第二話【憧れのスクールライフ①】
妹のアオイは中学生だが誠二よりも先に家を出た。なにやら最近やたらとエンカウントする男子を避けるためらしい。一緒に登校してそのモブ男を殺してやろうかと思ったが、さすがにやめた。
「悪い悪い、待たせたな」
朝食を食べ終わり、食器を流し台に片づけた誠二はブレザーの制服に着替えると、玄関を飛び出した。
「……平気」
青髪ショートの女の子が静かに首を横に振る。林原ユキ。彼女は『すくらぶ』において、主人公の幼なじみだった。毎朝、家まで迎えに来てくれて、一緒に登校するのが日課である。
「あー、ユキ、お詫びに鞄でも持つよ」
しかし彼女はまたしても無言で首を横に振った。それから、静かに鞄を持ってない方の手を差し出す。
「手をつないでほしいのか」
こくり。ユキが誠二の目を見つめてうなずいた。
かわいい女の子と手をつないで登校する。誠二はユキの白くて小さい手を見ながら、ごくっと生唾を呑み込んだ。
「でも俺、けっこう手汗とかかいてるし」
「いい」
ユキは退く様子もなく、即答した。
「よし、わかった」
誠二はどきどきと高鳴る胸を押さえつけながら、おそるおそる手を伸ばし、ぎゅっと彼女の手を握った。
「んっ」
ユキの小さな唇からもれた声が妙に艶めかしく感じられる。
「ごめん、痛かったか」
「……大丈夫だから、このまま」
ユキは言葉少なげに言うと、静かにうつむいた。その横顔がほんのりと上気しているのを見て取って、誠二は彼女から目が離せなくなった。
「止まりなさい。セイジくん」
ユキと手をつないだまま校門をくぐろうとしたところで、凜々しい声に名前を呼ばれた。見ると、生徒会長の桂ソヨギだった。腰まである長い黒髪の彼女は誠二の前で仁王立ちしている。腕を組んでいるせいで、たたでさえ大きな胸が押し上げられ、その迫力を強調していた。
誠二が周囲を見渡すと、他にも三人ほど生徒会メンバーが立っており、それぞれ別の生徒に声をかけていた。止められているのは全員、制服を着崩している者ばかりだ。なるほど、朝の身だしなみチェックか。
「ワイシャツは中に入れる決まりよ」
ソヨギはそう言うと、誠二のスラックスに手をかけ、ベルトをかちゃかちゃとゆるめ始める。
「ソヨギさん、これくらい自分でやりますから」
誠二は慌てて押しとどめようとするが、彼女はまったく意に介さない。
「セイジから離れて」
となりで見ていたユキも助け船を出してくれるが、逆効果だった。
「ああ、林原さんは問題ないですから、先に行ってどうぞ」
「……」
ソヨギの口調は丁寧だが、目がまったく笑っていない。対するユキも無言で誠二の右腕に自身の腕を絡める。
「ちょ、ユキ」
一人で先に行く気はないようだ。彼女たちの視線がぶつかって火花を散らしているように誠二は感じた。ついでに周囲の生徒から冷ややかな目で見られている気がして、胃がキリキリと痛む。近くにいたメガネの男子がやれやれとため息をついていた。たしか彼は生徒会の副会長だったか。
「ネクタイも曲ってる」
ソヨギは誠二の首元に手を伸ばすと、ネクタイの位置を調整し、ぎゅっと締めた。
「ぐえっ」
きつく首を絞め上げられ、カエルがつぶれたような声を出してしまう。
そんな誠二に、ソヨギはぐっと顔を近づける。ほぼ密着しているせいで彼女の大きな胸が当たっているし、ほのかに甘い匂いが、誠二の鼻腔をくすぐる。
「あとで生徒会室に来なさい。お仕置きだから」
ソヨギは誠二の耳元で、そうささやいた。
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