第35話 一緒に寝よう!

 三人で実家に帰れば、父さんと春子さんは驚いていたけれど歓迎してくれた。

「優奈に成人式の写真を見られた時はどうなる事かと思ったけど、和解できたみたいで良かった……」

 春子さんはそう言って涙ぐんでいた。


「父さんは三人の事信じてたけどな! だって父さんと母さんの子供なんだから!」

 父さんもそんな事を言いながら、涙を堪えているようだった。


「だって頼りになるお兄ちゃんと、ずっと憧れだったすばるさんが同じ人だったとして、私は元々二人共大好きだったのに嫌いになる訳ないじゃない」


「兄さんもすばるさんも、ずっと僕の事応援してくれてて、相談にも乗ったり励ましたりしてくれて、僕はどちらにもとても感謝してるから……」 


 優奈と優司がそれぞれにまた随分と感動的なことを言ってくれて、その日の夕食は涙の味がした。


 そしてその日の夜。

 夕食も風呂も済ませて後は寝るだけになった時、優司と優奈が俺の部屋を尋ねてきた。


「お兄ちゃん、一緒に寝よう!」

 手に枕を持った優奈が目を輝かせながら言う。


「いや、なんでだよ」

「家族なんだから、たまには修学旅行みたいなノリで親睦を深めようと思って」

 家族だからと強調しながら優司が説明してくる。


「でも流石に一人分の布団に三人は無理だろう……」

「大丈夫、一階から客用の布団を借りてきた」

「マジか……」


 廊下を見れば、確かに二人分の布団が俺の部屋の前に積んである。

 その後は三人で協力して布団を敷く。

 俺を真ん中にして左右に優司と優奈の布団が敷かれた。


 この時点でなんとなく不穏な気配を感じてはいたが、一応二人が純粋に修学旅行ごっこをしたいだけかも知れなかったので、俺は黙っておく事にした。


 川の字に寝て電気を消した後、しばらくはポツリポツリと取り留めの無い話をしていたけれど、だんだんと瞼が重くなり、いつの間にか俺は寝入ってしまっていた。


 ふと寝苦しさで眼を覚ませば、左右から優司と優奈にがっちり抱きつかれていた。

 身動きが取れない。

 あと、暑い。


 少しずつ身体を捻ったり動かしたりしながら時間をかけてなんとか二人を起こさないように布団から脱出した俺は、そっと自分の部屋を出た。

 女の子の部屋に勝手に入るのは躊躇われたので、優司の部屋のベッドを借りる事にした。 


 翌朝、なぜか俺は優奈になんで部屋を抜け出して寝るなら自分の部屋のベッドを使ってくれなかったのかと文句を言われたが、怒るポイントが色々とおかしい。




「…………という感じだった」

「優奈ちゃんも優司くんも良い感じにブラコンに育ってるにゃん」

 俺が先週末の出来事を話し終われば、中島かすみは満足そうに頷いた。


「いや、別に俺としては家族として仲良くしてくれる分には一向に構わないしむしろ嬉しいんだけど、なんか……」

 なんか最近、優司と優奈の俺に対する距離が妙に近い気がする。


「身の危険を感じるかにゃん?」

「そこまでではないけど……」

 そう、そこまでいかないからこそ、対応に困っている。


「鰍は今、優奈ちゃんと優司くんから、家族ならどこまでくっ付いていいのかとか、距離を詰めていいのかとか相談を受けてるから、何か将晴の要望があれば鰍から二人に伝えておくにゃん」

「待ってくれ、何やってるんだ?」


 本当に中島かすみは一体なにをしているんだ。

「ラインのお悩み相談室だにゃん!」

 元気良く中島かすみは答える。


「えぇぇ……というか、どんな相談されてるんだよ」

「それは守秘義務があるから教えられないにゃあ」

 ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながら中島かすみが言う。


「将晴将晴」

「なんだよ」

 中島かすみが座っていた椅子から立ち上がったかと思うと、こっちまでやって来て俺を立ち上がらせる。


「鰍は将晴のためによく働いていると思うにゃん」

「まあ、そうだけども……」

 両手を繋いだ状態でソファーの方に俺を誘導しながら中島かすみは言う。


「今日は特に鰍を甘やかすにゃん。そうするときっと追々将晴にも良い事があるにゃん」

 俺をソファーに座らせると、中島かすみは俺の膝の上に頭を乗せる。

「はいはい」


 適当に返事をしながら中島かすみの頭を撫でる。

 こうしていると猫が懐いてきているようだけれど、きっと実際に手懐けられているのは俺の方なんだろうな、としみじみと思った。

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