第43話 酒なんてもう飲まない
「何か、さっき言ってたデコペンについて、ものすごい誤解をされている気がするんだが……」
顔を引きつらせながら稲葉が俺の方を見る。
そして俺はしずくちゃんの反応を思い返しながらある結論にたどり着く。
「ち、違う! デコペンはそういう用途じゃなくて、ケーキの飾りつけに!」
「俺に説明してどうするんだよ」
慌てて俺が説明すれば、呆れたように稲葉がため息をつく。
「じゃ、じゃあ今からでもしずくちゃんに電話して誤解を……ああ! でも恋人同士でバレンタインに家に来てるのにムキになってそれを否定するのは不自然か!?」
どうしよう、どうするのが正解なんだろう。
でも、誤解を解くなら今このタイミングしか!
だけどなんて言って誤解を解くんだ? というかしずくちゃんからしたら、お前等の性生活の詳しい話なんか聞きたくないわ! ってかんじだろうし、そもそもそうだからこそ早々に帰ると言い出したわけで……。
混乱しながらそんな事を考えていると、稲葉に優しく肩に手を置かれた。
「将晴……もうその辺は置いといて飲もうぜ!」
それはもう完全に全てを諦めた顔だった。
まあ、既に付き合っているという設定である以上、肉体関係を持っているらしいとは思われている訳で、今更そのプレイ内容がイベントでちょっとはしゃぐこともあるようだ、位の内容になったところで今更大差は無いかもしれない。
が、精神的ダメージは当然ある訳で。
しかし、ここで酒に逃げるなんて……。
「いや、俺は酒は……まあ、稲葉ならいいか……」
が、結局相手が稲葉で宅飲みならそう気を使わなくてもいいだろうという結論に達した俺は、その後早速稲葉と近所のコンビニに酒とつまみを買いに行く事になった。
翌朝、俺は気が付いたらカラコンだけ外したすばるの状態で稲葉のベッドで寝ていた。
酷く痛む頭を抑えながら身体を起こして辺りを見渡せば、リビングの方から物音が聞こえる。
だいぶ乱れた状態の服を着直し、ドアを開ければ、散らかった部屋を片付けている稲葉と目が合った。
「お前は人前で酒は飲まない方がいいと思う。コレ一緒に飲んでたのが俺じゃなくて姉ちゃんなら、マジで雨莉に殺されかねないからな?」
と、顔を合わせるなり稲葉は疲れきった顔で言ってくる。
「え、おい、昨日何があったんだよ!」
「しかも憶えてないのかよ……」
何か嫌な予感がして稲葉に問いただしてみれば、かなりげんなりした顔で言われた。
「待ってくれ、マジで何があったんだよ!?」
また何かやらかしてしまったのかとだんだん血の気が引く。
「お前は俺がノンケで、かつ人間が出来た奴であることに感謝すべきだと思う……」
「え」
そして、稲葉は目を逸らしながら大きなため息と共に俺に言う。
「聞きたいか? お前があの後酒に酔った勢いで実際にしずくちゃんが言ってたチョコレートプレイを再現しようとした話」
「すいませんなんでもないです。ホントすいません」
俺はもう稲葉に平謝りする他無かった。
もう酒なんて飲まない。
改めて俺は胸に誓った。
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