第32話 計画通りだにゃん!
将晴に事情説明した翌日の夕方、鰍は優司くんと優奈ちゃんと、お互いにアクセスしやすい駅で待ち合わせして、そのまま駅近くのカラオケボックスに移動したにゃん。
他の人に聞かれると色々マズイ話なので、そこで話すのが一番安全だと鰍は考えたにゃん。
飲み物もセルフサービスのお店だったから、話の途中で店員さんがやってくる事もないにゃん。
三人でそれぞれの飲み物を持って部屋に入って席に座ると、優奈ちゃんと優司くんはとても不安そうな顔で鰍に色々と尋ねてきたにゃん。
特に心配するような事はないと言っていたけれど、本当にすばるに借金は無いのか、何か大変な目にあっているのではないか、というのが主な内容だったにゃん。
「大丈夫にゃん。将晴には借金も無いし、ギャンブルもしないし、お酒も滅多に飲まないにゃん。お金はむしろ、モデルの他にデザインの仕事や雑誌のコラム、バラエティ番組の出演とかで結構稼いでるにゃん」
鰍がそう答えれば、二人は少し落ち着いたにゃん。
「良かった……例え話なんて言ってたけど、本当の事も混じってたから、もしかしたら全部本当の事なんじゃないかと思って……」
心底ホッとした様子で優司くんは胸をなでおろしたにゃん。
「でも、それならどこまでが本当の事なんでしょうか」
優奈ちゃんは一瞬安心したような顔はしたけど、すぐにまた真剣な顔になって鰍に尋ねてきたにゃん。
「すばるさんの正体が実はお兄ちゃんで、コスプレとかモデルとかやってる事はわかりました。何か問題を抱えてる訳じゃないことも。だとして、一つ確認したいのですが、お兄ちゃんの彼氏って、どっちですか?」
その質問に、すぐに鰍はピンときたにゃん。
将晴はこの前稲葉を恋人として家族に紹介したけど、その前にすばるの彼氏だと言って一真さんとのいかにもラブラブな感じのツーショット写真を二人に見せてたはずだにゃん。
「あと、前にすばるさんはバイだって聞いたんですけど、それってつまり、お兄ちゃんもそうって事でいいんでしょうか、というか、だとすると鰍さんともなんかあったり……違ったらごめんなさい」
ソワソワした様子で目を泳がせながら優奈ちゃんが言葉を続けるにゃん。
あの一真さんとのツーショット写真は、すばるの彼氏持ちアピール用の物だったので、一目で恋人だとわかるよう撮られたものだにゃん。
だけど、一応高校時代から将晴の家族とは面識があって、この前、家族に恋人として紹介された稲葉の事もあるにゃん。
この場合、稲葉が本命の恋人だけど、優奈ちゃんと優司くんに正体を隠したい将晴は、知り合いの一真さんに恋人のフリをした写真を撮らせてもらったって事にしておくのが一番平和だとは思うにゃん。
だけど、それじゃあ面白くないにゃん。
二人の将晴の心配っぷりや、将晴の恋愛関係の事を尋ねてきた時の様子から察するに、思った通り将晴の女装趣味や、今までずっと恋心を寄せてきたすばるの正体について嫌悪感はなさそうにゃん。
むしろ、二人してソワソワしながら鰍の言葉を待ってる辺り、将晴の心配は杞憂だったように思えるにゃん。
そうとわかれば、鰍は存分に楽しませてもらう事にするにゃん。
「将晴……すばるの恋人は、なにも二人とは限らないにゃん。鰍とすばるは友達だけど、すばるはモテるからにゃあ……」
「……と、言う事は、逆に私が新たに恋人になる可能性もある、と言う事でしょうか?」
鰍が呟けば、どこか期待した様子で優奈ちゃんが聞いてくるにゃん。
「それはないと思うにゃん」
「なんでですか!?」
静かに首を横に振って鰍が答えれば、優奈ちゃんが鰍に縋りついてくるにゃん。
「すばるが優奈ちゃんや優司くんの事が大好きだからだにゃん」
「それは……どういう事でしょうか」
今度は優司くんが真剣な顔で鰍に尋ねてくるにゃん。
「すばるはずっと一人っ子で、小さい頃から兄弟というものにずっと憧れてたんだにゃん。親の再婚で急に弟と妹ができて、すごく嬉しかったらしいし、今でもよく将晴からは二人の話を聞くにゃん」
「兄さんがそんな事を……」
「お兄ちゃん、私達の事そんな風に思ってくれてたんだ」
実際に将晴が言っていた事を話せば、優奈ちゃんと優司くんはちょっと照れた様子だったにゃん。
「でも、だからこそ二人とは恋人のような崩れやすい関係じゃなくて、ずっと良好な関係でいたいと言ってたにゃん」
「そんなの、義理の兄妹だって結婚できるんだから、そうすればずっと一緒です!」
抗議するように優奈ちゃんは言ってきたけど、それを聞いてとうとう決定的な言葉が出て来たと思ったにゃん。
要するに、優奈ちゃんの恋心は今更すばるの正体が将晴だった所で消えず、隣で大人しく鰍の言葉を待ってる優司くんも小さく頷いてたから、多分同じような事を考えてるんだろうと鰍は思ったにゃん。
「だとして、結婚できるのは一人だけにゃん。仮にすばるが二人のうちどちらかを選んだとして、三人仲良くできるかにゃ?」
鰍がそう尋ねると、二人は言葉に詰まったようだったにゃん。
「すばるは二人の事が同じ位大好きみたいだからそこに差つけたいとは思わないはずにゃん。どこまでも大切で、大好きだから、二人とはそういう関係にはなりたくないって前にすばるが言ってたにゃん。」
性別云々の話は、過去にすばると一緒になれるなら性転換も辞さないみたな事を言ってたらしいので、ここは一旦省くにゃん。
「二人から嫌われる事をすばるはすごく恐がってるにゃん。女装を隠してたのもそれが原因だにゃん。だけど、恋愛にはかなり奔放な将晴にそこまで思われるなんて、二人は恋人よりも特別な存在だと思うにゃん」
兄弟という関係の優位性について話しながら、鰍はちょっとずつ餌を撒いていくにゃん。
「僕達が特別……?」
「恋人より……?」
訝しげに聞き返してくる二人に、鰍は大きく頷くにゃん。
「そうにゃん。恋人とは嫌になれば別れてそれでおしまいでも、家族はそうは行かないにゃん。恋人との関係を進めていけば、最終的にはその相手と家族になるけど、二人は既にその家族なんだにゃん」
「と、いうことはつまり、私達は既に恋人よりもランクの高い存在……?」
尋ね返してくる優奈ちゃんに、鰍はまた大きく頷くにゃん。
「その通りだにゃん。それに、恋人になったらなったで、多分すばるの恋愛関係でやきもきする事になるだろうから、兄弟と言う関係が、一番確実にずっと平和に一緒にいられるにゃん」
鰍の言葉を二人はじっと真剣に聞いて、しばらく考える素振りを見せた後、優司くんは口を開いたにゃん。
「……なる程、鰍さんの言いたい事はわかりました。でも、それなら少し聞いてもいいでしょうか?」
「なんだにゃん?」
「兄さ……」
「お兄ちゃんって総受けなんですか? 総攻めなんですか? 先程の奔放な恋愛関係と言うのを詳しく!!」
優司くんの言葉を元気良く遮って優奈ちゃんが尋ねてきたにゃん。
計画通りだにゃん!
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