第4話 東の空の赤い星
紅葉は、佐吉の左頬の傷をうっとりと撫でる。
「七つの歳に七星剣につけられたというこの傷は、あなた様の美しさをなにも損なっておりんせん。むしろ、より色気が増してござんす。江戸中の女を虜にしやす」
佐吉は黙って、紅葉に傷に触れさせていた。
「が、これ以上傷をつくらないでおくんなさい。七星剣のことはもういいじゃありんせんか」
紅葉がそう言うと、佐吉は紅葉の手をさらりと払って、再び背中を向けた。紅葉は、払われた手を佐吉の背に添えて、そのまま頰を寄せた。
「あなた様が美しい体に傷を作ってくるたんびに、わっちは死ぬ思いでござんすよ。あの刀のことは忘れなんし。何不自由ない暮らしをさせてあげる……あの刀のことは忘れなんし」
佐吉は返事をせずに、体を入れ替えて紅葉にのしかかった。
「お前が好きなのは、オレの器量でも顔でも声でもなくて、おれの身体じゃねえのかい?それもここだろ?」
紅葉の手を掴んで、持って行く。
「アレ、また誤魔化して……」
紅葉の抗議の声を、はははは、と笑い声で掻き消しながら、佐吉は女の帯を手早くほどいた。抱き寄せて女から自分の顔が見えなくなると、佐吉は笑顔を引っ込めて真顔になりながら、上の空で女の体をまさぐった。七星剣のことを諦める気はさらさら無い。
女の肩越しに東の空に星が見えた。見慣れない赤い星が大きく輝いていることに気づいた佐吉は、思わず女の腰を掴んでいた手を止めた。
「……どうなされた?」
「見てみねえ。いやに星が赤く光りやがる」
「アレ、あんなに大きく。あんな星見たことありやせん。ああ、怖い」
紅葉が、佐吉の胸に顔を伏せた。
「怖いことなどありやしねえよ」
そう言った瞬間、佐吉の左頬に痛みが走った。古傷が熱をもったように、妙に疼いた。
七星剣流星姫紅葉桜仇討(しちせいけん ほしひめの もみじさくらのあだうち) 日向 諒 @kazenichiruhanatatibanawo
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