奇跡

「なるほど。ゲリラ豪雨か、これは」

ファーストフード店の二階でウーロン茶を飲む俺は独り言をつぶやく

ファーストフード店は他に客の姿はない。

さっきまで角の席で騒いでたどこかの高校の生徒も、予備校が、テレビが、ユーチューブが、などと言いながら帰って行った。

高校生がいた時の店の雰囲気に慣れていたせいか、いなくなった後は無人島で一人になった気分になる。

いや、無人島は動物もいるかもしれないから、たとえとしては上手くはないのかもしれないな。

夕方に急に降り出した雨は激しさを増す一方で、外に人はほとんど見えなくなった。

自動ドアが開く

人が入ってきた。カップルらしい。

「おー。誰もいねえな」

「そうだね!って、いるじゃん」

「あ、ほんとだ。」

さっきまで高校生がいた席に座る

男女はむかいあわずに、隣に座ってくっついている

「食べれないでしょちょっと離れてよ」

「いいじゃん!誰も見てないんだしさぁ〜」

俺に聞こえる音量で喋っている。

無人島に、人がやってきた。

「急に雨が降るんだもん。びっくりだよね」

女が言う

「エミが昨日勉強してたせいだよ」

男が言う。どうやら、おんなの名前はエミらしい。

「違う違う。ゆうくんがテレビ見てたからだよ」

エミが言う。男の方は、ゆうくんと呼ばれている

エミとゆうくんはそれから数十分話し、黙り込んだ。

「もう食べれないよ。ゆうくんあげる」

「え、俺も食べれないんだけど。あのひとにあげなよ」

「え〜ゆうくんあげてきて」

なぜ、もらってもらえる前提であの二人は話しているんだと思いながらも、

内心、少し小腹が空いてたので嬉しい。

ゆうくんとやらが、俺に近づいてきた。

「あの、もしよかったらですけど、これ食べませんか?」

食べかけのハンバーガーを差し出す。

間接キスになることは気にしないのか。と思いつつ口には出さない

「食べます」

ハンバーガーを受け取った。

そして彼が背を向けて、エミのいる席へ戻ろうとした時。

俺はすかさず内ポケットから拳銃を取り出し、ゆうくんとやらの脳天を撃ち抜いた。

床に倒れるゆうくんをエミは遠くから目を丸くして、見ている。

「ゆう・・・・え・・・?」

驚いて、声を失ってしまったようだ。

食いかけのハンバーガーをゆっくりと咀嚼し、ウーロン茶で流し込む。

「悪くない。」

エミは動けなくなっていた。

何が起こっているのかも理解していなかった。

「ゆうくん!ゆうくん!?」

数秒して、ゆうくんに駆け寄るエミ

ゆうくんは動かない。

ゆっくりと俺の方を見る

「あんた・・・何・・?」

俺はまた、内ポケットから拳銃を取り出し

彼女の脳天を撃つ

ヒット。彼女が倒れる

ゆうくんに重なるようにして、エミが倒れた。

「ごちそうさまでした。」

また独り言を言い、店を出た。

無人島から、脱出する。

空は見違えたような晴天に覆われていた。



翌日



近藤大河は朝のニュースを見ていた

『ファーストフード店で、男女二人が射殺された事件で、犯人の素性、行方は未だにわかっていません』

リモコンでテレビを消し、エッグマフィンを口に入れる

朝からエッグマフィンを食べるなんて何年ぶりだろうか。

嬉しさがこみ上げてくる。

コーヒー牛乳でエッグマフィンを流し込む

ニュースの内容はもう、忘れてしまっていた。

学校へ行くと、女子生徒が数名泣いている

ニュースの話題をみんながしていた。

「おい!大河!悠一郎と恵美が殺されたってみたか!?」

健太郎が汗をかいている。走り回ってそれを言っているのだろうか。

「あぁ、見たけど、え、待って、悠一郎と恵美が殺されたわけ?」

近藤大河は初めてその事件の重大さに気がつく。

「そうらしい。犯人もまだ捕まってないみたいだし。なんで今日学校あるんだろうな。全校集会らしいぜ、今日」

「朝から嫌なニュースばかりだ。」

エッグマフィンを食べて優雅に浸っていた俺は心底がっかりした。

悠一郎と恵美は学年でもトップクラスの人気者同士で、お互いがお互いを人気だと認知もしていた。

美男美女カップルとは、まさしく彼らのことだろう。


集会はあっさり終わった。

朝のうちに返したかったんだろう。

生徒2名の訃報と、今日の授業は中止ということ、しばらくは家を出ないこと。

出そうだ。

メールで回せばいいのに。下校途中に被害にあったらどうするんだ。

と近藤大河は思う

それから担任が少し話し、集団下校になった。

ファーストフード店はしばらく休業になったらしい。





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傲慢と偏見とたらこ @KOTAMARO

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