第44話 愛の手料理
鰍:今回のロケ、常に周りに誰かしらいるような状況だから、通話は出来そうにないにゃん。あと、あんまり頻繁にやり取りも出来そうにないにゃん(›´ω`‹ )
コレが中島かすみが地方ロケ初日の夜に送ってきたメッセージだった。
それなら仕方ないと俺は返信する。
鰍:すぐに反応は出来ないけど、たまにすばるが近況報告してくれたら嬉しいにゃん♡
するとこんな返事が返ってきたので、俺は優司と優奈が家に泊まる事になった話や泊まりに来た時の話を度々ラインで報告した。
色々ありすぎて文面だとどう説明していいかわからなかったので箇条書きで。
すばる:今度の金曜、優司と優奈がうちに来てバレンタインパーティーする事になった。泊まりで
すばる:優司と優奈は全面的に俺を受け入れてくれたけど、二人の中で俺がとんでもないクズになってる……
すばる:なんか二人に鰍や今後出来た鰍の恋人には手を出さないように約束させられたんだけど、どうしよう……
ちなみに、中島かすみからの返信は、二人が帰った翌日の
鰍:帰ったら詳しく話を聞くにゃん(ΦωΦ)
という一言だけだった。
忙しいのはわかっているけれど、以前はかなり頻繁にやり取りしていただけにちょっと寂しい。
昨日の稲葉との事も報告しようかとは思ったけれど、ケーキ関係の話は事前に話してハードルを上げてしまうよりはいきなり見せて驚かせたい。
しずくちゃんが帰ってからの事は完全なる俺の失態なので、わざわざ呆れられるために報告するというのも憚られた。
はやく中島かすみが帰ってこないだろうか。
そんな事を考えていると、ふと中島かすみのあの寂しそうな顔が浮かんだ。
結局原因はわからなかったな……そう思うと妙に胸の辺りがもやもやする。
知らず知らずの内に何か嫌われるような事を繰り返してしまって、愛想を尽かされたらどうしよう。なんて考えてしまう。
中島かすみはよく、おどけた様にプロポーズまがいの発言をしてくるけれど、いつも俺はそれを適当に流してしまう。
だってどこまで本気で言っているのかわからないから。
本気にして中島かすみに重いとか冗談が通じないとか言われたらきっと俺は立ち直れない。
相手の気持ちが一目でわかったらいいのに。
無理な事とはわかっていても、そう思ってしまう。
そんな事をうだうだ考えていると、玄関の呼び鈴が鳴る。
今日はすっかり恒例となった毎週の報告会だ。
中島かすみは地方ロケに行っているので、今回は俺と一真さんでそれぞれ稲葉やしずくちゃんの事を報告し合って、内容は後で俺から中島かすみに伝える事になっている。
「今日は残念なお知らせがあります」
挨拶もそこそこにリビングに通された一真さんはため息混じりに言った。
「どうしたんですか急に」
いったいどうしたのだろうと、お茶を出しながら俺も向かいの席に着く。
「須田さんが入院しました」
「え、何があったんですか!?」
予想外の報告に思わず声が大きくなる。
「原因は食中毒です」
「食中毒?」
「しずく嬢が急に家庭的な料理を作るのだと言い出して」
まさか、しずくちゃんの手料理を食べてそうなったというのだろうか。
「でも、しずくちゃんに料理手伝ってもらった時、あまりなれてないようでしたが、基本はちゃんと出来てましたよ?」
一真さんを疑う訳ではないが、先日のしずくちゃんの様子を思い出すと、そこまで料理に不慣れだったようには思えない。
手馴れた様子ではなかったけれど、包丁の持ち方も野菜の押さえ方もあっていたし、そもそも、初心者で多少失敗する事はあるにしても、そこまで大惨事になるものだろうか。
「簡単な作業なら問題は無いのですが……基本も知らずにいきなり応用編から始めたがるようなふしがありまして……ちなみに今回は通常十分に火を通さなければならない魚を生で出したのが原因です」
てっきり料理がマズ過ぎて、とか、そっちの方かと思ったけれど、ガチの食中毒だった。
「え、というか、それはしずくちゃんも大丈夫だったんですか!? 味見したり、一緒に食べたりしたら……」
「本人は味見に少しつまんだ程度だったので腹を下す程度で収まったようです」
一応しずくちゃんは無事らしい。
「というか、作ってる途中で誰かしずくちゃんに教えなかったんですか?」
「今回はどうしても自分だけの力で作りたかったらしいです」
俺が尋ねれば、一真さんは小さく首を横に振る。
これは、もしかしなくても俺のせいだろうか。
「多分、私に対抗して家庭的な料理を作りたかったのだと思いますけど、なんでいきなりそんな……」
「簡単かつ美味しそうなちらし寿司のレシピを見つけて、その程度なら自分一人でも再現できると思ったらしいです。まぐろを家にあった魚で適当に代用したのが原因ですね。そして料理が完成した時に運悪くその時近くにいたのが須田さんだったという訳です」
「うわあ……」
思った以上に酷い理由だった。
初心者の頃は何もわからない分、皆レシピ通りに作ろうとするものだと思っていたのだが、必ずしもそうと言う訳ではないらしい。
「明日には退院できるようですし、労災は下りるそうなのでその辺は安心ですね」
「それは安心ポイントなんでしょうか……」
さすがに須田さんが可哀相過ぎるので、今度何か差し入れを持って行こう。
そして、俺はある事を思い出す。
たまたま美咲さんとケンカした雨莉が乗り込んできて仕事を奪われてしまったようだが、以前しずくちゃんは稲葉の家に乗り込んで家事の一切を取り仕切ろうとした事があった。
となると当然、手料理を振舞おうとしていた訳で、もしかしたら稲葉はあの時、命拾いをしていたのかも知れない。
……しずくちゃんが再び料理を志してしまった今、今後の事はわからないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます