限り無き灰色の魔法系統【アンリミテッド】

こんなのと一緒なんてごめんだわ!

 二人を連れて校舎に戻る。すぐにリリィを更衣室に向かわせて、運動着に着替えてもらった。


 面談室の席に二人を並んで座らせ、机を挟んだ対面で青いファイルを手に俺は訊く。


「一応、確認しておくが……俺の門下に立候補する気はあるか?」


 二人は同時に挙手した。ん? これは想定外だな。

 ローザがリリィを睨みつける。


「あんたはレイ=ナイトを師匠にするんでしょ? あたしは……こんな奴にも勝てないんだから、まずはこいつを倒せるくらい強くなるために……あ、あくまで研究のために門下に加わるというか……近くにいて観察して弱点を見つけて叩きつぶしてあげる」


 睨みつけるようにしてローザは俺の顔を見つめた。


 瞳は熱く燃えるようだ。やる気というか殺る気まんまんだな。


 そんなローザの言葉にリリィが長い金髪を揺らして立ち上がった。伸縮性のある運動着の上着越しに、大きな胸がゆっさり上下する。


「カイ先生の門下に加わるのは、わたくしを置いて他にありませんわ」


 ずいぶん態度が変わったものだ。リリィは自身の胸に手を添えるようにしながら、視線を俺に向け直した。


「どうか、わたくしをお選びになってくださいませ」


 ローザも負けてはいなかった。立ち上がって机に身を乗り出しながら、燃え上がるような熱視線で俺に迫る。


「選ぶなら当然あたしよね? 誰かさんみたいに、ことあるごとに口から血を吐いていたら、授業にならないと思うんだけど」


 すぐさまリリィもニッコリ笑顔で言い返す。


「お気になさらずに。あれは本気を出した時のバロメーターのようなもので、むしろ吐けば吐くほど強くなりますのよ」


 嫌な本気だな、それは。俺は溜息混じりに聞いた。


「二人とも急にやる気になって……どうしたんだ?」


 教士としての実力があるところは見せたが、ここまで効果てきめんとはな。しかし正直なところ門下は一人いれば十分だ。


 ローザが頬を赤らめながら伏し目がちになった。


「それは……ま、負けたからよ。このまま、あんたの元から去ったらそれこそ負け犬だもの。勝ち逃げなんて許さない。それに両系統の魔法を使いこなすだけでも驚いたのに……最後の風刃は連続詠唱なんてレベルじゃなかったわ。同時に魔法が発生したかと思ったくらいだもの。あの技、教えてくれるんでしょ?」


 ローザは並列同時詠唱パラライゼーションを超高速の連続詠唱と認識しているみたいだった。

 この二つは似て非なる魔法技術だが、説明しても今のローザには理解できないだろう。実際、ローザに打ち込んだ風刃は連続詠唱でも再現できるものだ。


 リリィが柔和な表情を浮かべて、目を細めた。


「わたくしはカイ先生を倒そうだなんて不届きな生徒ではありませんわよ?」


 仏頂面でローザが口元を尖らせる。


「あんたこそ、愛しのレイ=ナイトはどうするつもりよ?」


「もちろん心の師として仰いでおりますわ」


「二股かけようっていうの? とんでもない女ね」


「それはそれ。これはこれでしょう? 師が二人いても問題はありませんわ。そういう貴方こそ、シディアンとカイ先生の二股でしょう?」


「あたしの場合は標的が二つに増えただけで、なんの問題もないんだから」


 威嚇し合う猫同士のような二人に、俺は改めて告げる。


「わかった。二人まとめて門下にするからケンカするなって」


 一触即発の空気が霧散した。二人ともこちらに視線を向けて驚いた顔のまま固まる。


「学園長には『門下が一人はいないと困る』と言われてるんでな。もうこの際だから二人でも三人でも俺は構わない」


 再びローザとリリィがにらみ合った。


「「こんなのと一緒なんてごめんだわ!」」


 呆れるくらい息がぴったりだ。案外馬が合うんじゃないか?


「まあそういうなよ。それじゃあ二人とも俺の門下として登録申請しておくから、新学期からよろしくな」


「「ううううっ」」


 同じようなタイミングでうめくローザとリリィを残して、俺は面談室を後にした。

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