残りの生命をスキャンしてみても、数が合わない。そして、やたら地中や空中に散る事無く留まっているのを見て一つの仮説が浮かんだ。自然を司る精霊達が、プロテクトモードにでもなっているんじゃないかってな。
日本で言えば八百万の神的な存在のコイツらを目覚めさせれば、もしかすればこの世界の自然が戻って来るのではないかと踏んだわけだ。
霊ってつくからには足立姉妹の能力が効くんじゃないかなーって思ったんだがー……目覚めない事には、どうしようもないな。
言葉遊びも程々にしないと。
っはぁ~仕方無い。
今回の試みは失敗と言う事で、気長に再興……。
「出ぇたぁ!」
「「「「え"っ!?」」」」
出た?
精霊起きた!?
「何処だ!?」
「ほらあそこ!」
「……マジだ!!!」
明らかにその場には不釣り合いな草むら!
その中に、半透明の羽を持っためっちゃ小っちゃい人型の女性ッ!
精霊だ! スピリットが目を醒ました!!
「うわっ!?」
「うぉっ、地の精霊っぽいの出て来た!」
「コロンビアァァアアアアアアアア!!!!!」
彩月がキャラ崩壊してるのは放っておいて。
凄いぞ、次々覚醒していってる!
いける! いけるぞこれ!!
「日和!」
「あーいよ! 皆ー!! それぞれ自分の自然にー、Comeback!!」
変なポーズにはツッコまないでおくとして、その言葉を合図に精霊達が一斉に動き出した。各地へ飛んで次々樹や草、花などの緑を殖やす者。寄り集まって雲になり、雨を降らせる者。砂や岩ばかりの地面を、土に戻す者。雷を落とす者。風を呼ぶ者。どいつもこいつも喜んでる。日和がそれぞれに合った属性と結び付けたんだ。
辛うじて息のあった世界が、活気に満ち溢れ、生命と幻想の躍る世界へと生まれ変わっていってる。
一言で言うなら、壮観だ!
秒単位で、十年や二十年分の成長が360度全てに見られる!
再生だ! 世界の再生を目の当たりにしてるんだ、俺達は!
「す、すげぇ!?」
「見る間に自然が戻ってきてますよ! 精霊凄い!」
「って言うか雨が酷いんだけどぉお!」
「恵みの雨だぁぁああああああ!!!」
「ッハハハ! 精霊の齎した水だ、徳が高いぜ!」
元来、俺は雨が嫌いなんだが……こうして彩月が言う恵みの雨を受けてみると、印象ガラリと変わるもんだな。気持ち良いもんだ。
見ろよ。もう緑の方の割合が上回ってる。
雨も止んじまった。今頃、枯れた湖や海すら復活してるかも知れないな。
お誂え向きに虹まで出てやがる。最高じゃねぇか。
「これなら、後は放っておけば勝手に人口も殖えて、文明が再構築されていくだろ。魔法も奇跡もある世界だ、上手くいくって」
そして、俺達の事をこの世に知らしめる。
そうすれば、彩月も望んだ神の座を手に入れられたりするかも知れんだろ? そう上手くいくかは分からんが、なったら面白いじゃん。
「わぁぁ……悔しい、こんな簡単にいっちゃうなんて」
「そういじけんな。お前がこの世界に目を付けてなかったら、俺もこんな事思い付かなかった」
まぁ、突然襲撃して滅ぼした癖して何宣ってんだって文句が
俺らは人類の軌跡を辿っているに過ぎない。
より一層の発展を目指して。
そして、極め付けはこれだ。
「リトラ、この世界って名はあるのか?」
「……名前……この世界に名前はありませんでしたね」
「なら、お前が名を付けたらどうだ?」
おっ、目を見開いた。
自分が振られるなんて思ってなかったか。
「……私が……?」
「あぁ。ここは始まりの世界だからな。俺に初めのチャンスをくれた、リトラに名付けて欲しい」
まだ名の無い世界だ。
俺が初めて訪れた異世界。ソイツが名を付けられ、新たに生まれ変わる。これは一つの節目になるだろうよ。
その報せは、やはりこの女にしか務まらねぇ。
「……分かりました。では……リトラ=デビリッシュ、今より名を告げます」
初めの女、
良い名を付けてくれ。
「すぅー……はぁー……この世界の名は!」
「〔神聖確立幻想世界=ファンタジア〕! 」
世界が名を貰い、祝福を授かった。
生き残った人族は、皆、始まりの民となり。魔物や獣達の中から神に等しい者、
僅か数十分で、
「……神鵺さん」
「ん?」
「この世界を貴方にあげようと思います。壊すだけが、貴方の力じゃありません。神鵺さんの創る世界を、私は見てみたい。もっともっと、貴方の行く先を見たい。神鵺さん――ファンタジアの、神様になって下さい」
「……」
俺が目を見開かされるとは思わなかった。
このリトラが、そんな想いを抱いていたとはな。
「私は……貴方の
こんなに嬉しい事があるか。
世界を壊して敵ばかり作る俺が、作るものとして求められる日が来るなんて。
今、俺は、最高の幸福を味わっている。
他に返事は見つからなかった。
「――あぁ!」
こうして、俺は人の神になった。
異世界を蹂躙する化物が、異世界を創造する神としても君臨した。
これは終わりじゃない。
新たなステージの幕開けだ。
…………
………
……
…
まだまだ課題は残っている。
悪魔とは何か。
天使とは何か。
俺が生まれた世界の正体とは。
異世界とは。
この
本来議題に上げるべき事は、敢えてこの章で語られなかった。
それらの事は、これから解き明かしていこう。
この物語は、象徴の指輪に選ばれた
楽しんでいったモン勝ちって事で、ここらで一旦終了させてもらおう。
ここまで付き合ってくれた皆に、感謝一杯。
物語は、後三章残っている。
まだまだ着いて来てくれるヤツがいるなら、俺は走り続けよう。
全章クリアするその時まで、この疾走は止まらねぇ!
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ソウルダッシュ 転醒 廻実 @tensei_kurumi
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