案外気に入ってるみたいだが?
魔導装甲車を学園都市に向けて走らせる。変わらず静かな夜は続いていた。月明かりの照らす荒野を快調に進む。
間もなく壁の支柱が見えてくる……ところで、突然車両が暴れるように上下した。
急ブレーキを掛ける。
「きゃあああああああああああああ!」
ブレーキの悲鳴とともに、後部座席に座っていたローザも金切り声を上げた。
車両は横滑りしながら、やっとその動き止めた……のだが、ズシン……ズシンと振動が伝わり車体が上下に揺れ続けている。
「ローザ。お前は中で隠れていてくれ」
「ちょ、ちょっとっ! なんなのよ急に!」
教え子に説明責任を果たすことなく、車から飛び出すと俺は周囲を見渡した。同時に、左手で抜いたロッドで車両に防壁の魔法を掛ける。今の俺の余力とクソロッドによる魔法でも、何もしないよりかは遙かにマシだろう。
岩場の広がる砂漠のような荒れ地は、周期的に振動している。
地震……ではない。震動源は移動していた。
だが、それを視認できない。俺は左手に白のロッドを握り直す。
「照らせ光球」
魔法公式を書き換えて、俺は光球を遙か上空に複数放った。
ボンッ……ボボンッ……
と、光球が上空に打ち上がる。この一帯ばかりが昼間のような明るさだ。
感覚を研ぎ澄ませ目をこらす。
光で照らすと蜃気楼のように、歪んだ部分が見えた。
黒のマジックロッドを握りかけて、手を止める。
俺の背後にローザが立っていた。車両から出て来てしまったか……とにかく、今は彼女を守ることが優先だ。
「ねえ! なんなのよあれは!?」
巨大な影は進路を北西に向けた。
「要塞級の異形種って奴だ。しかも視認しにくいよう、全身を光学的な迷彩で覆っていやがる」
ローザはへなへなと、その場に膝を着いく。
「あんなものがいるなんて……」
「まあ学園で教わるのは、せいぜい大きくても体長二十メートル程度の巨獣級までだからな」
目算でキロメートル級の定規が必要になる化け物なんて、学園の生徒が見る機会はそうそう無いだろう。
ちなみにこいつの倒し方はというと、強力な魔法で外部から破壊するか、侵入して内部から弱点を突くかだ。
外部からのアプローチには攻城兵器的な大規模攻撃魔法が必要となり、侵入する場合も要塞級の中にいる雑魚異形種との、気の遠くなるような消耗戦をこなさなければならなかった。
ローザがハッと顔をあげる。
「ほ、放っておいていいの!?」
「まあ、早いところ潰せるに越したことはないんだが……」
消耗している上に右肩を負傷。さらにマジックロッドは低級品でローザを守らなきゃならない。
さすがに乗り込んでいって暴れるのはしんどいな。ローザは立ち上がると俺に詰め寄った。
「じゃあ、ど、どうするのよ!? 見えない巨大な敵が学園都市に向かうかもしれないのに、ここで手をこまねいて見逃すしかないっていうの?」
「あいつは進路を北に変えつつあるし、おそらく狙いは壁の中央を支える前線基地だろう。基地の戦力なら攻略可能だ」
「けど……いきなり他の町に侵攻するかもしれないじゃない!?」
よっぽど恐ろしかったんだろうな。ローザは小さな肩を震えさせていた。
左手のロッドをしまうと、俺は彼女の頭をそっと撫でる。
「怖がることはないぞ。それを防ぐために
「…………そう……なんだ。っていうか、止めてよ恥ずかしいでしょ? こ、子供じゃないんだから!」
ローザは俺を睨みつけた……が、撫で撫ですると釣り上げた目尻がとろんと落ちる。
「案外気に入ってるみたいだが?」
「そんなわけないでしょ! ほ、本当に怒るわよ!」
俺は撫でるのをやめると「そうだな。あんまりやり過ぎると良さが薄れるし」と笑っってみせた。
「ば、バカ……」
ローザの頬がほんのり赤く染まった……かと思うと、辺りが闇に飲まれるように暗くなった。俺が天に放った光球がしぼむように消えていた。
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