1-5 皆、変わり者なんだよ
「一言で言うなら、魔術師も極めし者と同じく、『気』を用いて異能をなす者だ。極めし者が格闘分野において『気』を闘気として扱うことに長けているのに対して、魔術師は様々な方面に『気』を用いる。極めし者や魔術師という言葉が、誰が決めたのか、どちらが早くそう呼ばれるようになったのかなどは判っていないがね」
「格闘のために『気』を扱うのが極めし者で、その他のために扱うのが魔術師、ということでよろしいですか?」
結の問いかけに一也はうなずいた。
「そうだね。さまざまな異能をまとめて『魔術』と呼んでいて、魔術を使うから魔術師、ということなのだろう。魔術師にはそれぞれに目指す目的があって、彼らが言うには『真理の探究』だそうだ」
「真理とはどのようなものなのですか?」
「例えば、医療に頼らない病気の根治だったり、そこから転じて不老を実現する方法だったり、どのような真理を追い求めるのかは個人個人で違う。扱われる異能も種々様々だ」
不老を探求とは、途端に話が大きくなったな、と結は驚きの息をついた。
一也は結の反応を見て軽く笑ってから続ける。
「そういう意味では、極めし者は『格闘術の有効利用を探求する魔術師』と言えなくもないかな。魔術師を名乗る者は、極めし者は格闘にしか力を使えない半端ものと見ているようだが」
結はなるほど、とうなずいた。
「他にもいろいろとあるが、今はこれぐらい知っておいてもらえたらいいと思う。今回は魔術師と敵対するわけではないからね」
ということは、力をよくない方向に使う魔術師もいるということである。
極めし者にも犯罪に加担する者がいるのは結もよく知っている。崇高な理想を掲げる魔術師にも、そういった輩がいるのだ。
「私の知らない間に君が魔術師と敵対するなどということにならなくてよかったよ。……それで、月宮静だが、彼女が魔術師だ。と言ってもまだどの程度のことができるのか、未知なのだけれど。有能な魔術師から見ても、魔術の才能はあるという話だ」
今までの話の流れから推すに、月宮がその魔術師だということは、説明されなくても結にも察することができた。
「だからグレーリストなのですね」
「うん。高校を卒業してから本格的に魔術方面に進もうと考えているのかもしれないな。もしかすると大学にも行くかもしれないがね」
今まで知らなかった魔術師の話に結は感心しきりだ。
しかし、疑問に思うこともある。
犯罪者でもなければ個人的に敵対するわけでもない相手に、そこまで警戒する必要があるのか、というところだ。
確かに、突然謎かけのようなことを居丈高に言われて、あまり気分のよい邂逅ではなかったが、月宮から渡されたリストに信ぴょう性があるならむしろ心強い協力者だ。
なのに月宮はグレーリストに入っている。
彼女が犯罪を犯す可能性があるということだろうか。
「なぜ、月宮はグレーリストに入っているのですか?」
結は心に浮かんだ疑問を一也に伝えた。
一也は、うん、とうなずいて答える。
「月宮は、というより、魔術師は皆、変わり者なんだよ。もっと悪いふうに取ると『不可思議な力を使って何をしでかすか判らない変人』といったところかな。誰も考えないような、考えても実現しようと本気で行動しないようなことを追い求める人達だからね。変わり者なのは当然と言えば当然かもしれない」
それはそのまま、世間から見た極めし者への偏見だな、と結は思う。
人は自分と違う物を恐れる。物を破壊し、人を傷つけることができる力となるとなおさらだ。
「極めし者は、動きや使う技が違っても根本的な対処は同じだ。極めし者の犯罪者に対応するすべが判っているわけだね。新たな不安要素が出てきても、対処法もまた考えだされる」
一也は結がうなずくと、一息ついて話を続ける。
「だが魔術師は、少ないと言われている極めし者よりも希少な上に、個々に求めるものが違いすぎる。さらに厄介なことに、彼らの探究心から生まれるものが世間に対して利になるか害になるか、その時その時で違うんだよ」
「同一人物でも、ということですか?」
「あぁ。場合によって敵対もするし、味方にもなる。今回月宮はきっと、そのリストに書かれた教師が嫌いだから追い出すのに協力する、ぐらいの気分なのだろう。もしも彼らに利用価値があるから去られると困る、と考えたなら、こちらの邪魔をしたかもしれない」
一也の説明に、魔術師が同じ異能者である極めし者にまで変人と称されるゆえんが判った気がした。
己の欲求や利益を一心に追い求めて、社会がどうとか、善悪がどうとか、という考えがない、あるいは少ない人達なのだろう。
犯罪に加担する極めし者と、そのあたりは共通していると言える。
(だから魔術師は犯罪を犯していなくてもグレーゾーン、なんだな)
魔術師という者達については、なんとなく理解できた。だがまだ疑問は残っている。
「月宮は、青井さんを知っているようなことを言ってましたが、知り合いなのですか?」
「直接会ったことはない。私は知り合いの魔術師から月宮のことを聞いていたにすぎないよ。月宮にもそういったコネがあるのだろうね。青井一也という男は諜報界で顔が利くらしい、みたいな噂じゃないかな?」
「その青井一也の息子として私の名前も聞いた、と」
「そうかもしれないね」
あの青井一也の息子なのに。
月宮の言葉を、失意と軽蔑が混じった声を思いだす。
彼女は一也が裏社会でどのような評価をされ、どのような地位にいるのかを、割と正確に把握しているのだろう。
そしてその息子である結にも、ちょっと話せば状況を理解するだろう、と期待をしていたのかもしれない。
あの時点で知らなかったことは仕方ない、と割り切りながらも、加藤が一也の指示通りに報告してくれていれば、と思わなくもない。
(魔術師という異能者だとしても、高校生に尊敬されようが軽蔑されようが、気にするべきじゃない)
結は気持ちを切り替える。
「この後の捜査ですが、富川探偵事務所でこのメモの詳細を聞いてこようと思いますが、それでよろしいですか?」
「それがいいと思う。それでは、引き続き頼むよ」
一也が立ちあがったので、結も倣う。
一礼して部屋を辞しながら、結は次の難題を考え始める。
(京都の
照子の友人に富川信司という青年がいて、信司とは直接会ったことが何度かある。
信司の兄が探偵だという話を、信司からだったか、照子からだったか、聞いた覚えがあるのだ。
うっすらとした繋がりが吉と出るか凶と出るか。
いや、吉にしなければならない、と、結は次の日に早速、富川探偵事務所にアポを取ることにした。
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