第79話 再誕
亜空の扉とも言うべき次元の境を越えて、剣と魔法の世界へ戻ってきた。
俺らが出して良いギリギリの最高速度、準亜光速で空を横切っていく。
《
「し、神鵺、脚が……!」
「脚が壊れるぐらいぃー……なんぼのもんじゃぁあああああああ!!!」
叫んでたら、ガレージからウルネラとアルバロが飛び出してきた。背中にアタッチして、まさかのブースター代わりになりやがったぞコイツら。
もう止まった。助かったぜぇ……。
「んぬぅぅううぅぅ……っくぁあ~痛っってぇえ~……」
あーダメだ、倒れる。
ガシャーン。倒れちった。
ウルネラにアルバロもパージして倒れちった。
サンキュー。イザヤに関してはー……抜かり無いコイツらの事だ。何かしてんだろ。
「あぁ~信、何処も損壊してねぇか」
「…………」
「……信?」
「……~~……ッ!!」
「グボォ……!?」
グーで殴られた。
うん、無事なようで何より。
俺は無事じゃないけど。
……俺は無事じゃないんだけど!!!
自業自得ですね!!
スンマセン!!!!
「何、考えて……すっごい、すっごい怖かったんだぞこの馬鹿! 初めて……初めて、死ぬかも知れないって……!! 怖かった……スゲェ怖かった……!!」
「……悪かった。まぁ、信が最後まで着いてきてくれたのは嬉しかった。途中で飽きられでもしたら俺がぱずかしかったからな」
「お前が馬鹿な事仕出かすからだろうがッ!!!!」
今度はアッパーかよ。倒れてる状態で良くやるな、おい。
首跳ばなくて良かったけど頭が凄い痛い。
「ゔぇ~……」
「っはぁ…………超疲れた……」
やっと上から退けてくれた。
コイツ、ちっちゃい癖に重いんだよな。
ゼッテー本人には言わねー事だけど。
「……♪」
二人して大の字倒れか。
不良二人が喧嘩した後みたいで、何か良いじゃんこれ。
空も良い感じに晴れてるし。
もう、エンディング入っても良いんじゃね?
「……あ、そうだ。私、神鵺の姉って事になってるから」
……待って?
「ドユコト?」
「亜紀の頼みで」
「えっ」
「お前、色々やり過ぎるし」
「待って」
「第一、私、歳が西暦だし」
「待って?」
「そう言うわけで」
「待って!?」
「姉を怖がらせんな。この
……母ちゃん、アンタまた何してくれちゃったの。
俺に?
姉が出来たって?
しかも、めっちゃくちゃ年上な上に5年半ぐらい前まで天界でグータラしてた超付き不良の熾天使が!?
「勘弁してくんさい」
土下座だってするわ。
嫌だ。
こんなのが姉って凄い嫌だ。
「拒否権は無い」
「
俺は世界を罵った。
とことん罵った。
姉の事も罵った。
全力で殴られた。
何故、俺はブレーキの為に脚を犠牲にしたんだ。
脚が無事ならステップで初撃を躱せたのに。
チクショウ。機体が動かねぇ。
関節部壊しやがって。
「世の中クソだぁ……」
「同感だ」
……まぁ……自分で気付いちゃいねぇが。
もう、信らしい信に落ち付いてるな。
恐怖を受け止めて、吐き出し逃げて生き残るって事を覚えた。
生き物であろうとするための試練を乗り越え、命に適合したってわけだ。
これからは、より鮮明に世界が見えてくるだろうよ。
綺麗なもんでも、汚いもんでも、今まで以上にクッキリな。
『……ミッション成功だ。やったぜジェイク』
『おめでとう。貴様が
……コイツ、今イザヤのとこにいるのか?
って事は、俺のガレージに機体移して入った?
何処まで気が利くんだこのオッサン。マジ渋いわ。
その機転をもっと俺自身に効かせてくれない?
くれない。あ、そう。
「おぉーい!! 無事、じゃねぇなお前ら!? 何があった!?」
あぁ、環奈も来たか。
良かった。今だけは信に運ばれるなんて絶対嫌だと思ってたところだ。
「助けて環奈ぁあ~お姉ちゃんが虐めるぅ~」
「……は?」
きょとんとしてらっしゃる。
うん、それが正常な反応だ。
「私がお姉ちゃんだ」
「……は!?」
理解はしてるようだ。流石、腐っても知力B+。
分かってそして驚いてるって顔だ。
その気持ち、分かるぞ。俺も理不尽だって思う。
「また母ちゃんが勝手な事してくれやがった。マジクソ」
「……それくらいが良いんじゃね? お前、色々やり過ぎるし」
「
俺は、彼女に同情してもらう事すら赦されないのか。しかも女同士で意見が合致するとは。これが社会性に優位を取りやすい女性専用スキル同調か。羨ましい。妬まし過ぎるぞ。
くそぉ、泣くぞチクショウ。
男がプライドも無くビービー泣き喚いてやるぞコンチクショウ。
「……あ、待て」
「あ?」
「ん?」
一つ、ある事実に気付いた。
これは、形勢逆転のチャンス!!
「お前、機械から命ある生命に進化したんだから実質0歳だろ!!!!!」
「…………」
「…………」
冷めた目で見られているが、負けるな!
根性で押し切れ、俺!!
「妹!!!! 強いて妹!!!!!! お兄ちゃん虐めちゃダァ………ぁ……」
「…………」
「…………」
あ、ダメだ。
指鳴らしてるし首鳴らしてるし。
ヤる気だ。
殴り殺す気満々だこれ。
ヤバい。死ぬ。
死んでも大丈夫だけど彼女と妹 (仮)に殺されるのは色々悲しいから嫌だこんなんで死にたくねぇよ助けてジェイク!!!!! ウルネラ!!!! アルバロォ!!!!
「助けて下さい!!!」
「「死ねぇ!!!!」」
「ア”ァ”ア”ア”ァ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ァ”ア”ァ”ア”ア”ア”!!!!!!」
誰も助けてくんなかった!
自業自得ですね!!
知ってた!!!
…………
………
……
…
神鵺を殴るって目的は達成した。
私の目論み通り、気分もスッキリした。
もうこれで良い。色々めんどくさくなったし、これで十分。
殺しちまったけど、当初の目的も達成したから良いって事で。
抜けてるようで抜かり無いコイツだ。自我データのバックアップぐらい取ってるだろうし、機体直せば復活するだろ。
今は、リトラが来るまで待ってるところだ。
武器共は神鵺のガレージに戻って、多分AI親父が入っているんであろう黒い機体が神鵺の死体をコンテナに詰めてる。
「……何か、上手く乗せられちまったな」
「お前、もう気付いてるか?」
「気付くも何も、本人から動機を聞いたよ。私の為に一族皆怒らせるとか、迷惑も良いところだ」
「それだけ、気に入ってんだ」
「はぁ? それ、亜記にも言われたぞ。あの
「神鵺はああいう奴だよ。私が鵺に
「いや」
「本気で馬鹿にしやがったんだ。上から見下して、トドメに嘲笑だぞ。あの顔を見た瞬間、鵺の事が頭からスッポリ抜け落ちてな。半殺しにでもしないと気が済まなくなるぐらい怒り狂っちまったわ。……分かっててやったんだよ。滅茶苦茶事怒るって分かってる所を、平気で突つけるんだ」
「…………」
恋人を平気で嘲笑えるとか、やっぱアイツ人間じゃねぇわ。
人の皮を被った邪神か悪魔だ、あんな奴。
「酷いよな。けど私は、そんな神鵺だから好き。私は私だって、アイツが一番良く知ってる」
「……私は……私」
自分らしさって事か。
経歴も何もかもを通り越して、今ある自分が揺るがぬ真実だと。過去にも未来にも縛られない、本当の自分こそが価値あるものだと。
そう言いたいのか?
「信もさ。進化したんだから、生まれ変わったと思って割り切れば良いんじゃね? 機械だ何だって、見た目が人間なんだし関係ねぇじゃん」
「……」
見た目が人間、か。
まぁ、人を模して作られたもんだからな。
堕天してからの私は、人間の真似事ばかりしてきた。
人間と同じものを食って、人間の住むべき場所に住まって、人間として、周囲に認識されてきた。
あるときから、私の住む場所は純粋な人間の方が少ない化け物邸になった。
あぁ、そうか。
その頃から、自分が天使であった事に対する未練を無意識に蒸し返されてたのか。周りがらしく化け物してるから、人間の立場に甘えてた自分に、知らず嫌悪を抱いていた、と。
だから
馬鹿らしい事してたんだな、"自分"。
「……生まれ変わった、か……」
じゃぁ、私も惰性に甘えるのは止めにしようか。
もう不死じゃなくなったんだ。今度こそ、"生きる"事が出来る。退屈しない為じゃなくて、本当に。
「これからは神条 信でも名乗るかな」
「姉関係まだ引きずってたのか……」
「新しい私の誕生だ。今日から私は神条 信。神鵺の姉だ」
そうコロコロ変われるつもりは無い。
ただ、きっかけが欲しいだけだ。
"自分"が"私"でいられる為に。
本当の私を形成していけるように、神条の名を貰おう。
「アイツが何か泣かせるような事したら、私に良いな。こっぴどく叱ってやるから。お姉ちゃんだからな」
これは、長い旅路の始まりの一歩だ。
その見届け人が、まさか天宮 環奈になるとは思わなかったが。
「……おう。お前の愚弟は、ちょっとやそっとじゃ落ち着かねぇ
「あぁ」
神条 信。
新たな人生のスタートだ。
* * *
咄嗟にジェイクの入ってる機体にデータ転送したのが功を奏した。
何とか死を経験する前に逃げられたぜ。
自分の死体を片付けなきゃいけない事には軽く絶望を覚えたが、邸に帰れば
しかしまぁ、信も信で吹っ切れたっぽいから、ミッションとしては大成功。もう姉で良いからシッカリやってくれ。俺も暫くはデカい事しないと思うから。うん、ホントホント。
(……まだ、やるべき事はあるな)
そんなわけで、無事元の世界に帰還して後。
「この馬鹿!!!!!!」
予備肉体に乗り換えて戻ったら、レミィに滅茶苦茶怒られた。
泣きながら激怒する姿、初めて見るな。
分かってる。許されない事をしたって、馬鹿の俺でも分かる。
「何をしたかは分かってるし、理由も重々承知してます。マスターなら上手くやれるも知ってます。優さんにも視てもらいました。
一番怒るような事を選んだだけあって、必死さが違う。息子を使われたんだ、絶縁されたっておかしくない。それだけの事をした自覚はある。
「もう、あんな事しないで下さい……」
「…………」
レミィには、こう言う事しか出来ないって事も、知っていた。
俺は、本当に最低な事をした。
絶縁しても、レミィにはここ以外に生活出来る場所が無い。戸籍も存在しなければ、財産は主の俺持ち。補助を貰うのも辛い。そんな中、息子を連れて出ていくなんて事は自殺と同義だ。あるいは森に住むなんて道もあったろうが、今の世じゃ、それも許されない。そこまで分かった上で、俺はこの作戦を敢行した。
だから、この願いには報いる必要がある。
コイツは俺にチャンスをくれた。
主に、そして父親に相応しい俺だって、もう一度証明しよう。
「うん。約束だ。もう、二度と裏切らない」
「……約束です。絶対ですよ。破ったら、貴方の世界壊しますからね……!」
思わず抱き付いてくるか。
他に頼りが無いんだ。無くした信頼は、少しずつ取り戻していこう。
元から無いだろってツッコミは無しな。
「……肝に命じよう」
レミィとの問題も、これでひとまずどうにかなった。
ケインの爺さんは、持ち前の精神力で立ち直ってるし。ミキ姉はミキ姉で、アジ・ダハーカを完璧なものにする事に興味が移ってるし。
それじゃぁ次は……リトラだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます