#9 繰り返す"日常"

 太陽暦だかグリゴリオ暦だか、まあ何らかの暦で換算して、約五年ぶりに異世界に帰還。僕の開拓した国への凱旋。


 そんなマーティを待ち受けたのは現実同様荒廃した世界。


 


――なんて傍点で強調し殊更シリアス風に、驚愕の真実みたいな語りをしてみたが、なんてことはない。むしろ当然であると言えよう。


 盟主である僕とあらゆる要職についていた嫁達。挙句の果てに戦闘を担う精鋭部隊が揃って現実世界に転移したのだ。


 疑う余地もない正しい帰結。

 やばいなこれ。犯罪横行しまくりで疫病流行り過ぎ。


 時差ボケならぬ転移ボケもあり、思わしくない体調であるというのに、異世界に帰宅早々、かつての様に仕事が山積みである。


 長らく忘れかけていたクソみたいな社畜魂に鈍く火が点いた。これが奴隷の成れの果てである。


 僕の不在を受けて暫定的な宗主となっていたのは僕の息子。第一夫人ハーフエルフとの子供。


 って、あれ~五年で色々でかくなりすぎだろ。五歳のはずの長男がすっかり成人に見える。

 人間とは成長速度が違うのか? ならば僕の嫁は何歳だ? 外見年齢はハタチ前後に見えるが、これはひょっとして合法的なあれなのか? しかし、妻とは言えど、軽々に女性に年齢は聞けないので疑問符は静に胸にしまっておく。


 だが新たな疑念が振ってくる。肉体と年齢がちぐはぐ? ということは、見た目は大人で頭脳は子供? 逆少年探偵? 外見上は老人に見えてもその実、十数年とかしか生きていない可能性もある。外見の割に幼いオツム。子供のように迅速な理解や適応の柔軟性。


 


 この世界の確信に触れる考察は嫁達の慌しい声に遮られる。はいはい、サボらず仕事しますよー。


 異世界での仕事を片付けたら、現実世界に交代人員を連れて帰還転移。

 そこにある山のような仕事を形にして異世界にワープ。

 リピートリピート。壊れた蓄音機のよう。


 毎日の課題に翻弄されボロ雑巾の様に成り果てた僕は夜遅くに帰宅し、ベッドで待つ柔らかい肉の布団達に飛びこむ。

 彼女達ともみくちゃに本能的に混ざり、ぐちゃぐちゃに溶け合って、そしてそこでも果てる。


 仕事に生活の全てを支配され、家に帰れば寝るだけ。


 果てしない既視感デジャヴ


 現状は、仕事場が二つの世界に跨るだけで、転移前と同じじゃないか?


 異なる次元と世界の壁を超えた奇妙な符合。


 しかし、かつての僕と違うのは決定的に違う。

 

 恋人なし、企業の奴隷であった底辺サラリーマンの身分とは確定的に違う。


 遅い帰りを待ってくれる愛しい嫁達の存在。

 僕を持ち上げ甘やかしてくれる格下の存在。


 これだけあれば十分過ぎる報酬だろう。


 現実同様忙殺される毎日だって構わない。

 理不尽や不条理には慣れているし、それに耐えれば可愛い嫁と賛辞の声が冗談みたいに降り注ぐ。

 

 楽な仕事で雨のような報酬。夢のようだ。ならばこれでいいじゃないか。

 

 現実と変わらない、台座なんて無い異世界転移でも満足だ。


 変わらぬ日常を過ごして何が悪い?

 現実じみた異世界なんて最高じゃないか!

 異世界じみた現実なんて必要無い。



 もうこれはまともな『げんじつ』なんていらないぜ! まっぴらごめんだ!

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平凡でフツメンかつ底辺サラリーマンの俺が意味もわからぬまま軍師になり謎の尊敬を集めた挙句ハーレムを建国して現実に出戻り、現実世界のリア充どもを架空世界のチートで屈服させる話 本陣忠人 @honjin

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