第一話【目を覚ますとそこは二次元だった】

「お兄ちゃん、起きて! 朝ご飯冷めちゃうよ」

 ごふっ! 誠二はお腹に強烈な衝撃を受け、叩き起こされた。眠りを妨げた者の正体を確かめようと、目を開けると、見知らぬ少女が上にまたがっていた。濃い緑色のショートボブに翡翠色の瞳。白を基調として襟やスカートが藍色のセーラー服の夏服を着ている。

「誰だ?」

「もう、まだ寝ぼけてるの。そんなお兄ちゃんには、こうだ!」

 少女が飛び上がり、もう一度、どすん、と誠二のお腹の上にまたがる。彼女がジャンプした瞬間にスカートがめくれあがって、その中身がちらりと見えた。誠二は反射的につぶやく。

「水玉か」

「きゃー、お兄ちゃんのえっち」

 少女はそう言ったものの、本気で嫌がっているようには見えなかった。むしろ冗談めかして、「もう一回いっとく?」とか言うレベルである。

「ていうか、本当に誰ですか」

 誠二は困惑して問いかける。少女はわざとらしく、目元に手を当てて泣き顔を作った。

「お兄ちゃんひっどーい! かわいいかわいいを忘れちゃったの?」

「えっと……ごめん」

 しかし誠二に妹はいなかったはずだ。彼は首を傾げながらも泣いている少女に謝る。

「いいよ。もう、記憶喪失ごっこはあとにしてよね! じゃ、先に下に降りてるから早く来てね、

 去っていく自称妹のアオイという少女の後ろ姿を見ながら、ぼんやりと思う。なぜだろう。セイジ、と呼んだ声に聞き覚えがある。

 身体を起こし、周囲を見回してみる。ここはどこだ。誠二の部屋はこんなに広くないし、机や窓の位置も違う。そして、好きなマンガやラノベがぎっしり詰まったお気に入りの本棚もない。誠二は急いで床に飛び降りると、ベッドの下に身体を滑り込ませる。ない。ここに隠しておいたはずの秘蔵のエロ本がない!

 もしかして。

 目覚めたら、自分の部屋じゃなくて。存在しないはずの妹が起こしに来た。よく考えてみれば少女自身もおかしい。あんなに艶やかで自然な緑色の髪なんて見たことないし、翡翠色の瞳だって、カラコンを入れているようには思えなかった。まるで二次元のキャラクターみたいな美少女。

 ありえない。

 緑色がイメージカラーの、世話好きな妹。アオイという名前。誠二にはたった一人だけ心当たりがあった。本来マンガの世界のキャラクターである彼女が、さっきまで目の前にいた。

 まさか。

 ……『すくらぶ』の世界に来ちまったっていうのか。理解すると同時に誠二は歓喜した。

「やっほーい! 夢でもなんでもいい。ずっと覚めないでくれ! もしこれが本当に『すくらぶ』なんだとしたら、憧れの美少女との学園スクールライフがこの手の中に!」

「お兄ちゃん、うるさい! 朝から大声出したらご近所さまに迷惑だよ。それより、早く来てよ!」

 あのアオイちゃんが、直接お兄ちゃんと呼んでくれる。誠二は信じてもいない神に感謝してから、かわいい妹に答えた。

「今行く!」

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