講義一 限界突破の代償
なんでまともに食らってるわけ!?
教士として現場復帰したものの、ローザとリリィにはそれぞれ基礎的な練習メニューを課す。それから、二人には使った記憶がおぼろげだという
本来なら実際に魔法を使わせる形で復習させたいのだが、今の俺には万が一、二人の魔法が暴走した時に抑えることが難しい。
本当なら俺は自身の回復に専念しいところだった。今回は経過があまり芳しくない。
学園に復帰して三日ほど経っても魔法力がこれまで通り充填されることはなく、ついに四日目の午後に二人――ローザとリリィに、俺は呼び出された。どうやら二人ともしびれを切らしたようだ。
演習場のステージの真ん中で、マジックロッドを構えてリリィが声を上げる。
「もう走り込みばっかりでは飽き飽きですわ! 血反吐を吐くほど濃厚な個人レッスンを希望いたします」
「その血反吐を吐かないための基礎訓練なんだが……」
俺は溜め息混じりに返した。
リリィの隣に並び立ち、ローザが俺を標的に据えるようにマジックロッドを突きつける。
「そろそろ身体の調子も良くなったでしょ? あんまり怠けられてカイの戦闘感覚が鈍っても、こっちが困るのよ。弱いカイじゃ倒しても誇れないもの」
二人の瞳は真剣だ。仕方ない。やれるだけやってみるか。
「わかった。それじゃあリリィから……」
ローザが一歩前に出る。
「ずるいわ! ま、前みたいでいいから……ふ、ふふ……ふたり一緒に……」
リリィもニッコリ微笑んだ。
「ええ。ここは公平にお相手願いますわ」
ローザもうんうんと頷いた。
「そもそも、あたしたちの連携強化が必要なんでしょ? バラバラに戦うんじゃ訓練にならないんだし!」
柄の長いマジックワンドをバトンのように振るってリリィも臨戦態勢だ。
「カイ先生と一対一では、こちらもすぐにやられてしまいますものね」
俺はしぶしぶマジックロッドを両手でそれぞれ抜き払った。
「どうなっても知らないからな」
我が門下では訓練時も実戦用の魔法公式を採用する。練習用の仮想魔法には頼らないスタイルだ。
ステージに上がった途端、開始の合図も待たずにローザが炎矢を放った。同時にリリィがローザに加速の魔法を掛ける。絶え間なく連射される炎矢は、一つ一つの威力こそ抑えられてはいたのだが、牽制には充分すぎる。
俺はステージの床石めがけて黒の第三階層――地裂を放った。地形を変化させる魔法で、ステージの床石を跳ね起こして壁にする。
炎矢は石材を焦がしはするものの、穿つまでには至らない。宣言通り、威力ではなく手数重視か。
石壁の向こうからローザが吠えた。
「なんだかとっても地味な防御ね! けど、どんな防御も関係ないわ! このまま飽和攻撃でカイの選択肢を潰すから!」
リリィが頷きながらマジックワンドを振るう。
「相手が防御態勢を強いている間に、わたくしがローザを更に強化しますわ」
次々とローザに強化系魔法が付与された。このままではまずい……俺は石壁の裏側で正面に白の防御魔法――輝盾を積層展開させる。
三枚ほど輝盾を張ったところで、横殴りの雨のような炎矢の勢いが弱まってきた。石壁を挟んだ向こう側の様子を視認できないのはお互い様だが、白魔法で完全強化されたローザが構築している魔法がなんなのかは、大気のピリつき具合で見るまでも無い。
「撃ち抜け……
ローザが最も得意とする第七界層の雷属性攻撃魔法の完成だ。ローザを取り囲むように雷光の帯が渦巻いている。しかも貫通力を強化するよう槍術式とアレンジまでしてあった。
「いっけええええええええええええええええええええええええ!」
雷帝が唸り声を上げて放たれた。一直線に石壁めがけて打ち込まれた雷の槍は、壁を粉みじんに砕くと俺の目前に迫る。
すかさず黒の第六階層――吸魔でその魔法力を吸収しようとしたのだが……魔法公式の構築は完璧にもかかわらず、俺の魔法は発動しなかった。クソロッドの“重さ”を今の俺の魔法力は支えきれないらしい。即座に吸魔の公式を破棄する。
事前に張っておいた輝盾に魔法力を注いだが、目前で、パリンパリンパリンとガラスのように三枚が砕け散った。俺はその場でのけぞるように身をそらす。
かわしきれない。
雷槍が左肩を貫いた。反射的に治癒の魔法公式を展開する。だが、魔法は発動しない。起動のための魔法力が足りていなかった。
直撃部位から全身に雷撃がほとばしる。立っていられず仰向けに倒れてしまう。
二人の悲鳴と足音が近づいてきた。
「ちょ、ちょっと! なんでまともに食らってるわけ!? 回避も防御も妨害も無しなんてあり得ないでしょ!」
「カイ先生どういたしましたの!? あの程度の攻撃を受けるなんて、らしくありませんわ!」
ローザは「あの程度」扱いされたのにも気付かず、実に気まずそうな表情を浮かべていた。それとリリィ。
できれば呆然とする前に……俺に回復……魔法を……。
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