第3話 契約
「で、依頼は近辺警護と調査ですか。」
黒咲は、真剣な眼差しで聞き返す。
「はい。」
「わかりました。では、今から書類を用意しますので、少々お待ち下さい。」
そう言って振り返る。その先に居るのは勿論あの先輩だ。
「そこのニート先輩、棚の二段目に入っている書類と、筆記用具持ってきてください。」
「誰がニートだ。それに、自分で取りに来ればいいではないか。」
「だって、先輩近いじゃないですか。それぐらいして下さい。」
「ふん、我にパシリさせるなど百万年早いわ!」
「せんぱーい、ここの家賃、誰が払ってると思ってるのですか?私が払わなくなったら先輩、住む所無くなりますねー。」
「ぐっ、卑怯だぞ眷属め。」
そう言いながら立ち上がり、書類を持ってくる。
「では、こちらに必要事項を記入して下さい。」
「わかりました。」
用紙に書かれている事は、必要最低限の事だけだ。住所、名前、性別、年齢、今回の依頼内容とその期間を記入するスペース、依頼料金の支払い額とそれに同意する為のチェック欄。そこに、藤崎は綺麗な字で空白を埋めていく。
「字、お綺麗ですね。」
「え、あ、はい。事務職業なので、沢山文字を書いていたら綺麗に…。」
「そうなんですか。羨ましいです。」
普段、文字をそんなに書かない黒咲にしてみれば、凄い事だろう。彼女の文字は、男がなぶり書きで書いた様な字だ。
「うむ、確かに上手い。お主、習字を習っていたな。」
「えぇ、昔に少し……。」
「よく、分かりましたね。」
「字を見れば、それぐらい分かる。文字を沢山書いていただけでは、止め、跳ね、払いの部分まで綺麗に書けぬだろう。」
そう言われ、黒咲は文字を注意深く見る。確か、言われた通り、止める所はきちんと止め、跳ねる所は跳ねてる。しかし、近くに座っている黒咲が注意深く見て気づくレベル。それを、立って眺めていた先輩が気づく事はまず有り得ない。
(マサイ族かっての!)
心の中で、ツッコミを入れる。だが、その注意力が優れているからこそ、先輩は探偵として信用が置ける。
「書けました。」
「ありがとうございます。」
用紙を受け取り、記入漏れが無いか軽く目を通す。
「……大丈夫です。では、最後に連絡先を教えて貰っても宜しいでしょうか。」
携帯をポケットから出し、同意を求める。
「あ、はい。こちらになります。」
藤崎は、同じく携帯を出し、電話番号が載ってる画面を見せる。素早くそれを自分の携帯に打ち込み、登録を終わらせ、確認も兼ねてコールする。
「大丈夫です、鳴りました。」
「その電話番号が、私の番号ですので登録しておいて下さい。これで、契約は終わりです、お疲れ様でした。では、明日から護衛に付かせて貰います。」
「分かりました、ありがとうございます。」
そう言って、藤崎はソファーから立つ。椅子に座ったまま見送る黒咲に、軽く頭を下げ出て行く。
「行きましたね。」
「……あれ、あの小娘、我に挨拶せずに帰った様な。」
「気のせいですよ。」
中二病探偵事務所 ユウやん @yuuyann
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