第四話【書き換わる世界①】

 誠二は気がつくと真っ暗な闇の中にいた。あたりを見回しても何も見えない。

『キミは何を望む?』

 突如、天から光が降り注ぎ、誠二の前をスポットライトを当てたように照らした。

 ウサギのぬいぐるみだった。毛の色は薄いピンクで、目は真っ赤なボタンが縫い付けられている。お口は黒いバッテンマーク。

『言ってごらん、キミは何がほしいんだい?』

『選ばないでいい、物語を』

 読者としても、『すくらぶ』が終わっちゃったら、たぶん悲しい。でも今は主人公セイジとして思う。五人のヒロインたちを悲しませたくない。ラブコメにおいて恋が報われるのハッピーエンドはたったひとり。それ以外の少女たちの恋心は実らずに物語が終わる。ラブコメは生まれたときから残酷な宿命を背負っているのだ。それならばいっそ終わらないでほしい。誰かひとりを選ぶなんてできない、したくない。誠二はそう思った。

『承知した』


 目覚めると、セイジの部屋の天井が見えた。夢か。そう思って上半身を起こした瞬間、部屋のドアがこちらに吹き飛んできた。

「セイジ! さぁ一緒に来てもらうわよ!」

 現れたのは金髪ツインテールのクラスメイト、リナだった。

「なんだよ、こんな朝から。デートの約束でもしてたっけ?」

「そ、そんなじゃないわよバカ星人!」

 リナが顔を真っ赤にして叫んだ瞬間、彼女の前髪からバチバチッと電撃がほとばしった。それらは部屋の窓ガラスを割り、誠二がちょうどさっきまで寝ていたベッドの枕を真っ黒に焦がした。

「なんじゃこりゃあ!」

 誠二がベッドから飛び跳ねて床をごろごろと転がる。

「私の〝属性能力〟は『エレクトロ・マスター』なんだから、当然でしょ?」

「属性? 能力? いったい何の話だ」

「と、とにかく、おとなしく付いてこないと感電死するわよ」

「わ、わかったよ」

 突然の非日常に目を白黒させながら、誠二がリナに従おうとしたそのとき、

「――ちょっと待ったああ!」「にゃあ」「ワン」「カーッカーッ」

 ドタドタドタドタ! バタバタバタ! と猫や犬やカラスがさっきほど割れた窓の外から一斉になだれ込んできた。それも数匹という程度ではない。次から次へと町中の犬猫たちが集まってきているのではと思うほどの数だ。

「うちのお兄ちゃんを勝手に連れてかないでもらえますか」

 犬猫たちがリナに飛びかかって、彼女はその重さに耐えきれず、倒れ込んだ。動物の下敷きになり苦しそうな顔をしながら、リナは妹のアオイに言う。

「これが、あなたの能力ってわけね」

「そう。『飼い殺しビースト・マスター』――あらゆる生き物を召喚し従わせる能力」

「でも、この私の前には無力ね」

 リナがそう言った直後、何かを嫌がるように動物たちが彼女から退き始めた。リナの身体がビリビリと帯電している。

「『照れ隠しエレクトロ・マスター』ですか。――ホントは猫大好きなんですね。可哀想に」

「す、好きなんかじゃないわよ!」

 直後、誠二の家に雷が落ち、部屋が真っ暗になった。

「はぁ!? これ、お前の仕業なのか?」

 誠二はリナに詰め寄る。しかし、妹のアオイがそれを遮るかたちで彼の前に立った。

「どうやら、あなたを倒さない限りセイジは手に入らないようね」

 リナが怒りの表情で前髪からビリビリと電撃をほとばしらせる。

「お兄ちゃんはゼッタイに渡さない――召喚サモン

 アオイがそう言った瞬間、三人の目の前の空間に謎の穴が開き、そこから赤く固そうな鱗と大きな翼を持つトカゲのような生き物が現れた。

 まさか、ありえない。誠二は驚愕で叫んだ。

火竜サラマンダーだと!?」

 直後、リナの放った電撃と火竜サラマンダーの口から飛び出した炎が衝突し、爆風が巻き起こる。それによって吹き飛んだ誠二は割れた窓から外へと投げ出された。

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