雑記垂れ流し

@macaronibeam

蝋燭、雷、鍛冶屋

太陽が堕ち、永劫の夜に支配されてから、早いもので数十年が経った。意外なもので、人々は光を奪われた世界にすっかりと適応し、太陽を知らない世代がメインプレーヤーとして世界を回している。もはや光に固執し新たなる日の出を祈り続けるのは、私のように執念深く、女々しく、懐古主義の老害くらいのものである。

いつの日か現れるであろう勇者、太陽を飲み込んだ悪魔を滅ぼし、人々に光をもたらす救世主を祈り、私は今日も鉄を打つ。終わらない夜、孤独な工房は蝋燭の灯りのみをたたえ、すっかり悪くなった右眼を労わりながら、英雄の剣を拵える。揺れる火が消えないうちに、全ての想いを鋼に込める。蝋燭は、私の命だ。太陽に似た優しい焔が燃え続けいる間、大いなる輝きへの渇望を、光を失った無念を、再び朝日を顕現させるという決意が、槌の一振りに込められる。夜を引き裂く光の刃がまたひとつ生まれる。

何日も何日も。何ヶ月も、何年も。

来るべき闘いに向けて無数の剣生み出したが、未だ担い手は現れない。そのうちわたしも痺れを切らし、心の灯火も最期の輝きを放ちはじめた。

こうなっては仕方あるまい。少々役不足ではあるが、私が太陽を奪還する勇者を務めるとしよう。数十年の外は夜の気配が一層強く感じられ、導を失ってしまった日のことを強く想起させられる。今にも泣き出したくなるのを堪えながら、早足に野を駆け、山を越え、谷を渡り、海を往く。そのうち、一際大きな狼が見えた。この獣が、私の敵だ。一瞬。鍛えられた劔が雷となり、悪魔を焼き尽くす。その稲妻はまさしく、おとぎ話の魔法であり、神話の聖剣であり、裁きの光であった。

やはり、私の造る剣は至高である。

愉悦に浸っていると、声をかけられた、

「鍛冶神よ、人の試練を神が貴様が破っては意味がないであろう」

「許せ人の救世の神よ。夜はもう飽きたのだ」

夜が明けた。神の時代は終わらない。

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